仕事納め ―前編―
| 先日木村に年末のバイトを頼まれたが家に帰って母親に聞くとあっさり了承される。 少し拍子抜けするが、実は楽しみでもあった。は人見知りをするが、人と話をする事は決して嫌いではない。むしろ好きなほうである。 その日もバイトでジムへ向かう。いつものように「こんにちは」とドアを開けるとスパーリングが行われていた。 バイトに入りたてのときは何だか痛そうで見たくなかったが、最近はリングの上で戦っている姿は人を魅きつけるものがあるとさえ思うようになった。 人間の環境適応能力は凄いな、とは思った。 リングの上を見ると宮田と木村がいた。アウトボクサー同士の対決である。 両コーナーでは、それぞれのトレーナーが声を飛ばしている。 今日は早めに来たも足を止めてその試合を見る。 並んで腕組みをしながら試合を見ていた鷹村と青木がに気づき声を掛ける。 「おう、。もっとこっちへ来て見ろ。」 「よう、ちゃん。今日はちょっと早いな。」 「はい。学校に持って行った宿題が済んじゃったんで、ちょっと早いけど来てしまいました。」 の声が聞こえたのでリングの上の二人はその方向をちらりと見た。 がこのままスパーを見学することが分かり、二人は俄かに気合が入り動きが良くなる。 「お?あいつら動きがよくなったぞ。」 青木の呟きを聞いては、スロースターターってやつかな、と思いながらリングの上の二人を見ていた。 木村のストレートに合わせて宮田がカウンターを打つ。それを受けた木村は撃沈した。 膝をついた木村に、「大丈夫ですか」と宮田が声を掛けている。 「あれが宮田の必殺ブローのカウンターだよ。おい、木村、大丈夫か?」 に解説してやった青木がリングに近づき木村に声を掛ける。 はカウンターと聞いて、某有名ボクシングマンガのタイトルが思い浮かび、あれがかの有名なカウンターか、と一人で感心していた。 時計を見るとそろそろ時間なので、は着替えに行った。 着替え終わったはジムに降りて木村を探す。 木村はジムの中のベンチに腰を下ろして先程のスパーのダメージを抜いていた。 は木村を見つけて駆け寄る。 「木村さん。...おお、男前が上がりましたね。」 自分の腫れた顔を見たの言葉に苦笑しつつ、 「どうだった?聞いてくれた、お袋さんに。」 と尋ねた。 「はい。ソッコーでOKされました。『時間が来るまで手伝ってくれればいいよ。』って。 たしか、16時から21時でしたよね。頑張りますので宜しくお願いします。」 はペコリと頭を下げた。 「いやいや、こっちこそ宜しく。ありがとう、助かったよ。 ああ、夕飯はウチで食べてくれないかな。『まだわかんねぇぞ』って言ったのに、お袋が張り切っててさ。俺がちゃんと車で送り迎えするから。」 「え、あー、じゃあ、分かりました。お言葉に甘えますね。」 「悪いな、何から何までこっちの都合で。」 話が終わり、は仕事を、木村は練習を再開した。 年内最後のバイトの日、は買出しを頼まれた。 ジムに入ったところで、上から追いかけてきた八木に呼び止められる。 「さん、これもお願い。あ、でも重いかな。」 渡されたリストを見ると正月用の買い物だった。 鏡餅やしめ飾りなど、重かったり嵩張ったりする物が多い。 さっき頼まれた買い物もいつもの医療品や事務用品の他に大掃除用と思われる洗剤など、こちらも重く、八木が悩むのも分かる。 は暫し悩んだ後、八木に向かって口を開く。 「じゃあ、2度に分けて行ってきますよ。それならそんなに重くないですし。」 「俺がついていきますよ、八木さん。」 いつの間にかの後ろに立ち、リストを覗いていた宮田が声を出す。 は耳元近くで聞こえてきた宮田の声に驚き振り返る。 「そうかい?じゃあお願いしようか。さん、宮田君よろしくね。」 そう言って八木は事務室に戻って行った。 イマイチ状況が把握できなかったが呆けていると、 「早く行こうぜ」と宮田がジムから出て行く。は慌ててその後を追った。 「宮田君、練習大丈夫?」 「大丈夫。ちゃんと考えているから、さんは気にしなくていいよ。」 そう言って宮田はスタスタと歩き始めた。 (速っ!!足が長いっていいねぇ。) 初めは宮田の歩調に合わせて頑張っていただが、だんだん疲れて自分のペースで歩きだした。 最初はジムから一番距離のある薬局に行くと決めていたのでそこで合流すればいいと考えたのである。 宮田はの気配を感じなくなったので隣を見てみるとその姿が無い。 慌てて振り返るとがゆっくり歩いている。 (速かったのか?言ってくれればゆっくり歩くのに。) 宮田は立ち止まり、ジャージのポケットに手を入れてを待った。 はそんな姿の宮田に気付き慌てた。 「ごめん。」 「いや、こっちこそ。速かったなら言ってくれれば良かったのに。」 そう言って今度は宮田がの歩調に合わせて歩く。 薬局で洗剤や消毒液、湿布などの医療品を買い込む。 レジに入っていた店員が、少し離れたところで待っている宮田をちらりと見て、 「ねえ、あそこで待ってる人、カレシ?かっこいいね、自慢でしょ?」 と声を潜めながら言ってきた。は既にここの常連となっており、この時間の店員とも仲がいい。 「いいえ、残念ながら違いますよ。」 はくすくす笑いながら答えた。そんなと店員の様子を眺めていた宮田が怪訝な顔をする。 「じゃあ、お兄ちゃんとか?」 「あー、彼がお兄ちゃんなら私は自分のDNAを呪いますね。彼はバイト先の友達ですよ。」 「そう?君も結構いい線いってると思うけどな。」 「お世辞はいいですよ。それより、いつもの様に領収書お願いします。」 領収を切ってもらい、店を出た。宮田はの持っていた袋を全部取り上げ自分が持つ。 その後、事務用品、追加されたリストの中にあった正月用の買い物を済ませた。 荷物は全て宮田が持つつもりでいたが、手ぶらだと落ち着かないとが主張するので、一番軽い事務用品の入った文房具店の袋だけ持たせてやった。 |
うわっ、ハンパ!
ごめんなさい、どこで切ったらいいか分からなかったのでここで。
後編読んで、「何でここで切った?」と思われる方が続出な予感。
桜風
04.9.4
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