予兆




冬休み間近のある日、はバイトのため、ジムへ行った。

、どうしたんだ、制服じゃねぇか。まだ冬休みに入んねえのか?」

ジムの目の前でばったり会った鷹村に声を掛けられる。

「まだなんですよ。でも冬休みに入ってもほぼ毎日部活があるから制服のままここに来ると思いますよ。これからロードですか?」

「おうよ、あいつらも一緒にな。」

鷹村が親指を立てて後ろを指す。見ると青木と木村がこちらへ向かってきている。

「よう、ちゃん。まだ学校かい?」

青木が片手を挙げて声を掛けてくる。

後ろでシューズの紐を結び直していた木村も立ち上がり、に声を掛ける。

ちゃん、まだ学校なんだ?あー、後でちょっと話ってか、お願いがあるんだけどいいかな。」

「?いいですよ。」

首を傾げながらは答えた。3人を見送った後ジムに入る。

着替えを済ませた後、八木に指示を貰って仕事にかかる。


は洗濯を済ませ、コートを着て屋上にそれらを干しに行った。

「うぅ、寒ぃぃ。...あれ、宮田君こんなところでどうしたの。寒いから風邪引くよ?」

ドアを開けて屋上に出たは何故か屋上に居る宮田に声を掛ける。

今日は風が強いので特に寒い。

そんな中、宮田はいつものジャージ姿でポケットの手を入れて黄昏ていた。

の声を聞いてピクッと小刻みに体が揺れて振り返る。何か考え事をしていたらしい。

さん?ああ、洗濯か。」

洗濯物を干しているの姿を見て、彼女がここへきた理由を理解する。

は指先がかじかんでいるらしく、動きがぎこちない。

宮田はの隣へ行き洗濯籠に手を伸ばす。

「いいよ、宮田君。私全部やるから。練習、あるんでしょ?」

「いや、今休憩中だし。それに、こう見えても家でやっているから慣れてるんだぜ。でも、今干しても乾かないんじゃないか?」

宮田は言ったとおり慣れた手つきで洗濯物を干しながら口を開く。

その隣でも作業を続けながら、

「うん。でも私この時間にしか来ないし、八木さんもそれでいいって言うから。乾燥機があればいいのにな。

梅雨の時期はどうしてるんだろう。結構洗濯物ってたまるのにね。」

そう言われてみると梅雨はどうしていたのだろう、と宮田は約半年前のことを思い出そうとするが、

当時のバイトの子は根本的に合わなかった為あまり話をしていなかったことを思い出す。

(そういえば、さんとは結構話をしているよな。)

バイトを始めた頃のは緊張をしていたことも理由の1つだろうが、決して話し掛け易かったわけではない。

だが、いつの間にか姿を見れば声を掛けるようになっていた。

宮田は先程考えていたことを思い出していた。

はいつも笑顔だ。初めて会ったときも、話し掛けてくるときも、自分が怖い思いをしたときでさえ、笑顔だった。

強い子だと思う。

しかし、なぜ自分が彼女のことを考えていたかが思い出せない。

「何?それ何か変?」

洗濯物を手にとって動かなくなった宮田の視線を感じたが声を掛けた。

「なんでもない」と答えて宮田はそれを干す。結局それが最後の一枚となっていたため、洗濯は終了する。


木村はロードから帰ってシャワーを浴び、八木にの居場所を聞く。

洗濯をしているはずだと言われて水場を見に行くが、居ない。それなら屋上だと判断して階段を上る。

ドアを開けるとの姿を見つけて声を掛けようとしたが、宮田も一緒に居ることに気づいて思わずドアを閉めて隙間から様子を窺う。

(何で宮田も一緒に居るんだ?仲良く洗濯物なんか干して、新婚夫婦かよ。)

木村は少しイラつき、そんな自分に気づいて困惑する。

(はあ?!何で俺、イラついてんだよ。ちゃんの事は、妹が居たらこんな感じかなって思っているだけで、別に好きって言うわけじゃないのに。

あ、そうか。妹に彼氏が出来た兄貴ってトコロか。...彼氏?気に入らねぇな。)

無理矢理納得した木村は再びドアを開けてに声を掛ける。

ちゃん、探したよ。何だ、宮田も一緒なのか。お前練習は?」

わざとらしく宮田にも声を掛ける。

木村の声にうっすらと敵意を感じた宮田は眉を顰める。

「もう戻りますよ。木村さんこそどうしたんですか、こんな所まで。」

「あ、そういえば木村さん。何か話があるっておっしゃていましたよね。何ですか?」

「ああ、ちゃんさ、ここのバイト年末は何日まで?あと、クラブ活動も。」

「バイトも部活も、27日までですよ。」

「じゃあさ、28日から31日までの4日間ウチでバイトしてくれない?ダメかな?」

「『ウチ』って木村さんの家ですか?何屋さんですか?」

「確か花屋ですよね。」

傍観していた宮田が会話に入る。

「花屋さん?!...なんだろ、木村さん凄く似合う気がする。

うわぁ、お花屋さんのお兄さんなんだ、へぇー。ところで、どうしてバイトが要るんですか?」

「年末は花屋忙しいんだよ。毎年その期間にバイトに入ってくれていた人が今年はどうしても都合がつかなくなってさ。どう?」

言い難そうに木村は口を開く。

「ああ、お正月用の飾りとかですか。でも、うーん。どうでしょう。一応我が家も年末は大掃除とか御節作りがありますから。

大掃除はともかく、御節は姉が受験生で今年は私しか手伝えないから、母に聞いてみないことには何とも言えませんね。

でも、私が行って戦力になりますかね。バイトはここが初めてですし、接客の経験なんてありませんから自信ないです。」

「いや、でも八木さん言ってたよ。『さんは仕事覚えるの速いし、責任感も強いから安心して仕事を任せられる』って。

一応お袋さんに聞いてみてよ、な?」

「接客業って言っても、すぐ慣れるもんだぜ?」

突然宮田が言うので木村は驚いて、

「宮田、お前接客業なんてやったことあるのか?」

と聞く。も驚いて宮田を凝視する。

「ええ。俺、今コンビニでバイトしていますから。」

「「ええ?!」」

、木村は同時に声を上げる。

「じゃあ宮田君、『いらっしゃいませ』とか、『こちら温めますか』とか、『お箸はどうされますか』とか言ってるの?うわぁ、見てみたい。どこ?バイト先。」

に笑顔で迫られた宮田は思わず体を引く。

「まあ、言ってるけど、バイト先は秘密。冷やかしが来そうだから。

でも、さんなら『接客』って事に問題は無いんじゃないか?」

「そうかなー。まあ、一応母に聞いておきますね。

ところで今更ですが、こんな北風の吹き荒ぶ屋上でしなければならない話だったんでしょうか。

って、木村さん。髪まだ少し生乾きじゃないですか。風邪引きますよ。

宮田君もはやく中に入ろう?」

は木村の手を引きながら振り返り、宮田に声を掛ける。

「ああ」と短く返事をした宮田の視線はが引いている木村の手に注がれている。

が引っ張っているだけだが、傍から見れば手を繋いでいるようにも見える。

いや、木村が「ちゃん、手が冷えてるよ」と言いながら握り返しているので繋いでいる状態に間違いない。

(何か、すげぇムカつく。...ムカつく?何に?訳分かんねぇ。)

宮田は、得体の知れない感情を抱えたまま屋上を後にする。

右手にはの忘れていった洗濯籠があった。




やっと、何となく、そんな感じがしてきましたよね?


桜風
04.8.28


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