大吉





初詣を済ませて、おみくじを引いた。

出たのは『小吉』。

「普通、だねぇ」

が自分の手の中にあるおみくじの結果を目で追いながら呟く。

「これから、ってことでいいんじゃないかな」

と蔵馬が返す。

「秀一は?」

「え...?あ、うん」

そう言って見せたのは『大吉』だった。

「あらら、今が頂点?」

がからかうように蔵馬に言う。

「このまま頂点、ってことかな?」

なるほど、持続するのだな、と
は笑った。


おみくじを所定の場所に結びながら
は不思議そうに蔵馬を見上げた。

蔵馬もおみくじを結んでいるのだ。

「『大吉』は持って帰る物だって聞いたよ?」

「別に、持っていても居なくても変わらないし」

蔵馬の言葉に「ふーん」と相槌を打ち、
たちは神社の境内を出た。

「そういえば、お稲荷さんじゃなかったけどよかったの?」

今のは近所の神社で稲荷神社ではない。

「妖怪、だからね」

というか、そもそも『妖怪』と『神様』の違いがイマイチよく分からない。

なんと言うか..似たようなものだろう。

隣を歩く蔵馬に言うと彼は苦笑した。

「ばち当たりだって言われるかもよ?」

蔵馬自身は気にしているわけではないようだ。

しかし、帰る道を変えれば稲荷神社の前を歩くことに気がついた
の提案により、ご挨拶に行っておくことにした。



「どっちの神社も人が凄かったね」

家に帰って
がコートを脱ぎながら言う。

「まあ、今日はどの神社もそうじゃないのかな」

蔵馬も応える。

昨年は初詣のそのまま蔵馬の..南野秀一の実家へ行ったが、今回は明日ということになっている。

だから、とりあえず、元日は蔵馬と2人でのんびりと過ごせるので、正直気がらくだ。

「そうそう」とコーヒーを淹れながら
が声を出す。

帰りに開いていた洋菓子店でケーキを購入してきた。和菓子屋も開いていたのだが、
は年の最初の和菓子は花びら餅と決めているそうで。花びら餅が置いていなかったので、ケーキということになった。

意外と拘りは多いほうだな、と蔵馬は時々感心する。

「なに?」と蔵馬は返した。

「私も、大吉ひいたことあるんだよ」

そう言って笑う。

「へえ?いいコトあった?」

蔵馬が聞き返すと、微妙な間を空けて「うん」と頷く。

これは何かあったな、と蔵馬はピンと来た。

微妙な間と言っても、悪い感じの間ではない。そういうのだったらそのまま話は終わらせている。

がコーヒーを持ってくるのを待って「何が書いてあったの?」と蔵馬が話を続けた。

ソファに座っている蔵馬の隣に腰を下ろした
は少し目を丸くした。

「え?あー...待ち人来るとか。そういういいことばっかり」

そうやって曖昧に答える
に向かって蔵馬は手を伸ばす。

「ん?」

「持ってるんでしょ?見せてよ」

自信満々な蔵馬に
はやはり目を丸くした。

はしらばっくれようとしたが、反応が遅れたことがそれを許さない。

「んー...」と唸ってちらりと蔵馬を見るとニコニコと笑っている。お断りは不可能のようだ。

諦めたように
は立ち上がり、「探してくる」と言って部屋に戻る。


暫くして、とても丁寧に保管されていたと思われるおみくじを持って
は戻ってきた。

「はい」と蔵馬にそれを渡して、
は蔵馬と少し距離をとってぬるくなったコーヒーを飲む。

読み終わったら蔵馬は「これ...」と呆然と呟いた。

「...あそこの神社って結構霊験あらたかなのかもねぇ」

蔵馬から視線を逸らして
が言う。

おみくじに記載してある年号を見たらそれは
と蔵馬が出会った年に引いたものだと分かる。

内容を見れば、何の予言だと言いたくなるようなことばかり。


「でも、何か癪だよね」

蔵馬の言葉に
はきょとんとした。

「何か、これにあるから俺と
が出会ったみたいじゃないか」

拗ねたように言う蔵馬に
は噴出した。

「いいじゃない。おみくじなんて、それを読んだ人の捕らえようよ。今、こうして私と秀一がいっしょにいるからそう思えるだけであって、一緒にいなかったら『何だったんだろうなー』って思ったかもしれないし」

の言葉に蔵馬は肩を竦めた。

「またしても、ばち当たりだね」

「いいのよ。おみくじなんてそんなものだし。それとも、おみくじに勝手に予言されてたって言われても平気?」

「面白くない。だって、俺は妖怪だし」

『神様』に運命付けられるなんて、という意味だ。

「でもね。私がおみくじで『大吉』引いたのってこれが最初なの。そのあとも見たことないのよねぇ」

そう言って自分を見る
に「ん?」と首を傾げる。

「まあ、その1回でもういいやって思ってはいるんだけど」

の言葉に蔵馬は目を丸くして、やがて微笑む。

「そうだね」









桜風
10.1.1