愛しきみ 8





大阪に帰っては初めて知った。

「え...試合?!」

「そうや。宮田選手、試合が決まったんや。今かなり注目されとるやろ?何や結婚もしたらしいけどな。ああ、これは言うたらあかんみたいや。ヨメさん大変なことになりそうやしな。
でも、結婚してからも変わらずクールでクレバーやな。ちゃんとチェックしてるんか?今、いや、前から注目されとる選手や」

「知ってますよ!だって私、奥さんと仲良しなんです。そして、その奥さんは旦那の外と中のギャップに未だに戸惑っています」

何て言えるはずも無く、

「はい、一応」

と、大人しく頷いた。

「でも、何でまた大阪で...」

宮田の本拠地は東京だ。大阪まで来る意味が分からない。

「ファンのためやないんか?ヨメさんも貰うて、さらにええ男になったなぁ。女にキャーキャー言われてるだけやないっちゅうことやな」

『ええ男』と言う単語に少々、いや、かなり疑問を抱きつつもは指示されたセミファイナルの選手の取材に出かけた。


しかし、困った。

東京でに教えてもらった『好き』と言う気持ちについてしっかり見つめなおそうと思っていたのに。

こうも自分が忙しくては千堂とは逢えないではないか。


の予想通り、千堂から連絡は来るものの、自分が忙しすぎて千堂と過ごす時間は無かった。



試合前日。

自分のコネで手に入れたチケットを握り締め、は電話を掛けた。

千堂に誘われたが、断った。

どうしても一緒に試合を見てほしい人が居たのだ。


その人はファイナルギリギリにやってきた。

「ごめん!」

「大丈夫。ファイナルはこれからだよ、行こう」

2人は急いで会場に入っていった。

そして、揃って早く会場に入って良かったと心から思った。

試合開始のゴングが鳴って間も無く、宮田のKOで試合が終わった。

「見ごたえの無い人だね...シュッ、パンで終わっちゃったじゃん」

「うーん、そかな?」

の独り言に彼女はそう答えた。


試合が終わり、これまたのコネで控え室に向かった。

と言っても、報道陣が引いた後だ。


「なあ、キサマ結婚してるって聞いたで?」

「ああ、そうだよ。だから、お前と話してる時間は無い。俺はすぐに帰る」

「そうつれなくするなや。知らん仲やないんやから。ヨメさん、どんな人や?」

控え室からそんな会話がもれてくる。

「後にした方が...」

「ううん、この問いについての回答は私が是非とも聞きたい!」

袖を引っ張られても、は頑としてドアの前から動かない。

宮田はふぅー、と大きな溜息をつく。

「お前には勿体無くて教えられない」

「何やの?つまりは、大したことの無いヨメさんなんやな?」

「何だと?」

宮田は千堂を睨む。

ちなみに、ドアの向こうでもが小さく、しかし、宮田と同じ感情で同じ言葉を口にした。

「お、大人気ないよ、2人とも...」

そう言ってまたもやの袖を掴んで止めていたがはそれを振り切り、ドアを派手に開けた。


「ちょっと、千堂さん。さっきの一言。聞き捨てなら無いわ!」

さん?!」「!」

中に居た2人は驚き、そして、後から困ったように入ってきた人物を見て、またもや

!」「軍神?!」

と同時に名を口にする。

「軍神じゃありません、千堂さん!...お久しぶりです。お元気そうで」

「ああ、元気や。しかし、何でまた自分がここに居るんや?」

気さくにに話しかける千堂の前にが立ちはだかる。

「な、何や?」

「千堂さん。さっきちゃんのことなんて言いました?大したことない?それは無いんじゃないですか?」

「いや、...」

「そうだぜ。言っていいことと悪いことがあるって分からないのか?!」

「ちょっと、宮田君...」

「な、何のことや?」

2人に責められて千堂は後ずさる。

「ちょっと2人とも、やめなさい。千堂さん困ってるよ?知らないんだから仕方ないでしょ?!」

にそう言われて2人は黙った。

「何..やったんや?」

「いや。えーと...宮田くんの不肖のヨメです」

そう言ってが深々と頭を下げた。

3秒の間があり、

「は?」

千堂から間抜けな声が漏れた。

「だから、が俺の奥さんだよ。...来れないって言ってなかったか?ここのところ仕事が忙しいって」

「うん、必死に今日の午前で終わらせたの。にお願いされたし」

さん?」

そう言って宮田はを見る。

は自慢げにグッと親指を立てていた。

「残念だねー。ちゃんは私のために来たんだよ。わ・た・し・の・た・め!宮田君のためじゃないんだ〜」

そう言いながら宮田の側に居たを自分の方に引き寄せた。

「ちなみに、お泊りです」

更には宮田に追い討ちを掛けてみる。

案の定、宮田は非常に悔しそうに顔をゆがめた。それを見てはほくそえむ。

やはり宮田をからかうのは楽しい...

!あ、あのね、宮田君。夕飯、冷蔵庫に入ってるから。...今日、帰るんだよね?あと、今日もおめでとう。宮田君の試合にはギリギリで間に合ったんだ」

「ああ、ありがとう」

「まあ、安心してよ。私、明日も仕事だし午前中にはちゃん返してあげるから」

に怒られて反省したが宮田にそう声を掛けると、

「当然だ」

宮田も笑いながら答えた。

「なあ、自分ホントにこの男でええの?一緒におって楽しいんか?」

いい加減戻ってきた千堂がにそう聞くとは言葉は無く、ただ幸せそうに微笑みを返した。










桜風
07.7.7


ブラウザバックでお戻りください