花火
| 「ちゃん、これ見て。」 資料の整理をしていたに木村が声を掛ける。木村が手にしているチラシを受け取ってそれを見ると、 「花火大会、ですか?」 「そう、花火大会。もし良かったら一緒に行かない?」 「木村さん、試合は?」 「日にち見てごらん。緒戦が終わった3日後だよ。試合の内容にもよるけど、まだ休んだ方が良いし。ちゃんもバイト無い日だろ?」 「ああ、本当ですね。じゃあ、行きたいですね。」 木村はに背を向けて小さくガッツポーズをした。 「木村さん?」 そんな木村を訝しく思ったが木村の名前を呼ぶと、くるりと振り返った木村が爽やかな笑顔を浮かべ、 「いや、何でもないよ。じゃあ、車で迎えに行くよ。会場の近くは道路が込むだろうから、うちに車を置いて歩きになるけど。会場には俺のうちの方が近いからね。」 「はい、分かりました。」 時間を指定して木村は部屋を出て行った。 ドアを閉めて、木村は再び「よっしゃ!」と小さくガッツポーズをして練習に戻った。 その日のジムには、気合の入った練習をする木村の姿が見られた。 緒戦を突破した木村は、気持ちよく花火大会の日を迎えることが出来た。 時間に間に合うようにの家に向かう。 インターホンを押し、反応を待つと、 『はい。』と男の声で返事がある。 父親か?!と緊張し、 「木村と申しますが、さんと約束をしていたのですが。」 と言うと、向こうから、 『ちょっと待ってくださいね。姉ちゃん、木村さんだって。早くしろよ。』 『分かってる。』 と言う会話が漏れてきた。どうやら弟だったらしい。 嫌な汗かいちまったな、と思っていると玄関のドアが開き、浴衣姿のが出てきた。 「ごめんなさい、お待たせしました。」 「いや、大丈夫だよ。」 木村は、気を緩めるとにやけてしまいそうになる顔を必死に引き締めている。 木村の家に車を置き、歩いて会場へ向かう。 「ちゃん、浴衣可愛いね。」 「そうですか?ありがとうございます。今年買ってもらったばっかりなんですよ。」 会場が近づくとだんだん人が増えてきた。 「ちゃん、大丈夫?」 「大、丈夫、ですぅ。」 人混みに揉まれ、全く大丈夫そうに見えないの答えに木村は苦笑してその手を掴み、 「はぐれちゃいそうだからね。」 と言って木村はの手を引いて歩いていく。 この花火大会は毎年のことで、木村も何度か来たことがある。 花火の見えやすい場所まで行き、名残惜しいがの手を離す。 「此処からならよく見えるよ。」 木村がそう言ったと同時に、ドーンと花火の上がる音がした。 が歓声を上げながら花火を仰ぎ見る。 木村はそんなの様子を満足そうに眺めていた。 「来年もまた来ない?」 花火も終わり、帰る途中に木村がに言ってみた。 「...都合が付けば。木村さんって夏に試合多いじゃないですか。」 木村は自分の試合を思い出し、確かにそうだと納得する。さすがに試合前にはこんな時間は無い。 来年もこの時期に試合が入るなら花火大会前に終わるといいな、と思いながら歩いていると、 「あ。」と言ってが足を止める。 「どうしたのちゃん。...って、下駄。」 「取れちゃったみたいです。歩き方が悪かったのかな。」 鼻緒を弄りながらが呟いていると、木村がの前に背中を向けて屈む。 「ほら、それ持って。おんぶしてあげるから。」 「え?!いいです、頑張ってけんけんで帰ります。」 真っ赤になってが断る。 そういえば以前お姫様抱っこをしたときも真っ赤になって嫌がったな、と木村は思い出し、 「お姫様抱っこと、おんぶ。どっちがいい?選ばなかったらお姫様抱っこだよ。」 と言ってみると、は固まり、 「お、おんぶ?」 抵抗してもけんけんで逃げ切れるなんて思えないは答えた。 「相変わらず軽いなぁ、ちゃん。」 をおんぶした木村が呟く。 「前に抱えられた時よりは重くなっている筈ですよ?」 耳元近くから聞こえるの声に木村はドキッとして体温が上がる。 (俺は青い春真っ只中の学生か?!こんなこと位で緊張すんなよな。) 自分の反応に心の中で毒づき、苦笑する。 「どうかしましたか?」 いきなり笑いはじめた木村を怪訝に思い、が声を掛けると、 「いや、俺もまだまだだなと思ってさ。」 という言葉が返ってきた。 よく分からないが、とりあえず「はあ」と曖昧な返事をして話を終わらせた。 を家までおぶって帰り、鼻緒を直してやる。 「木村さん...そこまで器用な人だったんですね。鼻緒直せる20歳って中々居ませんよ。」 は感心して声を漏らす。 木村は苦笑して、 「はい、直ったけどきつくない?」 との足に下駄を履かせてやる。 どうでもいいが、そんな自分たちの様子を微笑ましく見守っている両親の視線が凄く鬱陶しい。 両親を睨みつけてを送るために家を出る。は丁寧に木村の両親に挨拶をして車に向かう。 「木村さん、今日はありがとうございました。楽しかったです。」 「それは良かった。俺の方こそ付き合ってくれてありがとう。また何かあったら、どっか行こうよ。」 さりげなく約束を取り付けてみると、 「いいですよ、たいてい暇ですから。」 という答えがあっさり返ってきた。 を送り届けて独りで帰るときには木村の顔の筋肉は緩みっぱなしだった。 対向車線を走っている車の運転手が何か変な物を見るような顔をするが、そんなことは気にならない。 木村は次はどこに行こうかと計画を立てながら家路に着いた。 |
『鬼(宮田)の居ぬ間に』第2弾。
えーと、キム兄さんのファンの方、ごめんなさい。
どうもこの連載のキム兄さんは、結構締りのない顔をするようです。
初めは鼻緒を直すだけだったのですが、
これ以上キム兄さんの器用っぷりを披露してもなぁ、
と思い、おんぶを入れることになったのです。
それが入ったからと言って大して甘い物にはなりませんでしたが。
桜風
05.3.26
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