ひかりのどけき春の日に





3月に入って少し気候が穏やかになってきたと思う。特に今日は天気もよく、過ごしやすい。

でも、最近少しつまらない。

テスト期間中だけど俺は進級出来ればそれでいいと思っているから、テスト勉強なんて特にはしない。

元々、当たり前だけど部活動もしてないからテスト期間中だろうとなかろうと同じ生活をしている。

学校が終わって、バイトに出てジムで練習をして...


ただ、その日常がここ最近は少し違う。

そう、今週に入ってから彼女がバイトに来ていない。

俺の学校がテスト期間なんだから、同じ高校生である彼女もテスト期間中なのは当たり前と言ってもいいことだろう。

もちろん、彼女は俺と違って大学進学を考えているらしいから学校のテストもおろそかに出来ない。

それに対して、会長や八木さんはそれに反対する権利なんてないし、その必要もない。

そういう理由からテスト期間中は彼女はバイトに出てこないことになっている。

半年くらい前までは彼女がバイトに来てないのなんて大して気にすることはなかった。寧ろ来ていないことにも気付かなかった。


それなのに、今は...

そう考えると可笑しくなって思わず苦笑が漏れる。

バイト先のカウンターで思わず苦笑をしてしまったことに多少なりとも恥ずかしさを覚えて小さく咳払いをひとつ。

幸い、同じシフトに入ってる人は品物を棚に並べてる最中で傍に居なかったから誰にも聞かれてなかったと思うけど...


ドアが開いて人が入ってきた。

「いらっしゃいま、せ...」

客を見て驚いた。今ずっと考えていた彼女だった。

彼女も俺に気が付いたらしく少し目を丸くして、そしていつものように微笑んて軽く会釈をしてくる。

彼女の手には、ウチの近所の本屋の袋。

彼女はヨーグルトを手にレジまでやって来た。

「久し振りー。」

そう言いながら手にしているヨーグルトをカウンターに置く。

「ああ、久し振りだなさん。」

本当は目いっぱい動揺してるけどそんなかっこ悪いことを彼女に悟られたくなくていつもどおりに返事をする。

「あ、肉まんも3つくださいな。」

そういった彼女の言葉に驚き、

「そんなに食べるのか?どこに入るんだよ。」

思わず率直な感想を述べると

「私独りでそんなに食べらんないって。姉と弟にお土産。でも、宮田君のバイト先ってここだったんだ?何回か寄った事があったのに、一度も逢わなかったから。」

驚いた。彼女はこのコンビニに時々来てたのか...何となく勿体無い気がしてしまう。

「そうだったんだ?ところで、さん。本屋に行ったりして、テスト勉強はいいのか?」

そのまま話を終わらせるのが勿体なくて話題を振ってみると彼女は人差し指を唇に当ててにっこりと微笑む。

「内緒だよ?バイトと部活があると、どうしても本を読む時間がないから今のうちに買うだけでもしておかないとって思ってね?」

「ふうん。まあ、誰かに言うつもりなんてないけど。えーと、これで全部?」

一応買い物の内容を確認すると「うん」と彼女が頷いたからそのまま会計を締める。

「じゃあ、481円になります。」

そう言って彼女を見ると何か期待に満ちた目をして俺を見ている。

...わかったよ。

「お箸はお付けしますか?」

「いいえ。...ありがとう。」

笑いを堪えながら彼女がそう言う。

たぶん、最後の『ありがとう』は俺が彼女の期待に応えたから、それについてのものだと思う...

商品を袋に詰めていると彼女が

「ごめん、小さいの無かった。」

と言って出してきたのは千円札。

「いいよ。」

彼女から受け取ってお釣りを用意し、

「519円のお返しになります。」

彼女の手にお釣りを渡すのに店の奥から同じバイトのヤツの視線を感じて余所見をしながら渡したら

「あ、」

彼女の手から小銭が零れそうになって慌ててそれを防いだら、思わず彼女の手を包み込む形となってしまった。

彼女の手はやっぱり小さくて、今日は冷たい。

気候は穏やかでもやはり風は冷たく、さっきここに入ってきた彼女の手は冷えていたらしい。

「えーと、宮田君...」

「あ、悪い。」

慌てて彼女の手を離すと

「いえいえ〜。宮田君の手ってあったかいね。」

そう微笑んでビニール袋を手に背を向けて出て行った。

「ありがとう、ございました。」

なんとかマニュアルどおりの言葉を口にするけど、全く心がこもってない。

彼女が『あったかい』と言った俺の手を眺める。

何だか嬉しくて、ゆっくり拳を握り、

「ありがとう。」

今度は心を込めて呟いた。




こちらは、某素敵サイトの管理人さんとお話ししてました、題して
『お釣り渡しミッション!!』
...題するほどのものでもなかった(苦笑)
説明は必要ないかと思いますが、
『ヒロインにおつりを渡すのに一郎さんがどさくさ紛れに手を握る』
という作戦でした。
いや、今回のは偶然にそうなったのですが...
そして、一郎さんのモノローグ。若いなぁ〜って思ってしまってる自分にちょっとヘコみ気味(遠い目)
番外編扱いなので一郎さん視点の話です。


桜風
05.2.26


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