| ちゃんたちの誕生日を祝うために俺たちはシュガーレイに行った。 宮田を待たずに乾杯をする。まあ、主役は揃ってるし、問題ないだろう。 少し遅れて宮田もやってきた。 適当に飲んで騒いでをやっていると、ちゃんが少し席を外す。 ふと、板垣が 「そういえば、2人はさんとは幼馴染とかですか?」 と聞いた。 「んーん、私らとちゃんは高校に入ってから。私はクラスが一緒になって、ちゃんは部室で出会ったんだよ。」 「ちゃんとちゃんはいつから?」 隣にいるちゃんに聞いてみると、 「一応中学は一緒でしたけど。でも、全然知らない子でしたよ。」 「そういえば、彼女が言ってたぜ?自分は周りが見えなくなって突っ走って間違ってたかなって思うこともしばしばだけど、2人がいるから大丈夫、間違ってないって思うことが出来る。2人に逢えたことは凄く幸運だと思うって。」 宮田がそんなことを言う。ちゃんもちゃんも大人しくなった。 「そっか、でも、感謝してるのは私たちの方だよ。」 「だね、私達初めは本当に気が合わなかったんですよ。お互い兄弟の一番上で下が言うことを聞くという状況に慣れていましたから。何かある毎に衝突してたんですけど、決定的な喧嘩になる前に必ずちゃんが間に入ってくれて。」 「そしてだんだんお互いのことが見えてきたんですよ。ちゃんって、中和剤的なところあると思いません?後輩たちも『先輩がいてくれたから早く部に馴染めました』って言うんですよ。ちゃんってなんていうか、ほっとする存在なんですよね。一見、弱くてもろそうに見えるけど、実は芯が強くて、」 「しなやかで伸びやかで。でも、たまにあの強気なところとか、他人のことばっかり気にして自分のことを顧みないところとかは凄く心配させられちゃいますけど。でも、彼女に出会えたことは幸運だって私たちこそ思っています。...少し照れくさいから本人に面と向かって言いませんけどね?」 どこでも変わらないんだな、ちゃん。 ちゃんが戻って来た。 しんみりしている雰囲気に首を傾げながら腰を下ろした。 突然ちゃんの携帯が鳴り始めたけど、出るつもりはないらしい。 「出ないのか?」 宮田が聞くと、 「うん。今これに出たら私は確実に不幸になる。」 と返事をした。 ちゃんの携帯が切れた後、今度は宮田の携帯が鳴る。 「はい。...ああ、ちょっと待ってろよ。 ほら、晃一郎君から。」 宮田がちゃんに電話を渡し、それを受け取ったちゃんは眉を寄せながら出る。 「もしもし、何?うわぁ、ごめんなさい。」 ちゃんは慌てて姿勢も正している。 「...はい、私の部屋の机の上においてあります。」 「え?まあ、いいけど。私のもあげるから許して。」 「いいの?ありがとう姉ちゃん。それじゃあね。」 そう言って通話を切った。『姉ちゃん』っていうことはちゃんのお姉さんってコトだよな?何であんなに怯えてるんだろ? 「月穂さん?」 ちゃんが声を掛けると、さっきの電話で疲弊したちゃんが 「そう。今日帰って夕飯すらなかったから少し困らせちゃえって思ってデザートのムース隠してきたのよ。でも、良く考えたら一番楽しみにしてたのは姉ちゃんだった。あの人の食べ物の恨みは凄いからね。」 と力なく答えた。 「それだけであんなに怯えるのか?」 今日は珍しく大人しい鷹村さんが聞く。 「そうですね。...姉の座右の銘『天上天下唯我独尊』。好きな言葉『世界は私のためにある』。マイルール『自分以外は顎で使え』。ついでに武術もやってて黒帯です。以前ウチに入った強盗のアバラ持っていく蹴りをかましました。...姉のストレスがピークのときに入ってきたのが運の尽きでしたね。勉強も運動も出来る文武両道タイプですよ。仕事も出来るらしくて出世株と目されえいるらしいです。自分が敵とみなした者には手加減は一切なし。まあ、一応私は姉のお気に入りになっているらしいですけどね。よっぽど道を外すようなことをしない限りは味方してくれますよ。ね?逆らわないほうが賢いでしょ?我が家最強ですから。」 ...だからちゃんは鷹村さんが平気だったんだ。 「最強ってお父さんじゃないんですか?」 一歩が聞くけどちゃんは苦笑して、 「まあ、ウチの姉は強盗に入った人間を蹴り一発で落とせる人だしね。言ってる事は正当なことが多いし、それを実行する力も持ってる人だから。結構理不尽な事を言ってきたりするけど。」 と答えた。 その後、時間も遅いから帰ることとなった。鷹村さんは1人でどこかへ行ってしまった。何となく想像はできるけどな。 ちゃんたち女の子は話をしながら先を歩いている。その後ろを俺たちはゆっくり歩いた。 「そういえば、宮田君はさんのお姉さんを見た事あるんですよね?どんな人でした?」 「...月穂さんか?顔は、結構似てるよな、声も。でも雰囲気が全然違った。何ていうか、カドがある?厳しい感じがしたな。実は俺、月穂さんに一番緊張した。にはちょっと分かり難いかもしれねぇけど、凄く可愛がってるっていうのが分かったしな。」 「本当に?お父さんとかじゃないんですか?」 「いや、それも緊張したけど、月穂さんの纏っている空気っていうか。研ぎ澄まされたナイフっていう感じなんだ。人を寄せ付けないと言うか...」 「だから、ちゃんは宮田が平気だったんだ。お前も人を寄せ付けない感じがあるもんな。」 宮田は「そうですか?」と眉間に皺を寄せた。 不意に前の方が騒がしくなった。 数人の男がちゃんたちの前に立っている。 「!」 宮田が持っていた鞄を手放して走っていく。一歩がその鞄を拾って宮田の後を追いかけ、俺たちもそれに続く。 パシンッと乾いた音が鳴る。 俺たちは足を止めた宮田たちに追いついた。 「たぶん、あの真ん中の奴、さんの元彼ですよ。今、手を上げた奴。」 宮田の言葉に驚いてそいつを見る。そいつはそいつで何が何だか分からないという表情をしている。さっきの乾いた音は手を上げようとしたそいつの手をちゃんがはたいた音だった。 ちゃんは武術をやっていたのか、綺麗な構えでそいつに対峙している。 「...何だよ、それ。」 「...忘れたの?それとも初めから聞いてなかったのかな?私、10年ほど空手やってたんだよ。ついでに段持ちで黒帯。」 驚愕した奴に向かってちゃんが構えたまま答える。 「ちゃんといたら息が詰まる?自分の器の小ささを棚に上げて人のせいにするような男じゃあ、ね?」 ちゃんがそいつを睨みながら言う。 「そうそう。そういう理由なら、『器の小さい俺にはは勿体なさ過ぎて惨めになるんだ。』とか的確に言わないと。あんたは確かに顔も良い方だし学歴もある。一方、ちゃんの今彼。顔は、まあ、いい方だろうね。でも、学歴はアンタよりは低いし性格は少し頼りなくてヘタレ入ってる。」 「ちょ、『ヘタレ』って言うのはやめようよ。」 ちゃんが言ってくれるけどそれを無視してちゃんは続ける。 「更に煮え切らないところもある。けどね、アンタなんか比べものにならないくらい、イイオトコだよ。」 「ちゃん。ちゃんのイイオトコの条件は?」 ちゃんが悪戯っぽく笑いかける。 「女運がなくて器用貧乏で押しに弱い。でも、優しくて誠実で温かい人。」 「おやぁ?ピンポイントで思い当たる人いるよ?」 ちゃんが茶化して俺に視線を投げる。俺はこんな時不謹慎だと思いつつ、緩んでしまう口元を手で隠した。 奴の怒りは頂点に達したらしく、何故か持っていたナイフを取り出した。他の2人もそれと同じ物を手にしてそれぞれ彼女たちを切りつけてきた。 不覚にも俺たちはボクサーだというのに反応が遅れた。 しかし、 「籠手!」 ちゃんは持っていた傘で相手の手のナイフを叩き落し、 「はっ、」 ちゃんは綺麗な回し蹴りを向かってくる奴の脇腹に当て、 「っ...」 ちゃんはそいつの力を軽く流して手を後ろに捻り上げた。そのまま手に持っていたナイフが落ちる。 「知らないようだから教えてあげよう。最近のイイ女の条件は『自分の身くらいは自分で守れる』なんだよ。」 ちゃんが自分の前でうずくまって手を押さえている男を見下ろして言う。 「最近は合気道を始めたんだ、私。」 ちゃんが声を掛けた。 「私は小さいころ、5年くらいだけど剣道を。」 「...家に誰かに教えたくてうずうずしている人が『今の時代、自分の身くらいは自分で守れるようにならないと。』って手加減無しで鍛えてくれたからねぇ...。早く身に着けないと自分の身が危なかったのよ。」 ちゃんに続いてちゃんも遠い目をしながら答えた。 「な、武術やってた奴が一般人に手を出していいのかよ。」 「おお〜、こんなときは立派に弱者気取りか。」 ちゃんか感心したように言った。 「何なら起訴でもする?でも、そうなった場合、貴方たちの違法行為も明るみに出るよ?刃渡り15センチ以上の刃物を持っていたら銃刀法違反だってことくらいは一般常識じゃないかな?それに、貴方たちは武器を手にして先に襲い掛かってきた。つまり、私たちのさっきの行為は正当防衛に認定される可能性の方が高いよ。」 不敵に笑いながらちゃんが声を掛けた。 「もう私の前に現れないって誓って。もしそれが出来ないならこれから一緒に警察署までデートすることになるけど?」 「わ、分かった。俺が悪かった。もう二度とお前の前に現れねぇよ。」 そう言ってそいつらは逃げて行った。 「何であんなのと4年も付き合えたの?」 そうちゃんが言うとちゃんは 「さあ、分かんない。ま、若気の至りってやつじゃないの?それより、大丈夫?顔見られたでしょ?テレビに出たとき、何か言われるかもよ?」 「ん〜、お化粧の感じ変えたら結構変わるもんだし、ここって暗がりだからはっきり顔は見えてないと思うよ。惚けるだけ惚ける。心配しなくても大丈夫。」 その後、皆で列車に乗って帰った。ちゃんの家の最寄り駅は俺たちのひとつ前だから宮田とともに降りていった。 俺たちも駅に着いて歩いていたけど、途中の分かれ道で一歩と板垣がちゃんを送る。 俺とちゃんは黙って歩いていた。 「ちゃん、大丈夫だった?全く、君も無茶するね。」 「...ごめんなさい。本当は初めは動けなかったんです。よく分からないけど、偶然会ったのにいきなりよりを戻そうとかって言ってきて。怖かったんですけど、ちゃんが『この子を見くびるな!』って。が『悪いけど、安く見ないでくれる?』って言ってくれたんです。あの2人の信頼っていうか、そういうので勇気が出てきたんです。ここであの2人の後ろに隠れて守られているだけだったら私はダメなままな気がしたんです。だから...」 「そっか。でも、気をつけるんだよ?完全に反応が遅れた俺が言っても頼りないだろうけど、ちゃんと俺が守るから。」 彼女は嬉しそうに微笑んで抱きついてきた。俺は彼女を抱きしめて応えた。 突然彼女がするりと腕をすり抜けて走っていく。俺はゆっくり彼女の後を追う。 かなり前方まで走った彼女は振り返って、 「やっぱり、木村さんは最高に『イイヒト』だけど、それ以上に『イイオトコ』です!」 そう告げてまた走っていった。 |
あっさり終わりました。
前が長かった分、この連載が短く感じてしまったり...
キム兄さんのコトをぼろくそに言ってる友人が楽しい。
いや、キム兄さんがとてもステキだってコトをちゃんと知ってるってアピールであって...
全然フォローできてない!!(笑)
何はともあれ。
お付き合いありがとうございました!!
桜風
06.3.25
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