勇気を ―後編―
| ノックの後に看護婦が食事のトレイを持って入ってきた。 ここに入院してから、お見舞いに来る人を全て帰していた少年の部屋に、父親以外が居る事に驚く。 そして、その少女が自分の見知っている子に酷似していることに更に驚いた。 「すみません、ここに置いておいてください。お腹空いたら顔を出すと思いますから。」 「分かりました。―――もしかして、ちゃん?」 「?そうですけど。」 「まあ、元気そうね、大きくなって。体は大丈夫?今高校生かな?早いね。」 「ええ、元気ですよ。もしかして、小さい頃にお世話になったりしましたか?」 「あ、覚えてないか。仕方ないよね。しん...何?!どうしたの?」 は、話を続けそうになった看護婦の腕を引いて廊下に出る。 「すみません、私の事聞かれても一切答えないでください。内緒にしているんです。」 看護婦は自分が話し過ぎたと反省をして約束をした。 一方、部屋に残された宮田は、先程の布団の外の会話が気になっていた。 (『しん』って何だ?それより、小さい頃から看護婦に世話になってるってどういうことだ?さん、もしかして体が弱いのか? いや、でもそんな人がジムのバイトなんて出来るはずないし。) 宮田が思案しているとが戻ってきた。 「宮田君、私そろそろ帰らないと塾に遅れるから。あ、そうだ。そのままでいいから手を出して。」 まだ布団を被ったままの宮田はごそごそと布団の中から右手を出した。 はそれを両手で包み、目を瞑る。宮田は、予想していなかったの行動に驚いたが、同時に安心感を得た。 数秒しては宮田の手を布団の中にしまい、ポンポンと優しく布団を叩いた。 「私の勇気を半分、君にあげるよ。リハビリとか色々大変でしょ?ごめんね、半分で。私も色々あるから。 じゃあね、宮田君。頑張ってる人にこの言葉は適当じゃない気がするけど、でもこれ以外思いつかないから。...『頑張って』。」 そう言っては部屋から出て行こうとして、ドアを開けた。 「さん、受験いつ終わる?」 宮田は布団から出て声を掛ける。 は振り返らずにその日を答えた。 「そうか。さんも頑張って。今日はありがとう、元気出た。」 はそのまま片手を挙げて返事をしてドアを閉めた。 食事を食べ終わった頃、父が帰ってきた。 「さんは?」 「帰ったよ。塾だって。」 「そうか、受験生か。一郎、これさんが持って来てくれた物らしい。さっき看護婦さんに渡された。」 宮田は花束と手紙を受け取った。 『宮田一郎様』と書かれた封筒の裏には、『貴方のファンより(笑)』と書いてあった。 ((笑)って何だよ。) 宮田は苦笑した。 父はそんな息子の姿を微笑ましく思った。自分もボクサーだったため負けたときのショックは分かる。自分もそれから立ち直れず、現役を退いた。 (さんのお陰なんだろうな。) 宮田は自分を微笑ましく見つめている父の視線に気付き、顔を顰める。 「何?」 「いや、なんでもない。それより、手紙読まないのか?」 「父さんが帰ったらね。」 「父さんもどんなことが書いてあるか気になっているんだが。まあ、いい。明日も夕方に来るぞ。」 「OK.父さん。」 夜の検温が済んだ後、宮田は手紙の封を開けた。 |
| 宮田君へ お元気ですか。って元気じゃないから入院してるんだよね。 きっと会っても言葉が見つからないと思うので手紙を書くことにしました。 私はいつもジムで皆から勇気を貰っていました。 私は別に人生の目標とか、そういうものを持って過ごしていませんでした。 もちろん小さな物ならいくつかあります。でも、何もかもを賭けて、という 物はありませんでした。そして、今もまだありません。大学進学も結局社会 に出たときの保険みたいな物だと思っています。 でも、ジムの皆、鷹村さんや、木村さん、青木さんに幕之内君、鴨川会長。 そして、宮田君。皆ボクシングに対して一途で真摯で。 そんな姿に勇気と、元気を貰っています。 正直、初めはボクシングは怖くて好きではありませんでした。でも、皆が努 力した姿を見て、応援して、戦う姿を見ると、自分も頑張れる気がしてきま す。 自分にも何かある、何か出来るって思えてくるんです。 それが何かまだ見つかりませんが。でも皆を見続けていたら、いつか見つ けることが出来るんじゃないかって思っています。 だから、また宮田君がリングに立つ姿を見せてください。 宮田君の戦う姿を見せてください。 何だか凄く勝手なことを述べてしまった上、言いたい事が伝わっているか不 安です。 今回の宮田君の怪我は、いつも頑張っている宮田君に休むように神様が言っ ていると思ってゆっくり静養してください。 それでは、お体に気を付けて下さい。 |
手紙を読み終わった宮田の頬に静かに涙が流れた。宮田は手紙を抱きしめて、「―――ありがとう」と呟いた。 |
手紙を書く才がない私が何書いてるんだろう。
と少し思ってみたり。
『あなたのファンより』というのは某演劇漫画で
紫の薔薇の人がそう手紙に書いていたような、と思いまして。
ヒロインもそれを意識してるから(笑)をつけたということで...
桜風
05.1.22
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