遭遇




日が随分と短くなった11月のある日に事件が起きた。

ガラリと勢い良くジムのドアが開けられ、蒼い顔をしたが入ってきてドアを閉めながらその場にぺたりと座り込んだ。

その様子を目にした宮田は、怪訝に思って練習の手を止めてに近づいた。

さん、大丈夫か?どうかした?」

は呼吸が乱れていて、それを整えているから口が利けない。

片手を挙げて『ちょっと待って』と合図をする。

入り口に座り込んだままだと危ないと判断した宮田はの買出しの袋を拾い上げ、腕を引いて一番近くのベンチに座らせた。

宮田はの呼吸が中々整わない様子を見て、運動不足だな、と思っていた。


が会話出来る程度に回復し、口を開いた瞬間、再びジムのドアが開きロードに出ていたプロ3人組が帰ってきた。

「あれ、ちゃん。まだ制服じゃない、って。どうしたの、顔色悪いよ。」

「いや、今日の買出し急ぎだったから買い物位このままでいいかなって。顔色は、まあ、気のせいということにしておいてください。

それよりも、皆さんはロードの途中で野球帽を被ってロングコートにサングラスの格好をした、

背は...木村さんより少し高いかそれくらいの男の人見かけませんでした?」

木村、鷹村、青木は互いの顔を見合わせて鷹村が、

「いや、見てねぇな。そいつがどうかしたのか?やけに詳しいじゃねぇか。」

と聞く。

「あー、さっき買出しの帰りにその人に遭って...というか。

平たく言えば変態さん、具体的に言えば露出狂だったらしく、コートの下が裸だったんです。

冬によくやりますよね。

それで、私そういう人って見せたら満足するものだと思っていたんですけど、」

((((見せたら満足するって...))))

話を聞いていた4人は同じところで引っかかったが、そんな彼らの様子に気づくことなくは話を続けた。

「でも、その後も私の後ろを付いて来て気持ち悪くて走って帰ってきたんですよ。

...制服くらい着替えていけばよかった。まだウロついていたら気持ち悪いなと思って聞いてみただけです。」

そう言ったは笑顔を作ったが、それは引きつっていた上に手が強く握られて白くなっている。

ボクサーで男の自分達には何でもないことだが、女の子のにはとても怖かったのだろう。

「ちょっと俺見てくるよ。」

そう言って宮田はの買出しの袋を返して出て行った。

ちゃん、それ急ぎだったんだろ。俺が持って行ってあげるよ、八木さんに渡せばいいんでしょ?

ちゃんは早く制服着替えてきなよ。」

木村は事務室に向かい、は着替えるために奥へ行った。


木村が事務室から戻ったと同時に宮田が外から帰ってきた。

サンドバッグを叩いていた2人も手を止めて宮田に近づく。

「どうだったよ、野球帽の男は。」

「いましたね、何か探している感じがしましたよ。もしかしたらさんを探しているのかもしれませんね。

でも、彼女がここに来たら『居なかった』って言いますけど。世の中、何を考えているか分からない奴が居ますね。」

「同感だな。しかし、ちゃんが帰るときもいるかもしれないってことだよな、大丈夫か?」

「よし、オレ様がそいつをシメて来てやろう。」

意気揚々と外へ出て行こうとする鷹村を青木と木村が止める。

「や、それはマズイですよ。確かにああいう奴は社会の害でしかないですけどね。」

「俺が送って帰りますよ。家の方向が同じなんで。どうせ今日はこの後に用事はありませんし。」

それを聞いて鷹村が振り返った時、着替えたがジムに顔を出してきた。

「あ、宮田君、どうだった?」

「いや、居なかったよ。でもまあ、一応家まで送るよ。今日は暇だし。」

「や、家までって。それじゃあ宮田君全くの遠回りになるよ。そんな迷惑掛けられないって。

大丈夫!帰りは自転車だし、それにこの格好なら男の子と間違って近づいてこないと思うし。」

「なあ、宮田とちゃんって中学違うよな。何で家知ってるんだ?」

2人のやり取りを不思議に思った青木が口を挟んだ。

「詳しく場所を知っている訳じゃないですよ。この前、俺の家の近くの本屋でばったり会ってそれでジムから帰る方向が一緒というのが分かったんです。」

3人はイマイチ納得できなかったが、相手は宮田と

宮田は追及するだけ無駄な気がするし、はすぐに顔に出るタイプだろうから何かあったらすぐに分かるはずだ。

何より、2人が付き合っていたりしたらあの露出狂はタダでは済まないだろう。

そう思って深く追求しなかった。

「でも、ちゃん。さっき宮田が見に行った時には居なかったかもしれないけど、ちゃんが帰るときまた居るかもしれないよ、(実際さっき居たんだし)。

ま、ここは宮田の言うとおり家まで送ってもらいなよ。」

木村に諭され、が唸っていると鷹村が腕組みをした状態で無駄に偉そうに口を開く。

「何だ、。宮田が送り狼になるんじゃないかって心配か?」

「「「アンタじゃないんだから。」」」

後輩3人のツッコミは見事にハモリ、鷹村の言葉に一瞬思考が停止したも苦笑いする。

「そんなこと思っていませんよ。分かりました。宮田君、本当にお願いしても大丈夫?」

「ああ。練習が終わったらここで待っておくよ。」

「じゃあ、お願いします。」

そう言っては仕事のため、事務室に上がっていった。


「しかし、何だ。は『送り狼』の意味を知っていたみたいだな。」

「知らないと思って言ってたんですか?」

「確かにちゃん、そういう単語に疎そうなイメージあるよな。」

「今度猥談してみるか、と。」

喜々と皆に提案する鷹村に、

「アンタ、そりゃ立派なセクハラだよ。」

ちゃん、少し潔癖なところあるから嫌われるんじゃないですか、確実に。」

「今までバイトに入っていた人が辞めたのって、仕事がきついのもあったでしょうけど鷹村さんのセクハラも大きな原因だったらしいですよ。

さんは、仕事頑張っているし、よく気が付くから助かる』って八木さん言ってましたから彼女が辞めたりしたら八木さんと会長がうるさいですよ。」

と青木、木村、宮田は半眼になり、口々に言った。

それに少し怯んだ鷹村を尻目に3人は練習を再開した。

鷹村は渋々諦めてサンドバッグを叩き始めた。


さて、件の痴漢はと言うと、しぶとく先程の女子高生を見失った場所をウロついていたが、

時間を置いて体格のいい男3人に睨まれ、二度とこのあたりをウロつかない方が身の為になると悟った。





...つ、次こそ甘い話!!


桜風  
04.8.18


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