優しいキミ 8





今日は宮田が階級を上げて初めての試合だ。

今日この試合に勝てば宮田のランキングは一気に上がる。


「おい、木村早く入ろうぜ。」

ホールの入り口でジムの全員が集まったから青木が声を掛けてきた。

「先行っててくれ。ちゃんも来る予定なんだ。」

親友の彼氏の試合ということもあって彼女が見たがっていたからチケットを取ってあげた。彼女は今日は仕事があるから俺たちの待ち合わせの時間に間に合わないと事前に聞いていた。

皆は俺を残してホールに入っていった。


「ごめんなさい、遅くなりました。」

駅から走ってきたのか、ちゃんは肩で息をしながら謝ってくる。

「いや、時間通りだよ。大丈夫?少しここで休む?」

「いいえ、大丈夫です。」

彼女の呼吸はすぐに整い、会場に向かう。

「宮田、今日は特に気合が入ってるだろうね。何てったってちゃんの誕生日だし。」

「...でも、ちゃんは誕生日だからこそ来ないかもしれないんですよ。昨日会ったんですけど、『ケーキがあるから試合にいけないや、あはっ』って言ってました。彼女の家は必ず家族の誕生日は家で祝うようにしてるんですよね。」

「マジで?!...照れ隠しってコトは?」

「可能性はありますけど、彼女はマイペースですから。木村さんのチャンピオンカーニバルは何だか様子が変だったから行ったけど、とかって言ってましたよ。宮田君は今回の試合に進退を賭けてるわけじゃないからねって。まあ、ちゃんはベタベタするのは苦手なんだと思います。」

「そうなんだ...」

何だか宮田が気の毒になってきた。

試合以外も頑張れ、宮田!!


前座も終わってメインの宮田の試合になる。

元々宮田は人気があって会場内は女の子たちからの黄色い声援が既に飛んでいる。

「相変わらず凄い人気ですね、宮田君。」

一歩が感心する。

宮田が入場してくると歓声が更に大きくなる。当然だけど、宮田はそれに応えることなくリングに向かっていた。ふと、下げていた拳を軽く上げて何かに応えたように見えた。

「あれ?ちゃんだ。」

ちゃんの視線を辿った先にはちゃんの姿があった。さっきの宮田は最前列の席に座っているちゃんに応えたことが分かる。

一気に気合が入った宮田は1ラウンドで試合を決めた。無理な減量もなくなったため、パワーもスタミナもフェザーのときとは比べものにならない。勿論、スピードだって問題がない。

勝利者インタビューが始まる。

リングに上がった女子アナを見て俺たちは絶句した。

「「「「「え?」」」」」

「あー、。だから今日は一緒に観戦できないって言ってたのか...」

マイクを持ってインタビューをしているアナウンサーはちゃん、ちゃんの親友のちゃんだった。

宮田も面食らって微妙にしどろもどろに答えている。

『今日の勝利、一番誰に伝えたいですか?』

『そうですね、今日は俺の大切な人の誕生日ですからその人に、プレゼントとして送りたいですね。』

何とか立ち直った宮田はそんなことを言いながらちゃんの方をちらりと見た。ちゃんはちゃんで両手で顔を覆い、俯いている。

まだこういうのは苦手なんだ、ちゃん。

「あーあ、きっと誕生日ネタは後悔するな、宮田君。」

隣に座っているちゃんがそんなことを言った。意味を聞こうとしたとき、ちゃんが声を出した。

『そうですか。実は私も今日が誕生日なんです。』

「「「「「は?」」」」」

マイクが向けられていなかったから声は拾っていなかったけど、宮田も間違いなく俺たちと同じ反応をしていただろう。

『えっと、あ、それは...おめでとう、ございます。』

宮田は先ほど以上にしどろもどろに答えた。ちゃんは小さくガッツポーズをして肩を震わせながら笑を堪えている。

その後、体勢を立て直せなかった宮田のKO負けでインタビューが終了した。

「ねえ、本当にちゃんも今日が誕生日なの?」

ちゃんに聞くと、

「そうですよ。2人とも同じ日なんです。だからなのかな、あの2人、時々怖いですよ。」

「怖いって?」

「...いつか分かりますよ、きっと。」

ちゃんの意味深な言葉の意味が気になったけど答えてくれそうにない。


俺たちは会場を後にした。


「よう、。」

ホールの入り口に立っているちゃんを見つけた鷹村さんが声を掛ける。

「あ、鷹村さん。こんばんは。見ました?今まであんなに歯切れ悪くしどろもどろインタビューに答えていた宮田君がいただろうか、いいや、いない。試合よりもいいもの見た気がしますよ。グッジョブ、!」

ちゃんは楽しそうに話している。

俺たちもちゃんに声を掛けた。

「そういえば、来たんだね。」

ちゃんに言われたちゃんは

「家に帰ったら夕飯すら用意されていなかったから...」

と、遠い目で口を開いた。

「じゃあ、職場がすぐそこなのに一旦家に帰ってまたこっちに出てきたってコト?...ご苦労様。」

2人が話していると少しはなれたところから「お疲れ様でした」と、良く通る声が聞こえてきた。

!」

声の主を見つけたちゃんが名前を呼ぶ。ちゃんはこちらに気付き走ってくる。

「イ、エーイ。グッジョブ!!」

ちゃんがビシッと親指を立ててちゃんを迎える。ちゃんは俺たちにも挨拶をした。

「もう局へは戻らなくてもいいの?」

「うん、もうここから帰っていいんだって。ところでちゃん、ケーキは?」

「ケーキどころか、夕飯すら用意されてなかったんだって、ちゃん。」

「ふうん、残念だったね。そうそう、アレが例の出待ちさん?」

少し離れたところに固まっている女の子たちに目を遣りながらちゃんが聞くと、ちゃんは苦笑をしながら頷いた。

「じゃあ、宮田君がちゃんと付き合っているって知ったら凄いだろうね。」

「いーや、ちゃんが相手なら彼女たちは無理だね。何てったって『軍神』だから、ね?」

「何でそれを知ってんのよ?!ていうか、『軍神』って言わないで。」

懐かしい単語を聞いた。まあ、今でも『軍神』について聞きに来るライターもいるけどな。

俺たちは彼女たちが話をしているのを何となく見守っていたけど、青木は「トミ子が待ってるから」と言いながら先に帰っていった。

「何、何?『軍神』?」

「うん、今度記事見せてあげるよ。ちゃんかっこよく写ってるよ。」

「あ゛ー、余計な物持ってるぅ。」

「局にあったからね。ところで、ちゃんは彼女たちと同じくで宮田君待ち?」

「まあ、一応。見つかっちゃったから待っておかないといけないかな、と。でもなぁ、あの人達何だか怖いしな。...帰ろうかなぁ。」

「相変わらずドライなこと言ってるね。待っててあげなよ。宮田君だってちゃんに待っててもらいたいよ、きっと。」

ちゃんが「そうかもしれないけど」と言っていると、彼女の携帯が鳴る。

「もしもし、です。」

「うん、一応外にいるけど?」

「イヤ。マスコミの人達まだいるんでしょ?」

何となく電話の相手が分かる。俺はちゃんの携帯を取って勝手に話し出す。

「宮田?」

『...木村さん?どうしたんですか、いきなり。』

不機嫌な声が聞こえる。まあ、そうだろうな。しかし、それを気にせずにさっきジムの皆と話していたことを提案する。

「お前、この後暇か?」

『別に予定はありませんけど?』

「なら、お祝いしようぜ?ああ、お前のじゃないぞ。どうせ今度ジムで祝勝会でもしてもらうんだろ?今日はちゃんとちゃんの誕生祝いだ。2人ともここに揃ってるし、どうよ?」

『わかりました、いいですよ。』

「んじゃ、『シュガー・レイ』って知ってるよな?俺たちこれからそこに行くから、お前も後から来いよ。あ、あと正面は出待ちが凄いぞ?裏はどうか知んねぇけど。じゃあな。」

そう言って通話を切る。電話を返そうとちゃんを向くと、

「「ビバ!フェミニスト!!」」

と右手を突き出してちゃんとちゃんがハモった。

「「わーい、ありがとうございます。...またハモってるよ、私ら。打ち合わせ無しでこれはやっぱり怖いよね。」」

一言一句違わずタイミングもぴったりにハモる2人は確かに怖い。もしかしてちゃんが言っていたのはこのことかと思って彼女を見ると、俺の視線に気付いて苦笑しながら頷いた。




何か仲の良い友達ってハモったりしません?
私はしょっちゅう友達とハモってます...
それはともかく。
しどろもどろ一郎さん。
是非智一さんの声で演じて欲しい...って無理ですよね(遠い目)
てか、勝利インタビューってどういう人がするのですか??
知らずに書いちゃいました(汗)


桜風
06.3.11


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