プレゼント ―木村編―



以前、自分の誕生日に木村からプレゼントを貰っていたは、木村の誕生日にお返しをしなければ、と思っていた。

しかし、今年の木村は自分の誕生日の数日後に試合を控えていた。

お祝いなんて出来る状況ではないので、はその試合が終わってから木村に話をすることにした。


試合の2日後、がバイトのためジムへ行くとなぜか木村が来ていた。

「木村さん、お休みしなくて大丈夫なんですか?」

の口にした疑問に、木村はバツが悪そうに笑って、

「いや、不甲斐ない試合しちゃったからね。」

と答えた。

「そうですか。そうそう、木村さん。もう過ぎちゃいましたけど、誕生日プレゼント何が欲しいですか?」

の言葉に木村は驚き、

「いや、そんなの気にしないでよ。...ちゃん、俺の誕生日覚えてくれてたんだ。」

と嬉しそうに話す。

「そりゃ、『目の愛護デー』ですから。」

「『体育の日』じゃなくてそっちなんだ...」

「いや、体育の日は誰でも言うかなっと思って。で、何がいいですか?私の誕生日祝ってもらったんだからお返ししたいです。」

に言われ、木村は悩む。

自分が欲しいと思うものは簡単に手に入らないし、何より、努力無しで手にすることは出来ないものだ。

「うーん、そうだな。...あ、これがいいな。」

「何ですか?」

ちゃんの手料理。」

「...は?え、私の手料理とかって言いましたか?」

「そう。ちゃんの作ってくれたご飯が食べたいな。これ以外思いつかないよ?」

「でも私、料理自慢できるほど得意ってわけじゃないですよ?カロリーとか考えて作るのだって出来ませんし。」

「当分試合が無いから大丈夫。」

「―――、分かりました。じゃあ、明日の昼食なんてどうですか?急すぎですか?」

「明日?いいけど、ちゃん学校は?」

「創立記念日でお休みです。じゃあ、明日の昼食をご馳走しますね。そういえば、木村さんって好き嫌いあります?」

「無いよ、何でも食べられるよ。」

その後、約束の時間を決めてそれぞれ仕事と練習に戻った。


は家に帰るなり料理の本を漁る。

消化吸収の点からパスタがいいと聞いたことがある。

木村は気にしなくてもいいと言ったが、出来ることがあるならやっておきたい。

クリームソースはどう考えてもカロリー高いし、肉を使うのも同じくカロリーは高い。

そう思いながらページを捲っていたが、和風パスタのページで手が止まる。

(和風かぁ、これならカロリー低そうだね。でもこれだけだと絶対に足りないだろうから、サラダとスープをつけて...。

出来るかな。サラダとスープは朝のうちに作っておけば大丈夫だろうし。よし、決定!)



翌日、時間通りに木村はの家に着く。

 

ピンポーン


とインターホンを押すと

『はい。』

の声がした。

「木村です。」

一応では無い可能性もあるので慎重になる。

『はい、ちょっと待ててくださいね。』

そう言って少ししてエプロンを着けたがドアを開けて出てきた。

「いらっしゃい。どうぞ入ってください。」

ちゃん、これをどうぞ。」

木村は家で作ってきた花束を渡す。

「わあ、ありがとうございます。でも、私貰ってばっかりですね。」

「気にしないように。」

「はあい。じゃあ、どうぞ、上がってください。」

木村を促しては家に入る。


「適当に座って待っててください。」

パスタを茹でるためのお湯を沸かしながらは花を活ける。

木村はに言われて、とりあえずソファに腰を下ろす。

ちゃん、家の人は?」

「居ませんよ。弟もテスト期間中ですけど学校ですし、他は仕事に出ていますから。」

「...そう。」

気の無い返事をするも、何だか落ち着かない。

とりあえず気を紛らせるためにもテレビをつけるが、結局の様子が気になり振り返る。

そのまま木村は、が食事の支度をしている姿を満足そうな表情で眺めていた。

「どうかしましたか?」

木村の視線に気付いたが声を掛ける。

「いや、いい匂いがするなーと思って。」

木村は適当に誤魔化す。

「もう少し待ってくださいね。」

そう言っては料理に集中した。


料理も出来上がり、は木村を食卓に呼んだ。

料理と言っても木村が来る前に殆ど済ませていて、パスタを茹でて他を盛り付けるだけだから殆ど時間は掛かっていない。

と木村はテーブルに向かい合って座り、

「じゃあ、いただきます。」

「いただきます。」

と手を合わせた。

木村が一通り料理を口にする。

「おいしいよ、ちゃん。」

心配そうに自分を見ていたに笑顔で感想を言う。

「本当ですか?良かったぁ。木村さんの誕生日のお祝いなのに美味しくなかったらどうしようかと思っていたんです。」


木村はの作った料理を綺麗に平らげた。

「はあ、美味しかった。ちゃん、ありがとう。いい誕生日プレゼント貰っちゃったな。」

「それは良かったです。木村さん、食後のお茶飲みます?緑茶入れましょうか?」

「ありがとう。」

木村は頬杖をついて洗い物をしているの姿を眺めていた。

何だか幸せな気分になる。


はお茶を淹れて、木村と自分の前にそれぞれ置く。

話をしていると、玄関のドアの開く音がした。

「ただいまー。姉ちゃん鍵掛かってなかったよ。」

そう言いながら制服を着たの弟がリビングに入ってきた。

「こんにちは、晃一郎君。大きくなったね。もしかして俺と同じくらいある?」

「あ、どうもお久し振りです。玄関の靴、木村さんのだったんだ。」

の弟は昔の忘れ物を届けに鴨川ジムに行ったことがあり、木村とも顔見知りだった。

ついでに、宮田もまだ鴨川ジムにいた時だったため、知っている。

「どうしたの、早いじゃん。学校で勉強して帰るって言ってたからお昼何も無いよ。」

「え、本当に?図書室いっぱいだったし、俺何も食べずに帰ったのに...。何か作って。」

溜息を吐きながらは立ち上がり、炊飯器を開ける。

「じゃあ、チャーハン作ってあげるから、服着替えて手洗いうがいしておいで。木村さんも食べますか?」

「いや、さっきたくさん食べたから。ありがとう。」


料理をしているにテーブルについたままの木村が、

ちゃんって何でも作れるんだね。前に食べたパウンドケーキも美味しかったし、さっきのも勿論美味しかったし。

いい奥さんになるよ。(いっそ『ウチに嫁においで』って言えたらなぁ。...言えないよなぁ。)」

「...木村さん?」

何やら考え込んでしまった木村には声を掛ける。

「ダメだって、木村さん。こんなガサツで大雑把で口煩いのと結婚なんてしたら大変ですよ?まあ、外ではどうかは知らないけど。」

「晃一郎はお腹いっぱいなんだ。そうか。」

「ごめんなさい。これ以上に無いくらいのお買い得な物件です。」

は肩を竦ませて弟の前に出来上がったチャーハンを置く。

ちゃんってそうなの?ジムではよく気が付くし、気配り上手なのに。」

「姉ちゃん、何年猫被ってんの?」

「煩いな。外ではそれが素なの。第一、口煩いのだってあんたがきちんとしないからでしょ?」

「何か、兄弟っていいね。俺一人っ子だから少し羨ましいな。」

「「煩いだけですよ。」」

と晃一郎がハモった。

木村は思わず噴出す。それにつられてたちも笑った。

「そういえば、木村さんは今日は何でウチにいるんですか?」

ちゃんが誕生日を祝ってくれるって言うから、お言葉に甘えて。」

「へえ、おめでとうございます。ところで姉ちゃん、玄関の花は?俺が学校行くときなかったよね。」

「木村さんが持ってきてくれた。」

「...誰の誕生日を祝ったって?」

「木村さん。」

姉弟の会話を微笑ましく見守っていた木村が突然、

ちゃん、アルバム見せて?」

と言ってきたので

「はい?」

軽い口げんかを続けていたは聞き返した。

「アルバム見せて欲しいな、ダメ?」

「...まあ、学校のだけならいいですよ。」

そう言っては自室に帰って行った。


少ししてがアルバムを3冊抱えてきた。

「これが小学校、こっちが中学で、最後に、高校。高校は幕之内君もいますよ。」


晃一郎も混ざって3人でアルバムを見ながら騒いでいたらあっという間に時間が過ぎた。

木村もジムに行かなくてはいけない時刻になったので家を辞した。


(来年も、誕生日プレゼントはこれがいいな。)

ジムに向かう木村はそんなことを考えていた。



イベント事、第二弾。キム兄さんの誕生日。
...宮田は前後編だったのに、ねぇ?

時間的には前回の話の中間くらいですね。
割って入るわけにはいかないので時間が遡りました。

ヒロインの弟のことはもっと早くに説明を入れておいた方が良かったかなとも思ったのですが、
結局ここでということになってしまいました。
存在自体はも少し前からちらほら話題に出していたのですが。
でも、別にキーマンってわけではないですよ。一応。



桜風
05.7.9


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