お花屋さん  ―前編―




の木村園芸でのバイトの初日。

木村が、15時30分に家まで迎えに行くと言っていたのでは玄関先で待っていた。

時間少し前に来た木村の車で、木村園芸に向かう。

「正月用の花は、もうセットにしてあるからレジ打ちは楽だよ。でも、困ったことに他の花を買っていく人もいるからなあ。」

「『有難いことに』じゃないんですか?」

「ははっ、有難いけどこういう時はなー。まあ、最初は混乱するかもしれないけど、俺もお袋も店にいるから何でも聞いてよ。」

赤信号で停車したとき木村はの顔を盗み見る。既に緊張しているらしく、表情が強張っている。

(そういえば、初めてジムに来た時もこんな顔してたよな。それがなんだかんだいって、そろそろ5ヶ月続いたことになるのか、早いな。

...もしかして俺が知っているジムのバイトの子の中だと一番続いているんじゃないか?)

信号が青になったので車を出す。


家の裏に車を停めて「着いたよ」と声を掛けて車を降りた。

木村は続いて車から降りたの表情に驚く。

車の中にいたときは頼りなさがあったそれは、今は緊張しているもののしっかりした表情になっている。

裏口から家へ入り、に改めて仕事の説明をしてエプロンを渡て自分もそれを着ながら店へ入った。

もエプロンを着けて店に入ると店の中は既に大忙しだった。

ちゃん来てくれたぜ。」

「宜しくお願いします。」

は挨拶をし、木村の両親も手を休めることなく挨拶を返す。

木村が帰ってきたので父親が配達に出て行った。にはレジ打ちを頼む。

木村は全身から緊張感を漂わせていたをハラハラしながら気にしていたが、

は1時間もしないうちに肩の力が抜けたらしく、自然な笑顔で対応するようになった。

(確かに、仕事覚えるの早いな。というより、慣れるのが早いのか?八木さんが太鼓判押すわけだ。)

父親が配達から帰って来たため、今度は母親が家事のために店を抜ける。

その後も忙しい状態は続いた。


客足もだんだん減ってきてやっと店の中も落ち着く。

(め、目の回るほどの忙しさってこういうのなんだろうな。―――木村さん、凄いや。)

ちゃん大丈夫?ごめんな、休憩無しで。いきなりこんなだと疲れるよな。」

「私、木村さんを心から尊敬しました。そういえば、今日はジムに行ってませんよね、大丈夫ですか?」

「大丈夫、今日は早くから行ったからね。でも明日はちゃんを迎えに行ってからジムに行くようになるから夕方少し居なくなるよ。

ロードは夜にするから、時間はいつもより短いけどね。」

「達也、正月のセットを作っておいてくれないか。さんは奥で休憩してください。」

「わかった」と返事をした木村は、の手を引いて店の奥へ行った。

店の奥のスペースには松や梅などの正月用の花がバケツに入っていた。

を椅子に座らせて木村は一度家に向かい、暫くして温かいミルクたっぷりのココアを手に戻ってきた。

「はい、ちゃん、これ飲んで。甘いの大丈夫だった?」

は木村から受け取ったココアを冷ましながら、

「わーい、私ミルクココアって結構好きです。コーヒーは苦手なんですけどね。」

と言った。

「そうなんだ、それは良かった。コーヒーにしようかとも思ったんだよ。...ちゃん猫舌?」

「はい、そうなんですよ。それで人生の3割は損してるって友達に言われたことありますよ。」

少し冷ましたココアに口を付け、飲み頃になったのを確認して飲み始めた。

木村は、そんなの姿を目を細めて見る。

「はあ、おいしかったです。ごちそうさまでした。...木村さん、私もそれやってみてもいいですか?」

ココアを飲み終わったは正月用のセット作りに勤しんでいる木村に声を掛ける。

それに応えて木村は作り方を教えてやるが、中々筋が良かった。

閉店時間になって店を閉め、片付けや掃除を済ませて仕事は終了した。


木村家で夕食を食べた後、車で送ってやる。

ちゃん、どうだった?花屋のバイトは。」

車の中で木村がそう聞くと、

「疲れましたー。本当、全国のお花屋さんを尊敬します。でも大体の雰囲気は掴めたと思います。

あの宮田君が接客できるんです。きっと私にも出来ます。あ、これ、本人には内緒にしてくださいね?」

と言う答えが返ってきた。木村は苦笑しながら「了解」と答えてふと思い出す。

「そういえば、ちゃんって学校で何部に入ってるの?ちゃんの声って通るよね。」

いつものジムでのバイトは黙々とする仕事ばかりだが、今日のは声を出す。

前から思っていたが、の声はよく通る。

「あ、言っていませんでしたか?放送部ですよ。殆ど毎日発声練習していますから。

鈴の音のようなかわいらしい声じゃないですけどね。」

苦笑しながらが言う。

「いやいや、俺はちゃんの声好きだよ。落ち着いてて、いいと思うな。」

あまり声を褒められたことがないは照れて俯き、「ありがとうございます」と礼を言った。




演劇部と悩みましたが、
『声を使って、どちらかといえば個人でのものだろう』
と放送部に入ってもらいました。



桜風
04.9.18


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