危機?!



新学期が始まった。がアルバイトを始めてそろそろ1ヶ月だ。

「こんにちは。」

ジムからわりと近いところにある学校の制服を着たが来た。

「お、ちゃん。そうか今日から学校か。その制服、ちゃんってこの近くの学校だったんだ。」

「こんにちは、木村さん。そうなんですよ、結構近いんですよ。でもこんなところにボクシングジムがあるなんて知りませんでしたけどね。

これからロードですか?気をつけてくださいね。」

「ああ、ありがとう。」

そう言ってロードワークに出て行った木村を見送り、は奥へ向かった。

別室で着替えた後、事務室へ向かう。


は仕事を覚えるのが速く、正確な上によく気が付くしプロのメンバー(卵も含む)とも打ち解けている。

学校のクラブ活動があるからこの先バイトの時間を削らなくてはならないこともあるだろうが、それを差し引いてもお釣りがくる、というのが八木の評価である。

「こんにちは、八木さん。今日は何をしましょう。」

着替え終わったが事務室に顔を出す。

仕事の種類が多いので毎回八木に聞くようになっている。

八木が留守にするときは事前に言っておくか、事務室のボードに書き置くようにしていた。

「じゃあ、まずは買出しに行って来てくれるかな。これがリストで、はい、財布。」

「はい。それじゃあ、行って来ます。」

リストと財布を受け取っては階下に降りる。ジムを抜けて外へ出て行こうとジムの中を歩いていたを鷹村が呼び止めた。

「おう、。これから買い出しか?ついでに飲み物を買ってきてくれや。」

そう言ってにコインを渡す。それを見た練習生も便乗する。

「別に構いませんけど、買出しのついでという形になりますから遅くなるかもしれませんよ?それでもいいですか?」

「オレ様は構わねぇ。」

練習生たちもいいと言うのでリクエストを手に直接書いては出て行った。


宮田はロードの帰りにヨロヨロと重そうに袋を持って歩いているを目にする。

さん。」

が振り返ると宮田が居た。そういえば今日は見ていなかったな、とぼんやり思う。

「お疲れー。」

「いや、どう見ても疲れているように見えるのはさんだろ。何をそんなに重そうにしているんだよ。」

「うーん。今日のジムの買出し、ちょっと多かったんだよ。その上、鷹村さんたちのお遣いも引き受けちゃって。

さすがに缶ジュース17本って重いね。」

缶ジュース1本350ミリリットルと考えて計算すると、約6キロある。結構な重さだ。

その上ジムの買い物も持っている。

細い体をしたにはちょっとキツイだろうと考えて宮田は溜息を吐き、が持っている缶ジュースの入っている袋を奪う。

「持つよ。」

「でもジムに帰るまでがロードじゃないの?」

「そんな事言ったって、さんこのままだとジムに着く前に倒れかなないだろ?大丈夫だから。でも何でこんなにたくさん。」

「買出し行く前に鷹村さんに頼まれて、その時一緒に他の人も頼んできたから。鷹村さんがいいのに他の人がダメって不公平でしょ?だから。」

宮田はあきれた顔をして、の少し前を歩いた。


と宮田がジムに帰って来た。

宮田は、ベンチに缶の入った袋を不機嫌に置く。

練習生の中には帰ってくるのが遅いと文句を言う者もいたが、

(頼んだ奴が文句言うなよな、少しは遠慮しやがれ。)

と宮田に睨まれバツが悪そうに視線を逸らす。

ちゃん。これ、あいつらが頼んだの?断りなよ、パシリはちゃんの仕事じゃないんだからさ。」

が買い出しに行っている間に帰ってきていた木村が心配する。

「え、あ、はい。頑張ります。宮田君ありがとう。」

そう言っては奥へ行こうとしてドアを開けたが、何かを見つけ素早くドアを閉めて後ずさる。

着替えるためにロッカールームに向かおうと後ろに立っていた宮田にぶつかった。

「何、どうかしたのか?」

訳が分からない宮田はドアの前で固まっているを移動させ、ドアを開ける。

そこで見たものは、何故か全裸でうろついている鷹村の姿だった。

木村と青木もの様子が気になり、ドアの向こうを覗く。

(頭、イテ...)

宮田は軽い眩暈を覚え、鷹村に声を掛ける。

「鷹村さん、前くらい隠したらどうです。」

「何だ、虚弱君。オレ様のは立派で目の毒か?」

宮田たちは、ガハハと笑う鷹村に溜息を吐いた。

を見ても依然フリーズしたままで声を掛けられる状態ではない。

まずは、あの鷹村の格好をどうにかする事が先決と考えた木村が、

「鷹村さん、体冷えますよ。何か着た方が良いんじゃないんですか?」

「今から着るんだよ。着替えを持たずにシャワー浴びちまったからな。」

(((なら、何でその格好のままでウロつく必要がある?)))

鷹村の言葉を受けて3人は同時に心の中でツッコミを入れる。

鷹村がロッカールームへ入っていったのを確認してに声を掛ける。

ちゃん、大丈夫?」

「鷹村さん、もう居ないぜ。」

「今のうちに上に行きな。」   

木村、宮田、青木の声を聞いて我に返ったは引きつった笑顔を3人に向けて礼を言い、事務室に向かった。


「なあ、ちゃん辞めると思うか?」

「まあ、その可能性はあるだろうな。

鷹村さん、ちゃんにはあまりセクハラしてなかったから続くかなとは思っていたんだけどあれはキツイだろうな。」

「今までのバイトの中で1番頑張っていたと思いますけど、仕方ないですね。」


3人がそんな会話をした約1時間後、がジムへ降りてきた。今度は用具の手入れが仕事らしい。

用具の手入れをしているに、木村、宮田、青木が近づく。

それに気が付いたは顔を上げて苦笑いを浮かべた。

「先程は、醜態をお見せしました。」

「いや、別に。」

ちゃん、やっぱりバイト辞めるの?」

「いいえ、辞めませんよ?どうしてですか、木村さん。」

「本当かい?あんなもん見たのに、大丈夫?」

「あー、あれは正直ビックリしましたね。でも私が見たとき後ろ姿だったんですよ。

それに、実は今日ここに来る途中コンタクト落としてかなり視界がぼやけているんです。

今、この距離で既に木村さんの顔がはっきり見えていないんですよ。

だから、あれもはっきり見えたわけじゃないんです。だから大丈夫。トラウマにはなりません。

でも、もう二度とごめんですけどね。次があったら考えますよ。」

「それは良かった」と木村はの頭に手をポンポンと置く。


その後、鷹村は『シャワーを浴びるときはくれぐれも服を忘れないように』と木村、宮田、青木に釘を刺された。




今更ですけど、シャワールームの出入り口ってロッカールームと繋がってるんでしたっけ?
つ、繋がってないということにしてください。

甘い話までまだ遠いです...



桜風 
04.8.7
                                                  
ブラウザバックでお戻りください