愛しきみ 5





と話をしてジムに戻ると案の定柳岡に怒られた。

ついでに、本日のメニューも増やされてしまった。

「千堂。携帯買うたらどうや?」

そんなことも言われた。

確かにあったら便利そうだが、逆に不便そうでもある。

何せ、四六時中捕まる可能性が出る。

うーん、と悩みながら練習をしていたら更にメニューを増やされた。

これ以上メニューが増えると大変なので、千堂は練習に集中した。


家に帰る途中、やっと思い出した。

「そうやった。。...やっぱりどこかで聞いたことある名前やなぁ」

そんなことを思いながら千堂はある大切なことを思い出した。

の連絡先は職場のしか知らない。

彼女と連絡を取ろうと思ったら、会社に電話を掛けるしかないということだ。

仕事の話でもないのに会社に電話を掛けるのはどうかと思う。

本気で携帯を持とうと考え始めた。



結局取り敢えず連絡先を知らないのだから会社に電話を掛けるしかなく、千堂は約束を取り付けるためにに電話をした。

「本気で言ってらしたんですか?冗談かと思ってましたよ?」

そんなことを言われて薄っすら傷つく。

「本気や。まあ、ええ。で、いつなら空いとるんや?」

の都合を聞いてさっさと約束を取り付けた。




約束の日。

早めに家を出て千堂は待ち合わせ場所に向かった。

丁度すぐ側に携帯ショップがある。

少し離れたところから店先に並んでいる携帯電話を眺めていると

「千堂さん?」

声を掛けられた。

慌てて振り返ると仕事帰りのが立っていた。

「ああ、今日も仕事やったんやな」

「ええ。...携帯、買い換える予定なんですか?」

「いや。そもそも持っとらんわ」

「持ってないんですか?!イマドキ珍しいですね。じゃあ、買うんですか?」

心底驚いたようにが言う。

「まあ、買ったほうがええんか考え中や。柳岡はんが持て言うけど、どうもそういうのは好きやないし」

「ああ、確かに千堂さんはそんな感じ。自由を愛する男って雰囲気ありますよ」

「何やの、それ?やっぱり、面倒なんか?」

「ええ。どこでも連絡をつけれるって便利ですけど、不便ですよね。ちょっとした連絡を取るのには本当に便利ですよ。最近公衆電話も消えていってることですし」

の話を聞いて千堂は腕組みをして悩み始めた。

「頭で考えたって仕方ないし、見るだけ見てみたらどうです?気に入ったのが有れば買えばいいし、欲しいと思わなかったらそのまま買わずにいればいいし。ちょうど、あそこは私の持ってるのと会社が同じですよ」

とさっき千堂が眺めていた携帯ショップを指差す。

まあ、確かに見るだけ見て買わなくてもいいかと思いながら携帯ショップを目指した。


結局千堂は携帯を持つことにした。

以前偶然に会ったとき、が友人から来たメールを見ていた顔を思い出した。

そのときの嬉しそうな表情が忘れられなかったのだ。

もしかしたら、自分もにそんな表情をさせることが出来るのではないか、そう思ってしまった。

しかし、そう簡単には行かない。

こういうものが苦手な千堂はの携帯の番号、アドレスの登録に一苦労だった。

「ですから、これで、ここのボタンを押して...」

「ど、どれや?」

と全く同じ機種を購入して、使い方を教わるが、上手くいかずにイラつき始めていた。

「じゃあ、今教えたとおりにメールを打ってみてください」

に言われて短文を打ち、送る。

「あー。来ました。OKです。これで、いつでも連絡が取れますね!」

そう言って笑うに千堂も嬉しくなった。



それから、千堂はこまめにと連絡を取っていた。

何度も食事に行ったりと、よく会うようになっていた。


その状態はいやじゃない、寧ろ楽しい。

はそう思っていたのだが、自分の中にそれとは逆の感情が有ることにも気付いている。

「だから、ちゃんの居ない土地はイヤなのよ...」

先ほど来たメールを眺めながらは呟いた。

それは、千堂からの食事の誘いのメールだった。









桜風
07.6.9


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