| 「そういえば、宮田。お前って昔から時計してたっけ?」 紅茶専門の喫茶店に入って休んでいるときに木村が宮田に聞く。 宮田の腕には頑丈さが売りになっている有名ブランドのスポーツウォッチがある。 「いえ、最近からですよ。」 「ふうん、いい時計だな。」 「俺もそう思っています。もらい物なんですけど、かなり気に入ってますよ。」 「もらい物ってファンの人から?」 が興味を示して聞くと、宮田は少し悩んで、 「(笑)が付く、ね。」 と言った。 ずっと素知らぬ顔をしていたは思わず吹き出してしまった。 「何、ちゃん。」 隣に座っていたが訝しがる。 「いや、どんなファンなのかなって思って。変わってる人なんだろうね。」 「たぶんね。」 ふっと笑いながら宮田は答えた。 「あ、ちゃんのところの一郎君じゃない、あれ。」 が同じ店の中にいるカップルを指して声を掛けた。 「ああ、そうだね。ウチの一郎だ。」 とも答える。 ((一郎?)) 事態が飲み込めていない宮田と木村がたちの視線を辿ると、その先にいるのはの弟の『晃一郎』だ。 2人の悩んでいる姿を見たが、 「どうしたんですか、何か複雑な表情をしていますよ。」 と声を掛けてみる。 それを聞いては焦り、宮田に手を合わせた。 「ああ!ごめん、宮田君。かなり気が緩んでた。」 と謝る。 「何?」 が謝った理由が分からないが聞くと、 「宮田君の名前、『一郎』っていうの。ごめんね、紛らわしいことを言って。」 「いや。さんって晃一郎君のことをそう呼んでたんだ。(いい響きだ...)」 「うん。従兄弟に『幸一』っていうのがいて、ちゃんの弟が『孝士郎』君で、話をするのに紛らわしいから。 従兄弟は『幸君』って呼んで、ちゃんの弟は『士郎君』って呼んで、ウチのを『一郎』って呼んでたの。あ、ちなみにの弟は『竜也』って言うんですよ。」 「木村さんが『タツヤ』なの?これは紛らわしくなるね。さて、と。行って来ます。」 そう言ってが席を立ち、晃一郎に向かって行った。 「何する気なの、ちゃん。」 木村が聞いてみると、 「ウチの弟、のお気に入りなんです。たぶん、からかいに行ったんじゃないんですかね。」 「でも、晃一郎君って受験生だよね?」 の問いには溜息を吐きながら、 「そうだけど、『姉ちゃんも受験生のときに遊んだけど受かったんだから俺だって大丈夫だって』と言う言葉と共に、本当に遊び倒そうとしてるからね、あの子。」 「ちゃん、遊んでたの?」 「...ボクシング3試合見に行ったのを『遊んだ』と言うのでしたら、そうですね。」 「それって遊んだうちに入るのか?」 宮田が聞くとは肩を竦ませて「さあ」と答えた。 「そういえば、木村さんと宮田君。気を付けた方がいいですよ。」 とが思い出したように言う。 「何が?」 「2人も何やらのお気に入りになりそうですから。あの子、お気に入りはとことん構いたくなるみたいですから。たぶん、からかっておもちゃにされるのではないかと...。の一番のお気に入りはちゃんなんですけどね?」 に一度目を遣り、木村と宮田は、 「「気をつけるよ。」」 と答えた。 「でも、ネタがないとダメでしょ?」 が聞いてみるが、3人は黙り込んだ。 (ネタなら十分すぎる物がここにあるのよね...) は隣に座っている非常に鈍い親友をちらりと見て溜息を吐いた。 「どうも、木村さん、宮田さん。うわ、姉ちゃん似合わなっ。」 挨拶に来た弟の第一声には満面の笑みで弟の後ろにいる彼女に向かって、 「こんにちは、久し振りだね。ところで、何が知りたい?何歳まで夜中のお手洗い、私を起こしに来ていたか?それとも、初恋の相手とその終わり方かな?」 と声を掛ける。 「姉ちゃん、よく似合うよ。じゃあ、お邪魔しました。」 彼女にいらないことを吹き込まれそうになった晃一郎は姉を適当に褒めて彼女の手を引き、去って行った 。 「姉ちゃん強いな...」 木村が感心した声を漏らす。 「そんなもんですよ。」 「そうそう。下はね、どうしても弱くなりますよ。」 下に弟がいる、の両名がしみじみ言った。 一人っ子の宮田、木村にはよく分からない世界だった。 「ちゃーん、もう行こうよ。」 「先行ってて。」 休憩を終えて店を出ようとしたが、は茶葉の売られているコーナーから動こうとしない。 真剣な表情で紅茶を選んでいる。 こうなったら長いと知ってたが一応声を掛けてみたら、やはり予想通りの答えが返ってきた。 仕方がないので待ち合わせ場所を決めてとは自分たちの買い物をするべく、木村と宮田を引き連れて去って行った。 「疲れた...」 「試合とは別の疲れがありますね。」 結局たちの買い物に無理矢理付き合わされた木村、宮田は溜息を吐いていた。 「そういえば、ちゃんって何でいつもああいう服着ないんだろうね。かわいいのに。」 木村が聞いてみると、が 「それは私たちにも原因はあるんですけどね。ちゃんって結構潔い性格じゃないですか?だから、いっつも『かっこいい!』って言ってたんですよ。それは小学校の頃から言われてきたらしくて、今更『かわいい』だのって女の子扱いっていうかそういうのが必要以上に恥ずかしいんですって。ああ、勿体無い...」 「そうそう。髪を伸ばしたの見て『やった!』って思ったのに、次会った時あっさり切ってたからね。理由が『暑いから』っていうのにも泣けてきた..。でも、いつもの格好の方がお2人には安心じゃないんですか?ほら。」 そう言ってが指差した先には、何人かの男に囲まれて腕を掴まれているの姿があった。 知り合いといった感じではない。 それを見て走って行ったボクサー2人の背を眺めながら、 「やっぱりおもしろーい。」 と楽しそうに呟くに、は 「あんまりからかったらダメだよ?」 溜息を吐きながら声を掛けていた。 「人と待ち合わせをしていますから。」 「来てないじゃん、随分ここに居たんでしょ?来ないって。」 「来ます。私が早く来すぎただけです。とりあえず、手を離してください。」 たちと約束していた場所に一人で立っていたら声を掛けられて、腕を掴まれている。 (もう二度とこんな格好しない!) 心でそう誓うも、その前に今の状況をどうにかしたい。 考えていると、の腕を掴んでいた男が手を離して後ずさる。 ふと殺気らしきものを感じて振り返ると、そこにはOPBFチャンピオンと日本Jライト級トップランカーのプロボクサーが惜しむことなく殺気を放ちながらその男たちを睨みつけていた。 「あ、用事は済みましたか?」 彼女が2人に声を掛けたので男たちは、この殺気立っている2人が待ち合わせている人だと分かり何やらしどろもどろに言い訳をしながら去って行った。 「大丈夫だった?」 「怪我は?」 「大丈夫ですよ、子供じゃないんですから。結構付き合わされたみたいですね。」 「大丈夫〜?」 遅れてたちもやって来た。 「大丈夫。...買い込んだねぇ。そうそう、これ。」 そう言っては先ほど買った茶葉を取り出し皆に渡す。 「えーと?」 が聞いてみると、 「クリスマスプレゼント。全部私が飲んだことのあるものだし、クセのないの選んだからたぶん飲めると思うけど。」 予想外の出来事に、4人は呆然と「ありがとう」と礼を言った。 「さて、これからどうする?」 が聞いてきたのでは時計を見て、 「私はそろそろ帰る。今日バイトあるから。」 「俺、車で出てきてるけど一緒に行く?」 木村が言うが、 「いえ、一旦帰ります。この格好でジムに行きたくないし、何よりこれじゃあ仕事ができませんから。」 という答えが返ってきた。 こういう答えが返ってくると分かっていたが少し残念に思っていると宮田が、 「俺もそろそろ帰ってジムに行かないと。」 と言う。 「皆帰るのか。じゃあ、私らも帰る?」 が言い、が「そだね」と頷く。 「二人は家どこ?送るよ。ちゃんも家まで送ってあげるよ?」 気を取り直した木村が言うが、またしても、 「いえ、いいですよ。2人の家は高校の近くで私の家とは真反対ですから。その2人を送ってあげてください、荷物多いし。私は地下鉄で帰ります。」 と言ってあっさり断られた。 木村が内心がっかりしていたら宮田が 「じゃあ、さん一緒に帰るか。」 と言っている。 (なっ?!み〜や〜た〜。) 恨めしそうに自分に向けられる視線を無視しての返事を待っていると、 「そうだね、途中まで一緒に帰ろう。」 と言う返事があった。 それを聞いてとは気の毒そうに木村の肩をポンと叩いた。 そうしてその場で解散してそれぞれ帰って行った。 並んで歩いて帰路についていたが、ふと宮田が 「そうだ、さん。バイト終わる時間って前と変わらないよな。」 と、ずっと言い出そうと思っていた言葉をあたかも思い出したかのように言う。 「うん。9時に終わるよ、一応。」 「じゃあ、今晩10時ごろちょっと時間いいか?」 「?いいけど...」 「じゃあ、それぐらいに家の前にでも居て。」 「わかった。」 木村の運転する車の中でが、 「木村さん、頑張って〜。」 と励ましている。 「...宮田っていつもオイシイとこ取るんだよなぁ。」 「ちゃんは、『態々』っていうの恐縮しちゃうみたいですよ?もっとさりげなく!」 「ありがとう、頑張るよ。」 2人は『どちらでもいい』と言っていたのだが、あまりにも木村が頼りないので思わずアドバイスをしていた。 (あ、ポインセチアはいつ渡そう。ジムが終わってウチまで来てもらうか。) こうしてクリスマスの奇妙な買い物デートは幕を閉じた。 |
取り敢えず、クリスマスは終了☆
季節はずれも甚だしいですねぇ〜(笑)
桜風
05.8.6
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