軍神

 


がバイトに復帰して1ヶ月以上が経過し、鷹村の世界前哨戦の日が来た。

も皆と一緒に観戦していた。

前座の板垣はデビュー戦が負け試合となり、そんな板垣を心配した一歩は控え室に向かった。

続いての木村の復帰戦は、間柴線を再現しようとしたが、地元贔屓とも思われる判定で辛くも勝利した。


そして、メインの鷹村の試合となった。

前回の試合同様に熊の毛皮を着ての登場するも、フラついている。

皆の脳裏に嫌な予感がよぎる。

「...減量失敗ですかね。」

「ちょっ、ちゃん思ってても言っちゃダメだよ。演出かもしれないでしょ?」

木村も同じことを思っていたが、それはそれで恐ろしいことなのでフォローを入れる。

鷹村が熊を取るとげっそりとした姿が現れた。

皆が絶望の声を上げる。

減量に失敗した鷹村にいつものパンチは無く、苦戦する。

第6ラウンド、クリンチで必死に逃れていた鷹村が突然何かにキレた。モーリス・ウェストをリングの外へ殴り飛ばす。

その先には、次の対戦者である世界Jミドル級チャンピオン、ブライアン・ホークの姿があった。


試合終了後、も皆と一緒に鷹村の控え室を訪ねた。

記者たちが押しかけているが、とりあえず部屋の奥まで入る。

「ちょっと道を開けろ、お出ましだ。」

ドアが開き、ブライアン・ホークが部屋に入ってきた。

記者がホークに訪日理由を聞いた。

「日本には好物を食べに来た。」

そんなことを言うホークにそれは何かと聞くと、東洋の、日本の女を食べにきたと言う答えがある。

ホークのナメた態度にキレた鷹村が素手で殴りかかろうとするのをプロ3人組が止めるが、それを振り切る。

しかし、ホークはその鷹村の拳を余裕で受け止めた。

そしてホークは後ろにいるへ目を向け、下卑た笑いを浮かべながら、

「お前も俺が食ってやってもいいぞ。世界一の男に抱かれるなんて光栄だろう。」

と言ってきた。

は一応自分の後ろに誰も女性がいないことを確認した後、自分であるかをジェスチャーで聞く。

それに尊大な態度で肯定を示したホークをは笑う。

「残念ながら、私はあなたのような品性の欠片も持ち合わせていない方とはお近づきになりたいなどと微塵も思いませんね。」

と英語で言い切る。

その言葉にホークは殺気立ち、睨みつけながら2、3歩に近づいた。

も目を逸らすことなく睨み返す。

しばし対峙していたが、再びホークが口を開く。

「試合が終わった後、キサマは後悔するだろう。世界最強のこの、ブライアン・ホークにそんな口を利いたことをな。」

「それは貴方の方でしょ?試合が終わったとき、キャンバスに沈んでいるのは貴方なんですから。今は、世界最強の、ブライアン・ホークさん?」


ホークはをきつく睨み、部屋から出て行った。

記者たちもそれに続いて慌しく出て行った。


最後の記者たちが出て行った後、はその場に脱力する。

「うわぁ、凄いプレッシャーだった。今頃震えがきてる。」

、中々のメンチだったな。ところで何て言ったんだ?」

「...秘密です。ただ、何となく日本人がナメられっぱなしってのが我慢できなくて思わず色々言っちゃいました。」

「全く、冷や冷やさせるわい。」

会長が腕組みをして苦い声を出す。

「ごめんなさい。」

「まあ、無事でよかったよ。あんまり無茶しちゃダメだよ。」

「はい...」


翌日、が大学の教室にいくと、先に来ていた友人たちが興奮気味に声を掛けてくる。

「ちょっと、。これあんたでしょ?」

手に持ってたスポーツ新聞をの目の前に掲げる。

近すぎて焦点が合わなかったはそれを受け取り、改めて掲載されている写真を見る。

「何これ?!」

思わず声を上げた。

新聞には、『次はお前だ、ホーク』と見出しと共に、鷹村がホークに殴りかかったときの写真が載っていた。

それはいい。そこまでは普通のスポーツ記事だ。

しかし、もう1つ、『軍神現る?!』と言う見出しが付いてホークとにらみ合っているの写真までもが掲載されている。

丁寧にも、英語の会話だったものもかなり誇張して日本語に訳して一緒に載っていた。

は新聞ごと机に突っ伏した。

(しまったぁ、記者さん居たんだった。...ボクシング見ない人は興味ないよね、大丈夫だよね。でも、他社のもこうなっていたらどうしよう。)

当然の事ながら、なっていた。見出しも何社かは『軍神』とか書いてあったし、会話の内容も誇張された物がしっかり記載されていた。


時間は遡って、宮田家。

朝のロードが済んで、シャワーを浴びてスポーツ新聞を父に譲った宮田はテレビをつける。

突然父がコーヒーを噴出した。

何事かと怪訝な顔をして宮田が振り向くと、新聞から目を離さずに父が、

「一郎。さん、凄いことになっているぞ。」

と言う。

スポーツ新聞にが載る筈がないと思った宮田は面倒くさそうに父の持っているスポーツ新聞を覗き込んだ。

一瞬自分の目を疑った。確かにだ。

しかし、何故がJミドル級の世界チャンピオンと睨み合っているのかが分からない。

記事を読んで呆れた。

多少の誇張表現はあるだろうが、何と言うか、強気だ。

さん、鷹村さんの試合が終わるまで周りで煩いだろうな。」


宮田の予想通り、何度か記者に絡まれたが、会長や、プロのメンバーに助けてもらっていた。



そして、12月20日、決戦の日が来た。

前座の一歩は第1ラウンド32秒という記録で試合を終わらせた。


は入り口に出店していた売店の手伝いをしていたが周りが騒ぐので八木の許可を取って控え室に向かった。

そろりとドアを少し開けて中の様子を窺う。

日本のトップボクサーたちが激励に来ていた。錚々たる顔ぶれに場違いだと思ったはドアを閉めようとした。

しかし、

「あ、あんた『軍神』やろ?入って来んの?」

目が合ってしまった千堂に呼び止められる。そのまま腕を引かれて控え室に入る羽目になった。

「おう、。上の売店で売り子してたんじゃないのか?」

「珍獣よろしく好奇の目を向けられて嫌だったんで、八木さんの許可を貰って降りてきたんですよ。」

「このお嬢さんがあの『軍神』か?見掛けによらないな。」

「おうよ。オッサンも知っているのか。って言うんだ。こう見えても一歩や宮田と同じ年だ。高1の頃からジムでバイトしてるベテランだぜ。」

「一応知っていると思うが、伊達英二だ。お嬢さんの啖呵は痛快だったよ。」

「えっと、ありがとうございます...?です。それ、忘れていただけませんか?何か、言われるたびに恥ずかしいんですけど。」

「無理だろ?世界広しと言えど相手が世界チャンプだって知っていて啖呵切れる女の子なんて少ないと思うぜ?睨み返していたようだし、さん。」

は宮田に言われて激しく後悔しながら頭を抱えた。

短気で強気な自分が憎い。

ボクサー集団から離れたところで苦悶しているをよそに、伊達たちは日本のボクサーの誇りを鷹村に託して控え室から出て行った。

「じゃあ、さん。あんまり気にするなよ。」


鴨川メンバーも一言ずつ鷹村に声を掛けていく。

青木、木村、板垣、猫田、ハチ、一歩、そして、

「鷹村さん。今日鷹村さんが勝たないと、私の啖呵も所詮遠吠えって事になるんですよ。だから、頑張ってください。」

「おう、まかせろ。ジムへのクリスマスプレゼントにベルト持って帰ってやる。」

不敵な笑みを浮かべる鷹村に、も不敵な笑みを向けてグローブに軽く拳を合わせた。


試合開始のゴングが鳴る。

第5ラウンドまで一進一退の攻防が続く。

しかし、第6ラウンド。

減量苦の鷹村はスタミナが尽き、ホークの攻撃をひたすら耐え凌ぐ。

今まで見たことの無い鷹村の姿に会場は静まる。

「鷹村さん、ジムへのクリスマスプレゼントにベルト持って帰ってくれるんじゃないんですか!」

突然が声を上げた。

パンチの音のみが聞こえる会場にの声が響く。

周囲は驚き、に注目していた。

「応援できてるのはさんだけじゃないか。情けない身内だな。」

いつの間にか来ていた宮田が鴨川メンバーに向かって言う。

宮田の言葉にカチンときた彼らは声を出し、再び応援をする。

それが引き金となり、会場中が応援し始めた。

第7ラウンド、ついに鷹村がキレた。

ホークのダウンを奪ったことにも気付かず攻め続ける。そんな鷹村にホークは恐怖を覚え始め、次の第8ラウンドでホークがダウンし、カウントが始まる。

決まったと確信した鴨川軍団はリングに向かって走り出していた。

「ほら、ちゃんも。」

木村が誘うが、は首を左右に振る。

「私はもう帰りますよ、明日の授業で提出する課題がまだ残っていますから。鷹村さんたちに宜しくお伝えください。」

そう言っては出口に向かった。

10カウントが終わり、鷹村の腰にベルトが巻かれて勝利インタビューが行われた。

初めはしおらしく答えていた鷹村も調子に乗り、最後には客席から非難されていた。

ホールを出ながらその様子を聞いていたは苦笑をしながら溜息を吐いた。

(残ってなくて良かった。)



翌日のスポーツ新聞に、再び『軍神』が載っていた。

を知る者は皆苦笑を漏らしたと言う。




かなり原作をいじってしまいました...

ホークの言葉はなるべく濁すようにしてみたのですが、
やはり、かなり不快なものになってしまった模様。

斜字体で書かれた文字は英語での会話だと思ってください。

特別出演:千堂・伊達...。
期待した方すみません。もう、彼らは出てきません。



桜風
05.7.2


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