| 「ねぇ、さん。いいでしょ?」 木村が廊下を歩いていると声がした。 の名前が呼ばれているので気になり、階段を下りる。 「―――、分かった。いいよ。」 「本当ですか?うわー、嬉しいな。楽しみです!!」 そう言って板垣がの手を握る。 (何、手ぇ握ってるんだよ!!) 木村は思わず板垣の頭をはたいていた。 「いてっ!木村さん、何ですか、一体。」 「いや、悪い。当たった。」 全く『悪い』などと思っていない木村は適当に謝る。 「ところで何の話をしてたんだ?」 「木村さんには秘密です!」「バレンタインにチョコが欲しいって板垣君が言うので。」 板垣とが同時に声を出したために微妙に聞き取りにくかったが、『バレンタイン』と言う言葉が聞こえたのは確かだ。 「さん、何で言うんですか?!」 「え、言っちゃダメだった?」 「バレンタインが何?」 「前から板垣君がチョコ欲しいって言ってたんですけど、根負けしちゃいました。」 「(コイツそんな事言ってたのかよ。)じゃあ、板垣にあげるんだ?」 俺だって貰ったことないのに、と思いつつも平静を装って聞いてみた。 「はい。今約束しましたから。毎年スタッフにはあげてたんですけどね。内緒だって言ってたのに篠田さんポロッと言っちゃったらしくて。だから、今年はスタッフとプロには配ろうかと。」 「え?!『プロ』って、俺にもくれるの?」 「板垣君にだけっていうのは不公平かと思ったので一応そのつもりですけど、要りませんか?」 「いや、楽しみにしてるよ。(それはもう、心から!)」 「あまり期待しないでくださいよ。ほら、板垣君、膨れてないで練習に行きなさい。木村さんも早く戻ったほうが良いんじゃないんですか?」 に促され、2人はジムに戻っていった。 「さんってお姉ちゃんみたいですね。」 「弟いるからな。あ、だからお前の我侭聞いてやろうと思ったんじゃねぇの?そういうのに慣れてるみたいだから。」 「木村さん、ボクに感謝してくださいよ。さんからチョコ貰えるのはボクのお陰ですからね!」 「はいはい、感謝してるって。」 「―――、と言うわけだから今年は多いんだよ。」 バイトが終わって家に帰ったは、高校からの親友と電話をしていた。 毎年バレンタインチョコはともう一人の親友と一緒に作っていた。 『それは、それは。(良かったね、木村さん。)じゃあ、いつもより時間掛かりそうだね。』 「そだね。...どうしようかな。」 『何が?』 「宮田君。なんかね、私の中で彼はまだ鴨川セットの中に入ってるんだよね。」 『鴨川セット...。試合は?』 「それについての心配はない。前日だから。」 『まあ、まだ一月あるんだし、ゆっくり考えなって。作る寸前まで悩んでみなさい。』 「うん。悩んでおくよ。」 「宮田君。」 独りで走っていると後ろから声を掛けられた。 振り返ってみると、 「さん。」 「こんばんは。良かった、違ったらどうしようって思ってたんだよ。いつもここら辺走っているの?」 「いや、今日は何となくコースを変えてみたんだ。さんは何でここに?」 自転車に乗っているが宮田の隣で一緒に走る。 「バイトの帰り道。」 「そう。」 「うん。それより、もしかして今減量中?試合近いんでしょ?」 「まだだけどそろそろ。何で知ってるんだ?」 「ちゃんから聞いたの。じゃあ、食べ物の話しても良い?...宮田君ってさ、チョコとか甘い物好きな人?」 突然そんなことを言うに眉を顰める。 「嫌いじゃないけど、特別に好きって程じゃないな。何?」 「バレンタインの...」 「売るほど来る。欲しい?何なら譲るけど。」 「うわーモテモテ。そうか、もう要らないか。ありがとう。参考になったよ。」 の含みのある言葉が気になった宮田は、 「ちょっと待って。一応聞くけど、『参考になった』って、何の?」 「いや、ちゃん毎年スタッフだけにあげてたのを今年はジムのプロの皆さんにもチョコ配ることになってね。それで宮田君どうしようって考えてたから。ちゃんの中では宮田君は未だに鴨川セットに入るんだって。それで仲間外れにするのに気が引けてるんじゃないのかな?で、欲しいならそう言ってたって教えたらちゃんの参考になるかな、と。」 「...。」 今更『欲しい』などと言えず、押し黙っている宮田を見てが笑を堪えている。 (面白い〜。でも、試合前の人をいじめるのは良くないよね。てか、ちゃんにバレたら激怒されそう...) 「冗談だって、半分。」 (半分本気なのか...) 「宮田君はバレンタインが悲惨だってことくらいきっとちゃんだって知ってるって。それも悩む原因のひとつでしょ?というわけで、さっきの宮田君のバレンタインのことは私は聞いてない、聞いてない。私は口出ししないから。じゃ、試合頑張ってね。」 そう言っては角を曲がって行った。 (何だったんだ、一体...) 何だかよく分からないの行動に首を傾げた。 それから数日後。 「木村さん。」 木村が振り返ると、 「ちゃん。どうしたの、そんな格好で。」 ジャージ姿のを見て驚き、のペースにあわせて走る。 「走ってるんですよ?私、元々体育系の人間ですから。中学と大学はバスケしてるんです。高校は何となく興味があったから文系のクラブでしたけどね。」 「そうだったんだ。」 「そうだったんです。そういえば、聞きましたよ。良かったですね。今年はちゃんからのチョコがあるみたいじゃないですか。と言うか、今までなかったんですね。」 「ああ、まあね。どこで線を引いたらいいか分からなかったんじゃないかな?」 「『線』、ですか?」 「そう。『線』。ちゃんって物事を公平にしたがるでしょ?スタッフと選手って線が引きやすいじゃない?練習生も含めて俺たちは現役、スタッフはOB。はっきり分かれているからね。あと、人数の問題もあったんだと思うけどね。」 「なるほど...。そう思ってたから木村さん大人しかったんだ。」 「―――今回強請ったの俺じゃないよ。」 「知ってます。板垣君とかっていう子でしょ?いちろ..晃一郎君のひとつ上で『人懐っこい子だから得な性格だよ、あの子』って言ってました。そういえば、悩んでましたね彼女。」 「宮田?」 「何で分かったんですか?そうなんです。宮田君は彼女の中ではまだ鴨川セットらしいですよ。」 「まあ、そういう子だからね。」 「おお!大人の余裕ですね、木村さん。」 「余裕、あるように見える?」 「無いんですか?」 「無いよ。なんかさ、ちゃんって宮田と居るときの方が伸び伸びしてない?」 「言葉遣いの問題じゃないんですか?木村さんには敬語ですけど、宮田君は同じ年ですから。ちゃんが2人と居たところなんてこの前に1回見ただけですからよく分かりませんけど、私から見たらまだ同じだと思いましたけどね。弱気になってたらどんな勝負も負けちゃいますよ?ガンガン行かないと!」 またしても頼りないことをいう木村を励ましてしまったは思わずその首を傾げる。 「まあ、宮田君はともかく、木村さんは確実に貰えるんですから。その分安心でしょ?」 「そうだね」と木村が呟いてチョコの話はそれでおしまいにした。 |
またしてもイベントモノ。
いい加減どうよ?!と思いつつまだまだ思いつく限りイベントさせていただきますvv
桜風
05.8.13
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