| 休日。 は川土手を散歩していた。 今が一番いい季節だ。風も爽やかだし、気候も丁度いい。 アレから見習い期間が終了し、一人で色んなところに取材に行った。 勿論、なにわ拳闘会も同様である。 初対面の時の引っ掛かりの謎は解けないまま、は千堂や他の選手の取材をしていた。 「おっかしいなぁ?」 大抵のことは忘れる体質のがここまで気になるのは珍しい。『忘れる』と言うよりも、『考えるだけ無駄』と思ってすっぱり切っているのだが。 「切れないってどういうこと??」 独りごちる。 草の上に座り込んで川面を眺めていると背後から声がした。 「アンタは...」 振り返ると、そこにはどこか引っ掛かる男、千堂武士の姿がある。 「こんにちは」 の言葉に千堂は驚いた。 「なんや。東京から来たって言っとったから東京弁しか話せんのか思うとったわ。こっちの言葉もいけるんやな」 「まあ、そうかな。今日も練習ですか?」 「そうや。自分は、休みか?」 「そうです。今日のテーマはのんびりです。最近ずっと忙しかったからなぁ...」 そう言っては伸びをする。 千堂は徐にその隣に腰を降ろした。 「練習は?」 「ちゃんと今日のメニューこなすわ。なあ、それより。自分ワイとどっかで会ったことないか?」 真剣な千堂とは対照的には 「うわぁ。初対面でもないのにナンパですか?珍しい...」 と茶化す。 千堂の言ったそれは、自分も感じていた既視感。 でも、それについてとことん考えただがどうしても思い出せない。 千堂は大阪を出たことが無い。 だったら、千堂に会っていたとして自分がこっちに居たときの事になるだろう。 そして、こちらに居たときの思い出はあまり好意を持てるものではない。 「茶化すなや。けど、思いだせんのんや。自分はどうなんや?」 「私、大阪好きやないから。多分、千堂さんと会っとってもあんまりいい思い出やないと思うから、思い出したくないです」 そう言ったに千堂は何も言わなかった。 突然の携帯が鳴った。 「おわ?!なんや、携帯か...」 が携帯を開く。 「千堂さん、携帯持ってないんですか?って、ちょっと、覗き込まんといてください」 「ええやん、減るもんやないし」 「減ります。私のプライバシーが確実に!あ。ちゃんからや」 携帯に表示された文字を見ての表情が綻ぶ。 間近でその表情を見た千堂は更に眉間の皺を深く彫る。 やはり、どこかで見たことがある。 そんなことを考えているうちに、は自分に来たメールを読み終わった。 ふと、また手元の携帯を覗いてみると、そこには 「軍神やないか?!」 仲良さそうな3人が顔をくっつけあって画面にピースサインを向けている。 その中に千堂の知っている顔があったのだ。 「あれ?千堂さんちゃんのこと知ってるんですか?...あ、そうか。この渾名は鷹村さんの世界戦のときに付いたから。きっと応援に来てたとかで見たんですね」 「?...ああ、たぶんそんな名前やったなぁ。鷹村さんに紹介されたけど、あんまり覚えとらんわ。試合のことしか頭に残っとらんわ」 千堂らしいとはクスリと笑う。 本当、ボクシングをやっている人間はボクシング馬鹿だ。 あの気遣い人間の木村でさえ、試合前はとの連絡を途絶えてしまうと前に聞いた。 「そういえば。千堂さん。ちゃんのこと『軍神』だなんて呼んだら怒られますよ。というか、返事をしてくれませんよ。彼女、認めてませんから」 「何や。強そうでええのに...」 「いや、女の子に『強い』なんて言うものじゃないですよ。...ところで、練習。本当に大丈夫なんですか?」 に言われて時計を見た千堂は勢いよく立ち上がる。 「アカン!ほな、ワイは練習に戻るわ」 そう言って走って行った。 しかし、ふと立ち止まり 「なあ、今度メシどうや?」 とに声を掛ける。 「そうですね。千堂さんのおごりでなら」 とイタズラっぽく笑いながらは答えた。 「まあ、それくらいなら。ほな、自分の歓迎会やな。...ところで、名前、何やったっけ?」 は顔を引き攣らせた。 そして、恐ろしく目の笑っていない笑顔で 「次に会うときまでに思い出しておいてくださいね?勿論、誰の力も借りずに!」 と言って千堂とは間逆の方向へとスタスタ歩いていった。 |
桜風
07.6.2
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