Missing Girl ―後編―
| 事務室に入ると八木は、ちかを見て驚いたが、理由を話すと納得して、外出した。 がデスクワークに入ろうとしたが、ちかが離れてくれない。 出来ないこともないが、仕事がしにくくは少し困った顔をしていた。 「ちかちゃん、おいで。お兄ちゃんが遊んでやるから。」 木村が優しい声を出して呼ぶが、ちかは首を左右に振って答える。 だからと言ってちかの面倒はに見てもらって自分がデスクワークと言うのは出来ない相談だ。 木村は事務所の中を見渡す。花瓶に花が活けてあった。 (八木さんごめん。明日代わりの花持ってくるから。) そう心の中で詫びを入れた後、花瓶の花を抜いて花冠を作る。 「ちかちゃん。ほら、花の冠だよ。載せてあげるからおいで。」 木村の手にある花冠を見て、ちかの目は輝き木村に駆け寄る。 木村がそれを載せてやると満面の笑みを浮かべ、に「見て、見て」と声を掛ける。 「木村さん、器用ですね。私そういうの全くダメなんですよ。 ちかちゃん、良かったね。お姫様みたいだよ。お兄ちゃんにお礼言わなきゃ。」 「お兄ちゃん、ありがとう。お兄ちゃんお名前なんていうの?」 「あ、そうか。俺は、達也。木村達也って言いますよ、お姫様。 あー、俺今日ほど花屋の息子で良かったと思った日は無いね。」 木村は天井を見上げて呟いた。何とか、自分の役目を果たせそうだ。 「ねえ、達也お兄ちゃん。ちかちゃんねえ、これ皆に見せたい。」 「皆って、下にいたやつらか?あー、邪魔になるからダメだな。」 木村のその言葉に、ちかの目に涙が浮かぶ。木村は慌ててちかを抱き上げて下のジムに向かう。 (木村さんって本当にイメージを裏切らない人だよな。) は木村の後ろ姿を見送りながらそんなことを思った。 ちなみに、の木村のイメージは、 ・年下や、女性に優しい ・面倒見の良いお兄ちゃんタイプ ・涙と押しに弱い ・器用貧乏 である。 ちかを抱えて木村がジムに入ると、一歩がミット打ちをしていた。その凄まじい音に、ちかは怯えて木村の服をぎゅっと握る。 ドンッ、と大きな音がした。鷹村がサンドバッグを叩き始めた音だ。ちかは益々怯え、泣きそうになった。 (ま、普通は怯えるわな。) そう思って引き返そうとした木村を宮田父が見つけた。 「木村、どうしたんだその子。お前の子か?」 「いや、親父さん。そのネタ、ちゃんと宮田が鷹村さんにやった後ですから。」 「本気でそう思ったんだが...お嬢ちゃん、綺麗な花冠だな。どうしたんだい?」 さすがは一児の父、余裕がうかがえる。ちかはお気に入りの花冠を褒められて上機嫌に、 「達也お兄ちゃん作ってくれたの。お姉ちゃんがちかちゃん、お姫様みたいだって。」 と嬉しそうに話す。 そんなちかの姿を見て、女の子も欲しかったな、と今更なことを思っている父親に宮田は溜息を吐いた。 「何だ、ちか。降りて来ちまったのか?どうした、その頭の物は。」 「達也お兄ちゃんが作ってくれたんだよ。達也お兄ちゃんとっても優しいの。」 「木村ぁ。大人の女にモテないからって今度は子供かよ。」 そう青木に言われ、木村が言い返そうと口を開くと後ろから、 「『紫の上計画』ですね。会長、お電話が入っていますよ。」 と会長を呼びに来たが話に入る。 「さん、『紫の上計画』って?」 「源氏物語の源氏の君は確か、18歳くらいのときに6歳だったかな、の紫の上を引き取って自分の理想の女性に育てて結局結婚するの。 だから、そういう小さい時から自分の理想に育てる事を『紫の上計画』って言ったりするの。 ...木村さん、ちかちゃんお姫様なんだからお姫様抱っこしてあげたらどうですか?」 「お姫様抱っこぉ?ちかちゃんは体が小さすぎるよ。ちゃんくらいなら丁度いいけどね。」 そう言いながら木村はちかを降ろす。 はしまったと後ずさるが、木村に捕まって横抱き、つまりお姫様抱っこをされる。 「ちゃん、軽すぎ。ちゃんとご飯食べてる?」 「食べてます、食べてますから降ろしてください。恥ずかしいです。ホント、お願いします。」 は足をばたつかせて暴れる。 「わっ、と。ちゃん危ない、降ろしてあげるからちょっと大人しくしなって。」 解放されたはダッシュで事務室に向かった。 「お姉ちゃんタコさんになっちゃたね。ねえ、ちかちゃんにも、お姉ちゃんと同じのやって。」 リクエストどおりちかをお姫様抱っこするが、ちかはしっくりこないらしく、「さっきのがいい」と言って抱きかかえてもらった。 八木が帰ってきたのでは専属でちかの面倒を見られるようになり、木村は練習に戻った。 ジムの隣の部屋で相手をしていたが、ちかが眠ってしまったのでは買出しに出て行った。 ガチャリとドアが開き、目を擦りながらちかが出てきた。 「お姉ちゃん?」 まずい。 ジムにいる事情を知っている者たちは思った。 今ジムにいるのは、鷹村、宮田、そして数名の練習生。 宮田父と青木は帰った後だし、木村はロードに出ている。 どう考えても子供の面倒を見るのに向いていない人たちばかり。 案の定、、木村の姿が見えないちかは不安になって泣き出してしまった。 「おい、宮田。キサマ何とかしろ。」 「元はと言えば、鷹村さんが連れて来たんじゃないですか。」 「いいから、さっさとしろ。」 理不尽大王に勝てるはずもなく、宮田は渋々ちかに話し掛ける。 「ちかちゃん。今、さん、お姉ちゃんは買い物に出てるだけだから。もうすぐ戻ってくると思うから大人しくしてろよ。」 宮田の言葉に一切耳を傾けず、ちかは泣き続けた。 (ったく、何でこんなメンツしかいないときに起きて来るんだよ。さんまだか?) 宮田が途方に暮れていると、が帰ってきた。 「おやぁ?ちかちゃん起きちゃったか。ちかちゃん、お口開けて、あーん。」 ちかはに言われたとおり口を開けると甘い物が口の中に入ってきた。 「飴ちゃんです。甘いでしょ、おいし?」 ちかは、「うん」といってに抱きついた。 その時、ジムのドアが開き、木村が帰ってきて入り口には見知らぬ女性が立っていた。 「ママ!」 ちかは、木村が連れて来た女性に向かって走って行った。 「さっき交番の前通ったらこの人がいてさ。警察から案内してやってくれって言われて。会長は?」 「出てるぞ。一歩しごいてる。」 は隣の部屋に行って、木村手製の花冠を取ってきた。 時間が随分経って花は萎れている。は丁寧にそれをちかの頭に載せてやる。 「お姫様の大事な物でしょ?」 「うん、ありがとう、お姉ちゃん。達也お兄ちゃん、タカムラお兄ちゃん、えっと...お兄ちゃん。 おじいちゃんと、他のお兄ちゃんたちにもありがとう言ってくれる?」 「分かった。ちゃんと皆に『ちかちゃんがありがとうって言ってたよ』って言うよ。」 がちかと指きりを交わす。 「すいません。今、丁度責任者が留守にしているんですよ。だからお母さんが迎えに来たと伝えておきますよ。」 母親は、幾重にも礼を言って帰っていった。 ジムから出て、と木村はその後ろ姿を見送った。 「ちゃんって子供嫌いなのかと思ったよ。鷹村さんにちかちゃんの面倒を見ろって言われたとき渋ってたから。」 「大・好き・です。だからイヤだったんですよ。情が移るでしょ?」 「じゃあ、今淋しいんだ?」 「...いいえ?そうでもないですよ。さぁて仕事、仕事。」 「素直じゃないな。」 木村は、わざとらしく伸びをしながら奥へ向かうの姿に目を細めた。 |
ヒロインのキム兄さんのイメージは、私が思っていること。
これ、キム兄さんにお姫様抱っこしてもらいたくて書きました。
...ただ、それだけ。
桜風
04.11.27
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