旅立ち ―後編―
| 「こんにちはー。」 ジムのドアが開き、が入ってくる。 「お!?ちゃん、久し振りだね。そのネックレス可愛いね、似合ってるよ。ところで今日はどうしたの?」 を見つけて木村が(嬉しそうに)声を掛ける。 「(目敏いな、木村さん。)今日は参考書を買いに出ていたんで、ついでに寄ってみただけです。」 「参考書?、浪人決定か!?」 練習の手を止めてすぐ傍まで来ていた鷹村が楽しそうに言う。 「(相変わらず気を遣わない人だな、この人は。)まだ、分かりません。」 少しムッとしたは素気なく答えた。 「そういえば、ちゃんの部活の子、今年もウチで先輩に贈る花を買ってくれるの?」 木村が思い出してに聞いてみる。が1年の頃から卒業式に部活の先輩に贈る花束は木村園芸で買っていた。 「ああ、そうみたいです。1月ごろに、『今年も木村さんのところでいいですかね?』って後輩に聞かれましたから。『行っとけ、行っとけ。』って言いましたし。」 「ありがとう。ちゃんに渡す花束は俺が作ってあげるよ。ちゃんは、何の花が好き?」 「桜!」 間髪入れずに返ってきた言葉に木村は困った。 桜...どう考えても卒業式の花束に向いている物ではない。 ちゃんは桜が好きなのか、とチェックを入れつつも、「桜以外」と言ってみる。 「桜以外で、ですか?」 木村の注文には唸りながら考えたが、 「...プロにお任せしますよ、花はたいてい何でも好きですよ。ただ、桜が別格に好きなだけで。色は、淡い色がいいです、暖色系の。」 と答えた。 「分かった。じゃあ俺のちゃんのイメージで作ってみるよ、楽しみにしててよ?」 「...うわあ、何か怖いですね。どんなだろ。」 と木村が談笑している横で鷹村が話題に取り残されている。結果的に無視される形になった鷹村は面白くない。 その様子を横目でちらりと見た木村が、 「ところでちゃん、一歩の全日本新人王の試合のビデオあるけど見ない?」 と、自分の安全を確保するためにも話題を変える。 「おう、そうだ。見て行け。」 自分も入れる話題が出て、鷹村は少し嬉しそうな声を出す。 しかし、 「あー、ごめんなさい、昨日見ちゃいました。私も一応ビデオに録っていたんですよ。」 という答えが返ってきた。 木村の意図が分かっている分、申し訳なさそうな声を出す。 「あ、じゃあ、私そろそろ帰りますね。」 時計を見たは時間も遅いので帰ることにした。 が帰ったあと、やはり鷹村の面白くないのが抜けず、木村は八つ当たりを受けていた。 3月1日。 と、一歩の学校の卒業式が行われた。 部の後輩からは、木村園芸で作ってもらった花束と色紙を渡される。後輩たちが言うには宣言どおり、のものは木村が作ったらしい。 (...木村さん、これのイメージ、さっぱり分かりません。まあ、聞いても教えてくれないんだろうな。) は、木村が自分にどんなイメージが抱かれているか分からない花束を凝視した。 とりあえず、友達とは夕方から出掛ける約束をして学校を後にした。 帰る方向が同じだった男友達と一緒に各々自転車で帰っていると、前を歩く見覚えのある人影に気付く。 「...宮田君?」 後ろから呼ばれ、宮田は振り返った。そこには、制服姿のと、男子生徒が並んでいた。 「さん...」 「どうしたの、こんな所で...あ、幕之内君か。」 そう言っては宮田と隣の男子生徒を見比べる。 「ねえ、佐藤君。学ラン貸して。宮田君、それ着て。」 「「はあ?」」 突然そんなことを言う。 心なしにの隣に立っている男子生徒を睨んでいた宮田と、 気のせいかよその学校の制服を着たの友達らしき男に睨まれていた佐藤と呼ばれた男子生徒は間抜けな声を出す。 「ダメ?宮田君って学ラン似合うと思うんだけどな。」 いつもそう思っていたは機会があれば宮田に学ランを着せてみたいと思っていたのだ。 「いや、いいよ。」 そう言って佐藤は学ランを脱いで宮田に渡す。受け取った宮田は渋々ブレザーを脱いでネクタイも解き、渡された学ランに袖を通す。 は、すかさず鞄に入れておいたデジカメを取り出して 「宮田君、撮ってもいい?」 とウキウキしながら言う。そんなの頼みを無碍に断れない宮田は不承不承に頷いた。 1枚撮って満足したの様子を見て宮田は学ランを脱ごうとしたが、 「さん、2人で撮ってあげるよ。ポーズとってよ。」 という佐藤の申し出にが喜び、それが阻まれる。 しかし、ポーズを取れと言われると逆にどうしたらいいか分からない。 腕を組むのも何だかヒネリが無いし、普通(?)のピースサインなんて宮田がするはずが無い。 結局思いついたのが、宮田といえば、ボクシング。ボクシングといえば、ファイティングポーズ。 ということで、軽く宮田を説得し、ファイティングポーズを取る。 しかし、のポーズに納得のいかなかった宮田が矯正をする。 自分の納得いく形になってやっと宮田はに並んでファイティングポーズを取り、佐藤がシャッターを切る。 宮田は学ランを返し、自分のブレザーを着た。 「じゃあ、さん、あとでね。」 そう言って佐藤は一足先に帰っていった。 「さっきの奴、さんの彼氏だったんじゃないのか?先に帰らせて良かったのか?」 が自分と並んで帰れる事は嬉しいが、気になる宮田は聞いてみた。 「いや、彼氏なんていないよ、私。彼は、部活関係で仲良くなった友達。そんなに甘い雰囲気だった?」 宮田は、の答えに気を良くする。 「そういえば、宮田君。ボタン無事だね、意外だなぁ。」 「すぐに学校出たからな。さん、その花束、後輩から?」 自転車の籠に入っている淡い暖色系の色でまとめられた花束に気付く。 「そう。木村さんのお手製だって。何やら木村さんの持ってる私のイメージらしいんだけど、何か分かる? 私さっぱり分かんないんだよね。まあ、悪そうじゃないからいいかな、と。」 「ふうん。(悪いはず無いだろ。)まあ、あの人も器用だよな。」 宮田はその花束を見つめながら言った。 「そういえば、宮田君。幕之内君に会いに行ったのって海外のことで、なんだよね?」 「そうだけど、どうかしたか?」 宮田はに視線を移し、聞き返す。 暫くは考えて、 「じゃあ、私が1番に聞いちゃったって事?良かったの?私が1番で。」 「ああ、別に。さんにも言っておこうと思っていたから訪ねたんだけど?」 (何故?!他にも言っておいた方が良い人居るんじゃないの?...まあ、彼の中で理屈が通ってるんだろうな。) そう思案しているの姿を見て宮田も、 (俺の戦っている姿を見せてくれってあの手紙に書いてあったから、さんの受験が一応終わるのを待って復帰を教えに行ったのにな。...やっぱ、深い意味は無かったか。まあ、さんだし。) と思っていた。 突然、「あ。」と言っては自転車を停め、鞄の中を漁ってメモ帳を取り出す。 の動きに合わせて足を止めた宮田がの手元を覗き込むと、何か書いている。 「宮田君、これウチの住所。手紙頂戴って言っていたのに住所教えていなかったから。年賀状出していたから知っているかもしれないけど、まあ、一応ね?」 「じゃあ、一応貰っておくよ。」 宮田は、大人しくそれを受け取った。 家まで送ると宮田は申し出たが、まだ明るいし宮田も海外行くのに準備があるだろうから良いとが断った。 「宮田君、頑張ってね。」 あの笑顔で宮田の肩をポン、と叩いたは自転車に跨り、帰って行った。 宮田は、応援するようにチリンチリンと自転車のベルを鳴らしながら小さくなっていくの後ろ姿を見送った。 |
高校の卒業式は全国一律3月1日と思っているのですが...違いました?
佐藤君は今回限りの出演です。
宮田に学ラン着せるために出来た話といっても過言ではない。
似合うと思いませんか?
個人的に男子の制服は学ランが好きです。
桜風
05.2.5
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