お祝い ―宮田・前編―





(うわー、遅れる。)

は大学の構内を早足で歩きながら時計を見て焦った。

今は4時24分。一応「遅れるかも」と言っておいたが、4時半待ち合わせとなっている。

の大学は比較的広く、今日最後の授業は一番正門から遠い教室での講義だった。その上、今日に限って講義の延長。

は人が遅刻するのには多少は許せるが、自分が遅刻するのは信条に反する。

正門に宮田の姿を見つけた。

只今4時28分。走れば間に合う。鞄の中のファイルがガコガコいって重いが、正門の宮田を目指して走った。


宮田は宮田でを見つけたと思ったら突然彼女が走ってくるので驚いた。

自分の時計を見ると、4時29分。

(そういえば前に、人を待たせるのは好きじゃないって言ってたけど。でも...)

鞄が重いのか少しふらついている。

元々4時半頃という曖昧な約束だったし、が「少し遅れるかも」と言っていたから気にしていなかった。

それに、『を待っている』ということが苦痛なわけがない。

それよりも、今走って来ているが心配になる。


は何とか時間内に宮田の元へ着いたが、結局呼吸を整えるのに時間がかかってしまう。

宮田はの背を擦りながら重そうなの鞄を持ってやる。宮田にもそれは少し重く感じる。

さん、こんな重い鞄を持って走ったのか?何が入ってるんだよ。」

「ファ..イルとか、六法...」

そういえば、法学部だと聞いたことがある。

の呼吸も整ったので宮田は鞄を返した。

本当なら自分が持ってやりたいが、そう言うとたぶんは本気で嫌がって機嫌を損ねかねない。

木村だったら彼女がそうなっても何とか機嫌を直すことが出来るだろうが、自分はそういうのは苦手だ。

こんな時、自分の不器用さが嫌になる。

「それで、何か欲しい物は思いついた?」

「うん、鞄かなって。こういうカジュアルなのなら大きめなのを持ってるけど、フォーマルな感じのだと大学の入学式のために買った小さいのしか持ってなかったから。

お勤めするならそういうの持っておいたほうがいいでしょ?ハンドバックにお弁当は入らないから。」


2人は新宿へ向かった。

よく考えたら、今の時間は帰宅ラッシュだ。宮田は電車の中で自分を壁にしてが潰れるのを防いでいた。

(初めて2人で出掛けた時もこうだったな。)

宮田は昔を思い出していた。

ふと、下からクスクスと笑う声が聞こえてきた。

「何?」

「いや、昔もこうやってもらったなって思い出したの。でも、あのときより宮田君の背も高くなってしっかりしたなと思ったら何だかおかしくなって。ごめんね、笑って。」

「いや、いいよ。そうだな、さんが小さくなったな。」

「だから、宮田君の背が伸びて体もしっかりしただけなの!私だってあれから1センチほど背が伸びてるんだからね!」

そう言っては拗ねてみた。

そんなの様子が可愛くて宮田は目を細めた。


新宿に着いた2人は大手デパートへ足を運ぶ。

が鞄を見ている間、宮田は少し離れたところでその様子を眺めていた。

は少し大きめの鞄を手にとっては唸っている。

「やあ、宮田君。」

を見ていて気配に気が付かなかった。

声の方を見ると『月刊ボクシングファン』の藤井と飯村が居た。

宮田は「どうも」と会釈をする。

「珍しいところで会ったな。さっきからあの子を見ているようだが、知り合いかい?」

「あら、藤井さん。あの子、ちゃんじゃないですか?帽子を被っているからよく顔は見えませんけど。」

そんな会話がされているとも知らないは2つまで候補を絞った鞄を両手にひとつずつ持って振り返り、止まった。そんなを見て3人は苦笑をして藤井が片手を上げて声を掛ける。

は鞄を持ったまま小走りに近づき、藤井たちに挨拶をして宮田に聞く。

「こんにちは、藤井さん、飯村さん。...どっちがいいと思う?」

「何なら『両方』って言うのも手だと思うけど?」

「どっちか。ねぇ、飯村さん。これとこれ、どっちがいいと思います?」

「そうね、右手のダークブラウンの方が良いんじゃないの?左手のブラックのはちゃんには少し大きく見えるわよ?」

「あー、やっぱりそうですか。デザインはブラックの方が気に入っているんですけどね。仕方ないや。」

「だから、俺は両方でも構わないんだけど。」

「でも、好きでも使えないんじゃ仕方ないよ。というわけでこっちが良いです。」

宮田は「OK.」と言いながら鞄を受け取り、レジまで持っていった。

はもう片方の鞄を棚に戻したあと、藤井たちの元へ行く。

さん、誕生日なのかい?」

「いいえ、違いますよ。」

「じゃあ、宮田君と付き合っているとか?『闘神』と『軍神』のカップルって結構スクープじゃない?!巻頭特集組ませて?」

「『軍神』って言わないでください。それも違いますよ。

私、この前就職が決まったのでそのお祝いって。何が良いかって聞かれたから通勤用の鞄が要るかなって思ってリクエストしたんですよ。」

「なぁんだ、つまらない。でも藤井さん、残念でしたね。早く言わないからこういうことになるんですよ?」

藤井は苦い顔をしながら頭を掻いた。

きれいに包装された箱が入っている袋を提げて宮田が戻ってきた。

「何ですか?」

飯村の言葉の意味が分からずにが藤井に聞く。

「いや、1月終わって就職決まっていなかったらウチで働かないかって声を掛けようと思っていたんだよ。ウチの雑誌に載せるのにジムに依頼した文章、何度かさんが書いていたんだろ?八木さんから聞いたんだ。それで、文章が上手かったし、6年くらい間近でボクシングを見てただろ?少し修行が必要かもしれないけど、優秀なライターになるんじゃないかと思っていたんだが...。

まあ、済んだことだ。それよりも、良かったね、おめでとう。」

は会釈をしながら「ありがとうございます」と答えていた。

「そんなに上手かったんですか?」

と、静かに聞いていた宮田が口を開く。スカウトしたくなるくらいだから余程なのかと思ったのだ。

「そうね、上手いというより、読み易いのよ。そういえば、今更だけどちゃんは何学部なの?やっぱり文学部?文章書き慣れている気がしたけど。」

「いいえ、法学部です。小学生のときは委員長をたくさんしましたし、中学は生徒会、高校は放送部で原稿を、そして大学ではレポートとたくさん文章は書いてきていますけどね。」

「なるほど、それで書き慣れている感じがしたのね。藤井さん、そろそろ戻らないと編集長がうるさいですよ。」

そう言って2人は仕事に戻っていった。




そろそろ佳境に...ってハズなのに。
何故かどうでもいい話が増えてきた気がしました(笑)
しかも、またしても前後編。


桜風
05.10.22


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