鬼の霍乱 ―中編―




バイトは9時までだが、片付けなどを済ませて宮田の家に着いたときには10時近かった。

宮田父から預かった鍵でドアを開けて家の中に入る。

宮田の部屋のドアをノックすると返事があったので部屋に入った。

宮田はベッドの上に座っていた。

「ただいま。何か食べた?」

「...おかえり。いや、さっき起きたところ。熱は測ったけど37度4分まで下がっていたよ。」

「そうか。じゃあ、明日には平熱になっているかもね。何か食べたい物ある?少し時間かかるけどお粥作ろうか?」

「ああ、それ食べたい。でも、さんの帰る時間が遅くなるだろ。家の人が心配しないか?」

「大丈夫だと思うよ。『友達が風邪引いてるけど独りだから看病して帰る』って書置きして家を出たから。じゃあ、お粥だね。出来たら持ってくるからそれまで布団の中に入ってなよ。今は薬が効いているだけかもしれないからね。」

に言われたとおり、布団に入った宮田は苦笑する。

さんって、やっぱり『お姉ちゃん』なんだな。)

何だか家族みたいでくすぐったかった。


ドアをノックする音が聞こえて目が覚める。どうやら眠っていたらしい。

良い香りが部屋に広がり、急に空腹を感じた。

「熱いから気をつけてね。」

から椀を受け取った。レンゲで掬い、少し冷まして口へ運ぶ。

が作ってくれたのは卵粥だった。程よい塩味で美味しい。

心配そうに自分を見ていたので

「美味しいよ。」

と宮田が感想を言うとは安心したように微笑んだ。

結局宮田は全部食べた。少なめに作ったとはいえ、20代前半男性の胃袋には感心する。

宮田に薬を飲ませて洗い物を済ませ、は帰って行った。



翌日、は朝食を作るべく8時頃に宮田家を訪ねた。

ノックをして宮田の部屋に入る。

まだ布団の中にいた宮田が

「おはよう。悪いな、早くから。」

と声を掛けた。

「おはよう。気にしなくていいから。それより、調子はどう?朝ごはんは何が食べたい?」

宮田のリクエストの朝食を作り、再び宮田の部屋に行くと宮田は起き上がってベッドに腰掛けていた。

「もう起き上がって大丈夫?」

「ああ。ちょっと寝すぎでフラフラするけどな。さっき熱測ったら36度9分だった。もう大丈夫だと思うよ。」

「でも、まあ。今日はゆっくりしてなよ。今日一日は寝てなさい。」

宮田は苦笑して承諾した。


が部屋を出て行ったきり戻ってこない。

宮田は昨日一日中眠っていたため、眠れずにごろごろと寝返りを打っていた。

(シャワーでも浴びるか。)

昨日、一昨日と風呂に入っていない。冬ならまだしも今はまだ初秋というか夏と言ってもおかしくない。

熱にうなされていた時はあまり気にならなかったが、頭がしっかりしてくると、この不快感もしっかり感じる。

一言に言っておこうとを探す。

物音がする台所を覗いてみると、が本を見ながら何か作っていた。

さん。」

必死に(宮田にはそう見える)文字を追っていたが顔を上げて宮田を見る。

「どうかした?...はっはーん、寂しかったんだ?」

にやりと悪戯っぽく笑うを見て宮田は苦笑する。

「いや、別に。俺シャワー浴びるから。」

「あー、そうだね。いい加減気持ち悪いだろうね。ちゃんと髪を乾かすんだよ?」

さんって、姉貴っていうか母親みたいだな。」

「...悪かったね、口煩くて。」

「そういう意味で言ったんじゃないよ。」

そう言いながら宮田は風呂場に向かった。


シャワーを浴びて再び台所に足を運ぶ。

はさっきまで使っていた調理器具を洗っていた。

ガシガシとタオルで乱暴に髪を拭きながら宮田が近づくと

「あ、丁度いいところに。お昼何が食べたい?もうお粥じゃなくても平気でしょ?」

が声を掛けてきた。

宮田は手を止めて少し考える。

「何でも「『何でもいいよ』ってのはやめてね。1番困るから。」

言葉を遮られた宮田は再び考え込んで、

「じゃあ、うどん。月見うどん食べたい。」

「わかった。ああ、ついでに夕飯は?買い物行くのに一度に済ませておきたいから。」

「...。」

何か言いたそうだが、躊躇っている宮田を見て

「大抵の物は作れるよ?形が整っていなくてもいいなら。」

と言うので、

「...オムレツって作れる?」

と遠慮がちに聞いてきた。

「オムレツでいいの?作れるよ。形を整えるのに問題あるけど。ウチで作ってるので良いんでしょ?じゃあ、夕飯はオムレツね。買い物行ってくるけど、他に欲しい物は無い?」

そう言って出て行ったを見送った後、再び台所に戻って牛乳を飲むために冷蔵庫を開ける。ふと、見慣れないタッパーが入っていることに気付く。

「何だ?」

冷蔵庫から取り出して蓋を開けてみると、ゼリーのような物が入っていたが、まだ冷えていない。

「さっきさん、これを作っていたのか。味見...したら怒るかな。」

再びそれを冷蔵庫に戻して牛乳を取り出し、一気飲みをして部屋に帰っていった。


昼食も済み、宮田とは宮田の部屋で時間を過ごす。

『一緒に時間を過ごす』と言っても、「寝てなさい」とに言われた宮田は渋々布団の中。は宮田の机に着いて昨日と同様に大学の課題に取り組んでいた。

パソコンで作業をしていたは宮田がうなされている事に気付く。

自分の作った食事に問題があったのかと焦って宮田の傍に行くが、宮田は何か夢を見ていてそれにうなされているようだった。

(どうしよう。起こした方が良いのかな?)

が悩んでいると、宮田の手が不安気に布団から覗いている。

はそれを握って「大丈夫だよ」と優しく声を掛けた。


ふと目が覚めた宮田は、自分の手が動かし辛いことに気付いて驚く。目を向けると、何故かベッドにうつ伏せて自分の手を握ったまま眠っているの姿がある。ゆっくりと手を解いて打ちひしがれる。

(頼むからそんなに無防備な姿を晒さないでくれ。...しかし、眠っているとさらに幼く見えるな。)

幸せそうに眠っているを起こす気にもなれず、とりあえず薄手の布団を掛けてやる。

つい、その無防備な頬に唇を落とす。

傍に居ると色々と大変で危険そうなので部屋から出て行った。

(でも、何でさんは俺の手を握って寝てたんだろう...)

そういえば、途中の夢見が悪かった気がする。何だかとても不安になるような、そんな夢だった。それなのに、何故か目覚めは良かった。

眠っている時のことを考えても仕方がないのでそれをやめて居間に向かった。




ヒロインのことを『お母さん』って呼びたくなってきた今日この頃(笑)
オムレツって響き、一郎さんにとってみればちょっと『子供っぽい』とか思っているのではないでしょうか。
だから、リクエストも躊躇った、と。
可愛いなぁ〜vvv(←バカ)


桜風
05.10.1


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