彼女の闘い ―前編―
| 試合から数日後、宮田は鴨川ジムに向かっていた。 辞めたとは言え、自分のボクシング人生の半分以上はあのジムで過ごした。 自分がベルトを獲れたことの挨拶に行っておこうと考えたのだ。 ジムに着くと後ろで騒がしい気配がしたので見ると、鴨川軍団がロードから帰ってきたところだった。 「あ、宮田くーん。」 一歩が宮田を目敏く見つけて、ダッシュして来る。他のメンバーも寄って来て口々に祝いを言う。 「どうしたんだよ、宮田。こんな所で。」 「一応、会長に挨拶をしに。木村さんもスパーのパートナーありがとうございました。」 「宮田君、会長はたぶん会長室にいますよ。」 宮田が会長室へ行くために階段を上がるが、なぜか皆もついて来た。 何を言っても無駄だろうと思い、好きにさせる。 会長室の前に行き、ノックをしようとして、手を止める。 中から声がした。会長と、八木と...女の人だ。 「どうしたんだよ、宮田。」 ノックをしない宮田に鷹村が後ろから声を掛ける。 「...そういえば、さんの代わりにバイトに入っている人、居ませんよね。今面接中かもしれませんよ。女の人の声がしますから。」 「何?!」 宮田を押しのけ、鷹村がドアに耳をつける。他のメンバーもドアの向こうに気を向ける。 「...い。それ..手術が明日な...。」 ―――手術。 どうやら面接ではないようだ。 「そうか、さん.......だね。」 「.....に...のか。」 ?!ちょっと待て! 誰もが思ったそのとき、鷹村が勢い良くドアを開ける。 部屋の中に居た3人は驚いて振り向き、鴨川軍団も部屋の中に居た女の人を見て驚く。 「間柴妹!」「久美さん(ちゃん)?!」 4人は同時の声を上げた。 会長室にいたのは、間柴久美だった。 「何じゃ、キサマらは。練習に戻らんか!...宮田も来とるのか。」 「ベルトが獲れたので挨拶に、と思いましたから。」 「そうだね、宮田君。おめでとう。」 八木が笑顔で祝いの言葉を口にする。 「そんな話、今は全くどうでもいい。おい、間柴妹、さっきが手術とかどうとか言ってたろ。何のことだ。」 プロボクサーたちの真剣な眼差しを一身に受けた久美は動揺する。はっきり言って怖い。 八木が久美の前に立ち、 「ちょっと皆、とりあえず落ち着いて。間柴さん怖がっているでしょ?」 「じゃあ、八木さんが説明してください!」 いつも穏やかな木村が強い口調で言う。 「ワシらは、お前たちに話してやれることはない。早く練習に..「分かりました。」 会長の言葉を制して久美が口を開く。 「でも、先に1つだけ約束してください。話を聞いても絶対にさんに会いに行かないでください。」 「間柴さん...?」 久美を庇うように立っていた八木が驚いて振り向く。 「大丈夫です。今日、ここに来る前に 『あのジムの人たちお行儀の悪いところあるから、立ち聞きの可能性あるんだよね。もし、聞かれて説明しろって暴動起きそうだったら説明してもらえないかな? でも、これだけは約束させて。絶対に病院に来ないって。もし誰か一人でもその約束破ったら、私は全力をもって一生姿を晦ませる。そう伝えて?』 ってさんに言われていますから。」 全力をもって一生姿を晦ませる。 ならやりかねない。皆は約束をした。 このまま立ち話というのも何なので、皆はソファーに腰を下ろした。 |
前編は短いですが、後編はこれより長いです。
後編では彼女の近況が明かされます。
桜風
05.5.7
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