Missing Girl ―前編―
| その日は日曜日で、珍しく部活も無く、は家でゆっくりとしているとジムから電話が掛かってきた。 用件は、『どうしても八木が出掛けなくてはならなくなったのだが、今日掛かってくる電話があるから事務室で待機してくれないか』、というものだった。 用事も無く、暇にしていたは、快く引き受け午後からジムへ向かう。 「た、鷹村さん。」 「どうしたんスか、それ。」 八木が出るまでいつものように仕事をすることになったもジムで用具の整理をしていたら、 青木と木村がロードから帰ってきた鷹村に驚きの声を上げる。つられても鷹村を見る。 いつもと変わらない格好に見えるが、決定的に違うところがあった。 ピンクのふわふわしたワンピースを着た女の子を片手で抱えている。 「あれ、鷹村さんってお父さんだったんですか?」 とが素直に疑問を口にすると、 「違う!走ってたらこいつが泣いてたから声を掛けてみたら、離れなくなったんだ。仕方ねぇから連れて来たんだよ!」 頭の上の大きな怒鳴り声を聞いたその小さな女の子は泣き出した。突然泣き出された鷹村は焦る。 外でスクーターの止まる音がして会長と一歩が帰ってきた。 ジムに響く小さな子の泣き声に2人は怪訝な顔をする。 「何じゃこの声は。...鷹村、女に目がないからと言ってもそれは犯罪じゃぞ!そんな小さな子を。」 「ええ?!鷹村さんってロリコンだったんですか?」 「な、何言ってんだ!誤解だ。こいつはロードの帰りに引っ付いてきたんだ。オレ様の好みはセクシーダイナマイトなネェちゃんだ!!」 「鷹村さん、ちゃんと責任は取らないと。認知はしているんですか?」 鷹村が驚いて振り向くと、いつの間にかジムに来ていた宮田がベンチに腰掛けてバンテージを巻いている。 「な!だからこいつはロードの途中で――――。ええい、クソッ。おい、、お前女だろう。」 「...ええ。生物学上は、そっちに分類されますかね。未だに見た目で男と間違える人いますけど、それが何か?」 「お前が面倒を見ろ。」 「うわっ、女だから子供の面倒見るんですか?鷹村さんが連れて来た子でしょ?」 「何度も言わせるな。付いて来たんだ。」 「でも警察に届けずに、ここへ連れてきたのは鷹村さんでしょ?」 「ケイ...サ、ツ?」 少しも考えなかったらしい。ちなみにこの会話の間もずっと女の子は泣いている。 は肩を竦めて鷹村に近づいた。 鷹村が抱えていた女の子を下ろしたのでは膝を折り、女の子と目の高さを同じにする。 「ねえ、お名前言える?お姉ちゃんはって言うんだよ。」 「...ちかちゃん。」 「ちかちゃんか。可愛い名前だね。今何歳?」 ちかと名乗る女の子は、小さな指をぎこちなく3つ立てて示した。 「3歳か。ちかちゃんは、何ちかちゃんか言えるかな。」 「いーだ。」 「...飯田ちかちゃんで合ってる?」 ちかは力強く頷いた。 その2人の様子を男性陣はハラハラしながら見守っている。 突然が鷹村を振り返ったので鷹村は怯む。 「鷹村さん、この子どこで拾いました?」 「あ?えっと、商店街から一番近い橋の向こう側だ。泣きながらこっちに歩いてたんだよ。」 「分かりました。それじゃあ、とりあえずこの子を近くの交番まで連れて行ってみます。 ちかちゃん、ちょっとお姉ちゃんとお出かけしようか。」 そう言ってちかの手を引いては出て行った。 2人のやり取りを見守っていた周囲は息を吐いた。 「はあ、凄いなあ、さん。」 「さすが、女の子だなちゃん。」 「ホレ見ろ。俺様の指示は正しかった。」 「初めからアンタが連れて来なきゃこんな事にならなかったでしょうが。」 「小僧、何を呆けとる。練習再開するぞ、準備をせんか!」 皆は練習を再開した。 30分位してが戻ってきた。右手でちかの手を引き、後ろには警察官が付いて来ている。 昔警察にお世話になった経験のある人たちは思わず自分の最近の行動を顧みる。 「すみません、責任者の方は?」 会長がミットを外しながら近づく。 「私が、ここの責任者の鴨川ですが。何か?」 「はい。実はこの子を交番で預かろうとしたのですが、どうしてもおねえちゃんと離れたくないといって泣き出してしまって我々もどうしようもない状態でして。 それで、こちらで一時預かって頂けませんか? さんはどうしてもこちらの用事があって帰らないといけないとおっしゃていますから。 すぐに母親は見つかるとおもいますし、長くて9時まで。ご協力願えませんか?」 ちかに目を移すとの右足にぴったりとくっついて離れそうもない。 が一緒ならちかも静かだろうと思った会長は承諾した。 「ちかちゃん、もう少し一緒に居てもいいって。あの2人にお礼を言わなきゃね。」 不安そうにしていたちかの表情がぱっと明るくなり、の足を離れて警察官と会長の許へ行った。 そして2人を見上げ、 「おまわりさん、おじいちゃん。どうもありがとう!」 と元気よく礼を言ってにっこり笑う。そんなちかにお礼を言われた2人は頬が緩む。 「それでは鴨川さん、宜しくお願いします。ちかちゃん、いい子でね。」 「うん」とちかは元気よく返事をして頷く。 警察官が帰って行った後に、 「、今日の仕事の予定はどうなっとる?」 と会長が声を掛けた。 「あ、そろそろ八木さんが出掛けられる時間ですから、事務室で電話番と書類の整理ですかね。」 「そうか。まあ、八木ちゃんの用事もそう長くは掛からんじゃろう。、この中から小僧以外、誰かに手伝ってもらえ。」 会長がそんなことを言うので集まっていたプロ3人組と宮田は、思わず後ずさる。 「はーい。」 は迷わず木村の腕を掴んで、 「ちかちゃん、おいで。上に行くよ?」 とちかに声を掛けて奥へ向かう。ちかは、その後ろをパタパタ走りながら付いて行った。 幸運にも選ばれなかった残りの者は、木村が消えて行ったドアに向かって合掌をした。 「ねえ、ちゃん。何で俺なの?」 階段を登りながら木村が疑問を口にする。 「それは、幕之内君がダメでしたから、木村さんしかいないかな、と。ごめんなさい、練習の時間なくなっちゃいますか?」 「いや、それはいいよ、大丈夫。会長直々の提案だし。そうじゃなくてさ、何を基準にして、俺が選ばれたの?」 「一番対応が柔らかそうなので、木村さんかな、と。だって考えてもみてくださいよ。 鷹村さん、ごめんなさい、論外。 宮田君、すっごくイライラしそうにないですか?それに、幕之内君がダメなら、宮田君もダメでしょう? そして、青木さん。青木さんは、たぶん大丈夫だと思うんですけど、やっぱり木村さんが1番かなと思って。」 消去法とはいえ、とりあえず好意的とも取れる理由に木村は満足した。 |
これまたハンパなところで...
後編に続きます。
桜風
04.11.13
ブラウザバックでお戻りください