初めまして
「おいおい。」 8月。夏休みに入って間もなく、はある建物の前で途方に暮れていた。 先日、父親が、 「友達の友達がその友達から『アルバイトに来てくれそうな子を探しているから頼めないか』と言われて探している。」 と言われて快諾してしまったらしい。 酒の席での約束事とはいえ、約束は約束。 仕方なく子供に頼むことにしたが、長女は受験生。末の息子はまだ中学生。 自動的に次女で高校生のがアルバイトを引き受けることとなってしまった。 だが、が地図を頼りにたどり着いた先は、『鴨川ボクシングジム』。 地図の番地を確認しても間違いはない。 何度も看板を見るが、やっぱり『ボクシングジム』とある。 父親は『ジム』と聞いていた。 それを聞いては勝手に『事務』と変換していた。たぶん父親も同じだったのだろう。 「おいおい。」 は、途方に暮れていたが、腹を括った。 ジムのドアに手を掛けようと伸ばした途端、勢い良くドアが開く。 (うわ!?でかッ!) は慌てて手を引っ込め、ドアを開けた人物を見上げる。 何やら無駄に偉そうな男はを見つける。 「なんだ?オレ様のファンか?ジムにまで押しかけてくるなんて熱心だな、ボウズ。中坊か?」 少し、というより全てが勘違いのことを上機嫌で口にする。 はボクシングを見たことがないのでこの男の事は知らない。 性別は女だし、高校1年生だ。 しかし、性別や年齢を良く間違えられるは大して気にせずに口を開く。 「あの、ここに八木さんとおっしゃる方はおられますか?」 「八木ちゃん?お前八木ちゃんに用事があるのか。...じゃあ、まあ付いて来い。」 そう言って男はジムの中に入っていった。も続く。 「あれ、鷹村さんロードへ行くんじゃなかったんスか?」 「その後ろに連れている子、どうしたんですか?」 「ああ、こいつ八木ちゃんに用があるらしいから事務室に連れて行ってやるんだよ。」 は二人に会釈をして鷹村に続き奥に入っていく。 二階に上がり、事務室に入る。 「おう、八木ちゃん。こいつが八木ちゃんに用事があるんだとよ。おい、あの人が八木ちゃんだ。オレ様はもう戻るぞ。」 は「ありがとうございました」と丁寧にお辞儀をした。 「おう」と短く返事をして鷹村は出て行った。 「えーと、さんかな?連絡は貰っているよ。取り敢えず、そこに掛けて待ってて。会長を呼んでくるから。」 そう言って八木が事務室から出て行った後、は深呼吸をして落ち着く。 ここに来て少ししか経っていないのに、緊張のしすぎで随分疲れた。 少しして、八木が威厳のある老人を連れてきた。 「さん、こちらがこのジムの責任者で、鴨川会長。そして私が、マネージャーの八木です。」 面接が始まった。 バイトの時間は、月、水、金曜日の17時から21時の4時間。 テスト期間中は休みにしてくれると言う。 が学校のクラブ活動をしていると言うと、忙しくなったら始まりを1時間削ってもいいと言われ、 それが無理ならもう1時間なら何とか削れると言う話になった。 自身、クラブの顧問、仲間からアルバイトの了承を得ているが、 両立できなかったら自分の本業は高校生だからクラブ活動を取りたいと話しても了解される。 はこんなに融通が利くものかと少し不安になった。 しかし、にアルバイト経験は無く、姉も今時珍しくアルバイトをしていなかった為、そういうところの事情は良く分からない。 まあ、悩んでいても仕方が無いと思って話を続ける。 仕事内容の説明と、時給などの話を一通り済ませる。 はもうひとつ気になることを話したが、それにも理解を示された。 ここまで話してお互いに断る理由も無く、の採用が決まった。 「じゃあ、下でさん紹介しないと。 練習生は30人位いるんだけど、きっとさんは全員には会うことはないと思うよ。 ウチにはプロが3人。プロを目指している子が1人いるんだ。彼らとは毎回会うんじゃないかな。さんと同じ年の子もいるよ。」 階段を下りながら八木は説明をした。 「なあ、木村。さっき鷹村さんが連れてきたガキ、入門希望者かな?」 「あん?何だよ、青木。あの女の子か?」 サンドバックを叩く手を止めて答える。 「女の子?!どう見てもヤローだったじゃねぇか、あの中坊。なあ、宮田はどう思う?」 「さあ、俺は席を外していましたから見ていませんよ。」 宮田と呼ばれた少年は縄跳びをしながら答えた。 「いや、女の子だろ。線が細かったし。まあ、かなり髪が短かったし、ジーパン穿いててナリは男みたいだったけど、たぶん女の子だろ。」 「いーや、ヤローだ。よし!なら賭けるか!?俺は男の方に5000円!」 「乗ったぁ!女の子に5000円!宮田は?」 「だから、俺は見ていませんから知りませんよ。」 3人がこんな会話をしている時、八木がを連れて降りて来た。 「あれ、鷹村君は?ロードか。じゃあ、あとでいいや。 木村君、青木君、宮田君、ちょっといいかな。」 呼ばれた3人は八木の許へ集まる。 「こちらは、明日からアルバイトに入ってくれるさん。さん、彼らがプロボクサーとその卵。 右から、木村達也君、青木勝君、宮田一郎君だよ。」 体格のいい男3人が目の前に並んでいる光景には怯んだが、ここまで来てビビッてても仕方がないと覚悟を決めて、口を開く。 「です。宜しくお願いします。」 が一礼をして顔を上げると、木村と青木が何やら深刻そうな顔をして自分を見ていることに気付く。 「八木さん、中学生ってアルバイトしても良かったんですか?」 と、木村。それに続いて青木が、 「『』なんて女みたいな名前だな。小学校でいじめられなかったか?」 などと口々に言うので八木が慌てる。 「ちょっと、二人とも違うよ。さんは、宮田君と同じ高校1年生で女の子だよ。」 「「高1!?」」 木村、青木は驚きの声を上げる。宮田も少し驚いた様子だ。 (そんなに童顔かな?) が考えていると、勢い良くジムのドアが開き、鷹村が帰ってきた。 「おう、ボウズ。八木ちゃんへの用事は済んだのか?」 を見つけて話しかける。 「鷹村さん、女の子だそうですよ。ついでに俺と同じ年らしいです。」 「何?!それは本当か、宮田。こんなペッタンコが16?!」 (ペッタンコ...ああ、そうだね。ないね、ムネ。) は事実なのであまり気にしていない。 「初めまして、です。明日からここでのアルバイトが決まりました。 宜しくお願いします、えっと、鷹村さん?」 鷹村の発言に驚き、フォローを入れようとしていた4人はのあまり気にしていない様子にとりあえず安堵した。 が帰った後、木村に渋々5000円を払う青木の姿が目撃されたのは言うまでもない。 |
連載は、原作(アニメ?)に沿って、と言っていますが、まだ1巻になっていません。
あと、9話分オリジナルな話が続きます。
桜風
04.8.1
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