出会い




春が来て、宮田は学年が1つ上がった。

宮田は誕生日が来ればプロのライセンスの取得資格を満たす。

そんな新学期が始まったある日、は部活が忙しくなる時期に入ったのでいつもより遅くジムへ行く。

「こんにちはー。」

ドアを開けると丁度ゴングが鳴り、スパーリングが始まった。

リングの上には宮田と...見たことがあるような無いような、明らかに素人でヘッドギアをつけた人が立っていた。

とりあえず着替えが先と考えたは奥へ向かう。


着替え終わったが今日の仕事の内容を聞くため、ジムに向かった。

ジムのドアを開けようとドアノブに手を掛けた途端向こう側からドアを開けられて危うくドアに額をぶつけてしまうところだった。

「あ、さん、悪い。ぶつからなかったか?」

「うん、大丈夫。今終わったの?」

宮田は答えず、洗面所に向かった。は宮田の腕にいくつか出来ていた痣を見付けて、

素人の人が相手だと思っていたんだけどな、とぼんやり考えながらジムへ足を進める。

ジムを見渡すが八木の姿が見えない。

とりあえず、スパーの相手が気になったのでリングに近づき、倒れている人の顔を見た。

「幕之内君?!」

「お?ちゃん。今日は遅かったんだね。」

「木村さん、ちょっと。何でこの人がここで伸びているんですか?

もしかしてさっきの宮田君のスパーの相手ってこの人だったんですか?」

ちゃん、こいつに水かけるからちょっとリングから離れたほうがいいよ。」

そう言うと青木は手に持っていたバケツいっぱいの水をリングの上で伸びている一歩にかけた。

ちゃん、あいつ知ってんの?」

「はい、つい先日高校3年間同じクラスということが決定した人ですよ。

幕之内一歩君。何か、家業が釣り船屋さんとかでよく家の手伝いをしているらしいですよ。

でも、何でここに居るんですか?」

「鷹村さんがちょっと前に怪我してたあいつ連れてきたんだよ。

で、今日は何かよく知らないけど入門を賭けて宮田と対決。結果は見ての通りだけど、結構いいパンチ打ってたんだよ。

結局3ラウンドで宮田のカウンターでKOだったんだけど根性あるよ、あいつ。

足押さえて無理矢理痙攣止めたし、宮田にカウンターまで出させたんだから。」

「へえ、意外ですね。教室では目立たない子で、可もなく不可もなく...。いや、優柔不断っていう不可があるかな。

ところで、八木さんが何処に居るかご存知ありません?」

いつの間にか戻ってきた鷹村が一歩に入門許可が下りたことを告げた。

リングの上では涙を流しながら礼を言う一歩の姿があった。

「おう、。今日は遅かったな。こいつ知ってるか?お前と同じ学校だろ。」

「こんにちは、鷹村さん。知ってますよ、同じクラスですから。去年も、今年も、来年も。」

さん?!どうしてボクシングジムに居るんですか?さんもここに通っているんですか?」

一歩は心底驚いたらしく、目を丸くした。

「まあ、通っていると言えばそうだが、はアルバイトで来てんだよ。

それよりも、何で来年も同じクラスだって知ってるんだよ。」

「ウチの学校3年に上がるときのクラス替えが無いらしいんです。

それはそうと、八木さんの所在知りません?」

「八木ちゃんならジジイと一緒に会長室に居たぜ?もう事務室に帰ってるんじゃねえか。」

「了解しましたー」と言っては事務室に向かった。

後方で、「うわあ、知り合いが居ると心強いなー」と呑気に言っているクラスメイトの声に苦笑する。


今日のの仕事は、掃除と資料の整理といった屋内のものだけだった。

廊下の掃除をしていると帰り支度を終えた宮田がロッカールームから出てきた。

「お疲れ様。これからバイト?大変だね。」

「ああ。そういえばさん、今日は遅かったんだな。」

「うん。部活の大会が近くなってきたから時間削ってもらったの。6月の終わりまで遅いよ。」

「そうか。さんって部活もしていたんだよな。そっちこそ大変だろ、大丈夫か?」

「まあ、それなりに覚悟して始めたことだから。でも、体調を崩すとかして両立できなくなったらこっちの方を辞めることになるんだけどね。

私の本業はあくまで高校生だから。」

「そう。あ、俺もう行かないと。バイトに遅れる。じゃあ、また明後日。」

「うん、お疲れ様でした。」

は走って出て行く宮田の背中に向かって声を掛けた。


廊下と階段の掃除が済んで、今度は資料の整理に取り掛かる。

資料の棚は少し高めで最上段の物を取ろうと思ってもが背伸びしてギリギリ手が届くという高さだった。

「あと少し。え?!ちょっと待っ...」

台を使わずに最上段のファイルを取り出そうとは頑張っていた。

しかし、取りたいファイルの周りの物まで一緒に落ちて来そうになっている。

資料が雪崩れてくるのを目を瞑り頭を抱えて衝撃に備えた。しかし、その衝撃がこない。

その代わり、頭上で溜息が聞こえた。

恐る恐る目を明け、上を見ると2本の手が資料を押し返し、雪崩を防いでいた。

「全く、危ないな、ちゃん。どれが要るの?」

「その赤いファイルです。そう、それ。どうもありがとうございます、木村さん。」

木村は指示されたファイルを抜き取っての頭にポン、と置いた。

「ちゃんと椅子なり、台なり使って取りなよ。ここに来たら雪崩の寸前だったんだからな。

本当にびっくりしたよ。」

「ごめんなさい、横着しました。ところで、木村さんは何でここに来たんですか?」

「あー、篠田さんを探してんだけど、知らない?」

「篠田さんなら、確か今日はお休みですよ。事務室のボードに書いてありました。」

「何だ、じゃあ仕方ないな。それなら、俺は練習に戻るけど、ちゃんと台を使いなよ。

さっきみたいにいつでも助けられるわけじゃないんだから。いいね?」

「はーい、気を付けます。練習頑張ってください。」

木村は、「おう」と右手を軽く上げて返事をした。


練習に戻りながら木村は、

(全く、普段は結構しっかりしているクセに抜けてたりするんだもんな、ちゃんは。ホント目の離せない子だよ。)

と深々と溜息を吐いた。




やっと原作の時間に入ります。
10話目にして、やっと...


桜風
04.10.23


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