バレンタイン ―後編―





2月13日。

明日に備えてたちはの家でそれぞれの菓子作りに勤しんでいた。

「で、結局どうするの?宮田君は。」

が聞いてみると、

「一応作る。気付くかどうかは本人次第。」

「なに、それ?」

「今日が試合でしょ?私この後見に行くんだけど、その時他のファンの子に混ざって置いとく。」

「それこそ、『何それ?』だよ。本人に直接あげたら?」

「宮田君のファンによる出待ち、怖いよぉ?出待ちだけでも今度見に行ってごらん、凄いから。宮田君『貴公子』って呼ばれてんだよ。」

「貴こ..明日じゃダメなの?」

「疲れてるだろうから試合の翌日に訪ねて行く気にはならない。」

((ちゃんが来たらそんなの吹っ飛びそうだけどなぁ...))

そんなことを思われているとは知らないは黙々と作業を続けた。

が作ったのはビターチョコだ。せめて砂糖を控えめに、と思った上でのそれだった。


「うっわー、不恰好。」

自分のラッピングした物を見て呆れた声で呟く。毎年のことだがどうもうまくいかない。

「いやぁ、ちゃんらしいって。」

と、

も、

「そうそう。一生懸命さが出てるよ。」

とフォローを入れるが、

「...素直に『不器用』って言ってもいいんだよ?」

が言うと、

「「じゃあ。不器用だね、相変わらず。」」

と声を揃えて言う。

「...形じゃないのよ、心よ!『心』!!」

自分に言い聞かせるように親友2人に言った。


その後、の家を後にしたは予告どおりスタッフが後で選手に渡すボックスに自分が作り不恰好なラッピングとなった箱を入れて試合を観戦した。



翌日の2月14日。

がジムに行くと板垣が目敏く見つけ、

さーん。」

と走ってきた。

「板垣君...」

「ください!」

「ストレートだなぁ。ちょっと待ってよ。」

そう言って鞄の中から取り出して渡す。

「うわー、不恰好ですね!!」

「板垣君、場合によっては言葉をオブラードに包んだほうがいいよ?」

トホホといった感じで板垣に言ってはみるものの、全く聞きそうにない。

ちゃん。」

うっすら影を背負っているように見えるに木村が声を掛ける。

「ああ、木村さん。こんにちは。これ、約束のブツです。」

先ほどの板垣の一言でかなりへこんでいたは元気なく可愛さもなく木村に渡す。

「(『ブツ』って...)ありがとう。」

の様子が気になったが、何だか聞いてはいけない気がしてとりあえず礼を言うに止めた。

「木村さんのも不恰好ですね!もしかして、さんって不器用なんですか?」

おそらくそれがトドメの一言になった。

(コイツか...。)

の様子が変な理由が分かった木村は溜息を吐く。

「板垣、お前もう少し遠慮しろよ。第一、こういうのは形じゃなくって『心』、だろ?」

「そうですよね!『心』ですよね。ラッピング下手でも生きていけますもんね!木村さんありがとう。木村さんなら分かってくれると思いました!!」

よほど嬉しかったのか木村の手をガシッと掴み力いっぱい握る。

「いえいえ、どういたしまして。本当のことでしょ?」

(板垣、お前の毒舌もたまには役に立つな。)

と思いながら力いっぱいの(でも大して痛くはない)の手に握られたまま笑顔で思っていた。

その後、いつものように会長、八木、トレーナーというスタッフと残りのプロ3人に自作のチョコを配った。

鷹村には、

、お前不器用だな。何だこのラッピングは?!」

と言われたので、

「じゃあ、鷹村さんは無理に受け取って下さらなくても結構です!それ私が自分で食べますから返してください。」

と言って取り上げようとしたが全力で逃げられてそれは叶わなかった。

しかし、皆が文句なく『おいしい』と言ったのはそのすぐ後のこと。




さて、昨日宮田に渡したことになっているチョコは、と言うと...



試合の翌日、休養日となっているので宮田は自分宛に届いたものを整理していた。

物はともかく、手紙には目を通せとボクサーの先輩である父からいつも言われている。

ファンは大切にしろという事らしい。

面倒くさいが、先輩のアドバイスは聞いておいたほうがいいだろうと渋々手紙だけ抜き取る。

バレンタインの前日ということもあって、昨日会場で貰ったものはチョコとかクッキーとか甘い食べ物が多かった。

(そういえば、さんが何か言ってたよな。...望み薄だろうな。)

諦めかけたところで目に入ったものがあった。

それはなんとも『一生懸命包みましたけど、これが精一杯です。』といった感じの不恰好な包装がしてある箱だった。

他は『これでもか!!』と言うくらい綺麗に包装されて好印象を与えようと主張しているものばかりだったため、却ってそれは目立った。

「何だ?」

手にとって見ると、そこには見慣れた文字で『宮田一郎様』と書いてあった。

裏を見てみると、予想通り(笑)付きの『貴方のファンより』という文字がある。

包装を解いてみると中にカードが一枚入っていて、『味は保証するよ。』とだけ書いてあった。

宮田は箱の中身を口に含み、

「なるほど、保証されてるだけあるな。」

と嬉しそうに呟いた。




なんか、こういう恋愛要素をあまり含んでいないエピソードって書くの楽しいです。
本人たちは(宮田・木村)は思いっきり恋愛要素だらけですけどね!(笑)


桜風
05.9.3


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