| 「それじゃあ、さん。お願いしますね。」 「はい。宮田さんも気をつけて。」 9月の終わり、は宮田家にいた。 今朝宮田父から電話があって、宮田が珍しく風邪を引いて熱が高いのだが、自分はジムの選手のトレーナーとして4日程家を留守にするから看病を頼めないかと言われたのだ。 病気の人間を独りに出来るはずもなく、は承諾した。 そして冒頭の2行に戻る。 ノックをして宮田の部屋に入る。 「宮田君、調子どう?熱測って。」 「...ああ。悪いな、さん。」 宮田は掠れた声でだるそうに手を伸ばし、体温計を受け取る。 本当はこんな情けない姿なんて見られたくないのだが、動けないのだ。仕方が無い。 は宮田が体温を測っている間に額のタオルを換える。首筋に触れてみるが、やはり熱い。 「さん、体温低いな。...気持ちいい。」 「そうかな?宮田君が熱持ってるだけでしょ。ところで、何か食べたい物ある?買ってくるよ。何か食べないと薬飲めないからね。」 「...あー。」 何だかもう頭が回らない。 喉も頭も節々も痛いし、寒気がして力が入らない。 ピピピと電子音がしたので体温計を取り出し、宮田は自分の体温を見る。見なければ良かったと後悔しながらにそれを渡す。 「39度1分。...大丈夫?じゃなさそうだね。男の人って熱に弱い人多いよね。」 (いや、普通は39度あったら皆こんな状態じゃないのか?) 声を出す気力は無いが、宮田は思わずツッコミを入れていた。 「宮田君、この間試合があったから今はカロリー摂っても大丈夫なんだよね。喉痛いでしょ?プリン食べられる?買ってくるね。ちょっと出てくるけど大人しく...してるしかないから大丈夫か。」 が部屋から出て行った。 ここ何年もこんな酷い風邪なんて引いていない。熱は試合の後に多少出たりするが、これほどまでの高熱はさすがにない。 (天井がぐるぐる回ってる...) 宮田の意識はそのまま深いところへ落ちていった。 ふと、人の気配がした。 が帰ってきたのだろうと思ったが、目があけられない。 額のタオルが換えられてひんやりして気持ちがいい。このまま再び眠ってしまおうと思った時、の声が聞こえた。それはどこか寂しそうな、切なそうな、そんな声だった。 「...会長、早く幕之内君にOK出さないかな。宮田君はこのままだと早死にしちゃうよ。 何で男の子って無理と言うか無茶、するんだろ。 サンは心配だよ。...まあ、私が口出していいことじゃないし、きっと言っちゃダメな事なんだろうね。 私ができることは心配しながら応援することだけだね。幕之内君との試合が終わっても階級上げないのかな。...意地っ張りだからね、宮田君は。」 ベッドに腰掛けて布団から除いていた宮田の手を握りながら眠っている宮田に話し掛けていたはくすくす笑いながらそれを布団の中に仕舞い、部屋から出て行った。 宮田は寝返りをうって、が出て行ったドアを見つめた。 (意地っ張りで悪かったな。...ありがとう、そして、ごめん。) 再びが部屋に入ってきた。 「お、起きた?30分くらい前に帰って来たんだけど、そのときは宮田君眠ってたんだよ。 汗かいたでしょ?着替えたほうがいいと思うんだけど、パジャマと下着はどこ?」 宮田は諦めてその場所を教える。 「ちょっと待っててね。お湯とタオル持ってくるから。体も拭いておこうね。」 が部屋を出て行った後、宮田は入らない力を無理矢理入れて何とか体を起こす。 さすがに体を拭いて着替えることくらいは自分でしたい。起き上がるだけで何ラウンドも試合をしたような疲労感を感じて、その姿勢のまま脱力していた。 「あれ、宮田君起きあがれたんだ?...じゃあ、自分でできる?」 宮田は何とか頷く。 は心配だったが宮田に任せた。 自分もさっきまで宮田を着替えさせるにはどうしたものかと考えていたのだった。宮田も恥ずかしいだろうが、正直こちらも恥ずかしい。宮田が起き上がっている姿を見て安堵した。 は10分位したら戻ってくると言って部屋を出た。 言ったとおり、が10分後に宮田の部屋のドアをノックする。 その手には桃缶、プリンにヨーグルト、水と薬が乗っている盆を持っている。 部屋の中から返事が無い。 「宮田君、入るよ?」 不審に思ったが返事を待たずに部屋に入ると、ベッドの上で脱力した宮田がいた。パジャマのボタンが留められていない。 途中で力尽きたかな?と思ったが机に盆を置いて宮田の元へ行った。 「大丈夫?何を手伝ったらいいのかな?とりあえず、タオルはもう使わないでしょ?あとで濯いでおくから貸して。ボタンが留められない?じゃあ、こっち向いて。」 僅かに体を捻り、宮田がのほうへ体を向ける。ボタンを留めているの手をぼんやり眺めていた。 がボタンを全部留め終わったので宮田は再び寝ようとしたが、それはに止められる。 「ちょっと待って。もう少し起きてられない?何か食べて薬を飲もう。どれがいい?桃缶、プリン、ヨーグルトがあるけど。」 「...じゃあ、桃。」 は小さく切った桃をベッドまで運んできた。 宮田はそれを受け取ろうとしたが、高熱のために手が震えている。 それを見たがスプーンで掬った桃を宮田の口元に運ぶ。 「いいよ、宮田君。食べさせてあげるから口開けて、あーん。」 宮田は驚いた。元々熱があって朱くなっている顔をさらに朱くして目を逸らしながら口を開ける。 甘くて柔らかかった桃は空腹も手伝って1缶分全て宮田の腹に収まった。 その後、薬を飲んで横になる。 「眠る前にもう1回熱を測って。そうだ、宮田君。ここの机使わせてもらってもいいかな?私ここに居た方が良いと思うんだけど、邪魔かな?ちょっとパソコンのキーボード叩く音がうるさいかもしれないけど。」 「そうだな、居てもらった方が良いと思う。俺の机を使ってくれていいよ。でもさん、今日はバイトの日じゃなかったか?」 「うん。だから夕方からいなくなるよ。バイトが終わったらまたこっちに様子を見に来るけど、それまでの間は大丈夫かな。」 「ああ。悪いな、忙しいのに。」 「気にしなくていいよ。...38度7分。少し下がったけど、やっぱり高いね。じゃあ、ゆっくり休んでね。あ、それ以外の洗濯物無い?」 掃除、洗濯、そして自分の昼食を済ませたは宮田の部屋に戻った。 薬が効いたのか宮田は寝息を立てている。 は額のタオルを換えて机に着き、大学で出されている課題に取り組んだ。 バイトへ行く時間にセットしていた携帯のアラームが鳴る。 荷物をまとめてベッドで寝ている宮田の顔を覗き込む。 (うわぁ、気持ち良さそうに眠っているよ。起こすのは悪い気もするけど、声を掛けて出て行った方がいいよね。ごめんね、宮田君。) 「宮田君、私バイトに行かないといけない時間になったから行くね。終わったらまた様子を見に来るからね?」 まだ半分まどろみの中にいる宮田はの頬を撫で、 「ここにいろよ、。」 と熱を帯びた声を出す。 それを聞いたは勢いよく宮田から離れた。心臓がバクバクいっているし顔も熱い。 (す、凄い寝惚け方...。宮田君ってもしかして天然タラシ?やっぱ貴公子はやることが違うねぇ...) 先ほどの宮田は寝惚けているということで処理しては「またあとでね」と声を掛けて何事も無かったかのように部屋を出て行った。 依然顔が熱かったが、そこは気にしてはいけない。 |
いい加減気づけよ、ヒロイン!!(爆)
此処まであからさまな一郎さんを見ても動じないヒロイン。
いや、動じてるけど...
しかし、お母さんみたいですね、彼女(苦笑)
桜風
05.9.22
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