| 宮田君と幕之内君との試合があった一週間後、寝ようとベッドに入った途端携帯が鳴る。木村さんの着信音だ。 「もしもしです。」 『ちゃん、木村だけど。ごめんな、こんなに遅い時間に。あのさ、実は今日ちゃん、ちゃんに会ったんだよ。それで、ちゃんが言うには彼氏に振られたらしいんだ。』 「はい?」 思わず聞き返していた。だって、話では仲良さそうだったじゃない?! 『いや、ちゃんそう言ってたよ。二股かけられてたらしくってさ。凄くショックだったみたいなんだ。...一応、ちゃんに話しておこうかと思って電話したんだ。』 去年新宿で見かけたあの男はやっぱりちゃんの彼氏だったみたいだ。 「...木村さん、ちゃんは私に言わないでとか言いませんでした?」 『あ...うん。余計なことかなとも思ったんだけど、でも、言った方がいいと思ったから。』 相変わらず人に気を遣う人だな。これは長所でもあり、もしかしたら短所なのかもしれない。だって、正に『イイヒト』状態だし。 「じゃあ、私は木村さんから何も聞いていません。...実は最近仕事のストレスが溜まって愚痴を零したいと思っていたんですよ。ちゃんも何かありますかね。久し振りにちゃんととご飯でも食べに行こうかなぁ。...。」 わ、わざとらしい...。電話口でも木村さんの堪えきれない笑いが漏れている。 『そうだね、それがいいかも。3人とも新社会人だし、プライベートでも色々あるんじゃないかな?』 何とか笑を堪えた木村さんがそう返事した。 私は木村さんが言った『プライベート』ということで思い出して少し悩んだけど、木村さんに報告することにした。 「木村さん、プライベートと言えば、サン宮田君と上手くいきました。木村さん、気に掛けていてくださってたみたいですから、一応、報告..をし、ておこうかと...」 電話の向こうの木村さんの様子がさっきと違うように思えたから私の語尾が段々小さくなる。やっぱり無神経だったのだろうか? 『そうか...。良かったな、おめでとう。ちゃん、さっき俺に気を遣っただろ?もう大丈夫だって。それに、兄貴って凄くオイシイと思っているんだからな。』 「『オイシイ』ですか...?」 『ああ、『オイシイ』ね。兄貴が妹の悩みを聞いてあげるのは特権だろ?他の奴に言えない事でも兄貴になら相談できるでしょ?』 「?...そういうものですか?」 『そういうもんなの。...じゃあ、そろそろ切るな?遅くから悪かったね、おやすみ。』 何だかよく分からないけど、木村さんがそう言うのだからいいんだろう。 『突然ですが、仕事のストレスも溜まってきたので愚痴大会という名の夕食会しませんか?明日中に今月中で暇な日を教えてください。』 というメールを2人に送って私は眠った。 翌朝メールをチェックしてその日の昼休憩に店に予約を入れる。 『来週の火曜日、19:00に予約を入れました。鴨川ジムの近くに新しく出来た居酒屋なのでジムに18:45に待ち合わせってどうでしょう?』 メールを送ると2人から了解のメールが届いた。 約束の日、私は18:30頃にジムに着いた。 「こんにちは。」 昔のようにジムに入ると 「よう、ちゃん。今日はどうしたんだよ?」 木村さんに声を掛けられる。 「お久し振り?です。今日、『心の友と書いてシンユウ3人組愚痴大会―仕事が出来ない自分にヘコむよね?―』を開催するんです。まあ、予想できるとは思いますけど、要は食べて騒ごうってことなんですけど。ここの近くに新しく居酒屋さんが出来たの知ってます?そこへ行ってみようってことにしまして。企画、立案私です。」 「ちゃん仕事できないの?」 「ええ、最近やっと何すればいいか分かるようにはなったんですけど、やっぱり、ね?パシリなら慣れてるから得意ですけど?」 「まあ、そのうち慣れるよ、きっと。...宮田?!」 振り返るとドアが開いて宮田君が入ってきた。 「あ。ええと、木村さん久し振り...でもないか。どうも。」 私の姿を見て一瞬絶句した宮田君が木村さんに挨拶をすると 「何?『』とかって呼ばねぇの?」 とからかった。そんな木村さんの発言に驚いた宮田君が私を見てくる。木村さんはクスクス笑いながら私の代わりに答えた。 「俺、『ちゃん研究』の第一人者だから、ちゃんの好きな不器用で無愛想な奴の名前言い当てたから。一応玉砕して、本音で語り合った仲だし?きっとお前にも言ってないちゃんの本音聞いてるよ、俺。まあ、そういう経緯があったから報告してくれたんだよ。ちなみに今の俺はちゃんの兄貴なポジションにいるから。ヨロシク。」 宮田君は呆気に取られていた。 「木村さん、変な研究分野開拓しないで下さい。...宮田君、大丈夫?」 声を掛けると 「あ、ああ。...いつの間に。っていうか、の本音って何だよ?」 「秘密〜。」 「...まあ、いいか。は何でここにいるんだよ。」 「ちゃんとと共にこの近くに出来た居酒屋さんでストレス発散計画立てたから、ここで待ち合わせさせてもらってるの。宮田君こそ、どうしたの?」 「いや、幕之内に話があって。」 「一歩ならそろそろ戻ってくるんじゃないか?今ロードに出てるんだよ。」 「良かったね。まだ休養してたらどうするつもりだったの?」 「そのときは、家まで行くつもりだったよ。」 3人で話をしているとそろそろと入り口のドアが開いた。そこには、3人同時に顔を向けたために固まってしまったちゃんがいた。 「ちゃん、入り口で固まってたら邪魔になるから中に入っておいで。」 「え?ああ、そうだね。こんにちは、木村さん、宮田君。」 「こんにちは、ちゃん。...ここ入るの少し勇気いるでしょ?」 「こんにちは、さん。」 傍まで来て2人と挨拶を交わす。 「そうそう。木村さん、これ、ありがとうございました。今日はちゃんがいるからこちらでも大丈夫かと思って持ってきたんですけど、何なら後日お店の方に持っていきますよ?」 「いや、今は鷹村さんはロードに出てるから大丈夫。まあ、また何かあったら言ってよ。いつでも貸してあげるよ。」 ちゃんが木村さんに渡しているそれは薄い。きっとCDか何かなんだろう。ちゃん、洋楽好きだしね。 ジムのドアが開いて、鷹村さん、幕之内君、板垣君が帰ってきた。 「わぁ、宮田君!」 「あー。まだ見えるね、ハートマークと尻尾。」 呟くと木村さんが、 「ちゃん、何それ?」 と聞いてきた。 「いえ、幕之内君って宮田君の名前を呼んだ後にハ−トマークが付いているように思えるんですよ。あと、ワンコが喜ぶときみたいに尻尾が見える気もするんです。」 「だから、勘弁してくれって。」 宮田君が辟易しながら答えるとたちの姿を目にした鷹村さんが、 「よう。と宮田と、...?」 「こんにちは鷹村さん。この子は私の高校の頃からの親友です。ちゃん。一応、幕之内君とも2年間同じクラスになったことあるんですけどね...。今は彼の眼中にないみたいですね。」 ちゃんは少し怯えながら会釈した。まあ、鷹村さんは態度も大きいけど体が大きいから仕方ない。 宮田君は溜息をひとつ吐いて、 「幕之内、今日はお前に話しがあってここに来たんだ。」 「何、何?」 少しウキウキしながら幕之内君は宮田君の次の言葉を促したけど、宮田君の口にした言葉は 「お前には悪いが、俺は階級を上げることにしたんだ。前から『幕之内との試合が終わったら』って一応考えてたんだけど、明日ベルトを返す予定になってる。お前に一番に言っておくのが道理だと思って来たんだ。」 「ちゃん、知ってた?」 木村さんが耳打ちしてくる。 「いいえ、初耳です。」 意外だった。意地でもフェザーに留まると思ってた。 幕之内君は目に見えてがっかりしていた。 「それだけだ、じゃあな。」 そう言って宮田君がジムを後にした。 なんともいえない沈黙が降りてくる。 そのあとすぐに来たを軽く紹介したあと私たちはジムを後にした。 |
この連載。
木村さん視点と、何故か前作ヒロイン視点でお送りします。
...出しゃばりすぎだなぁ〜(苦笑)
桜風
06.1.14
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