卒業写真





ふと、カレンダーが目に入った。

ああ、もうそんな時期か...

「ああ、もう卒業の季節か。懐かしいね」

カレンダーを見ていた
の表情を見て、蔵馬は振り返ってサイドボードの上に飾ってある数枚の写真に視線を滑らせた。



この紙1枚で3年間が終わりか、と
は何となく不思議に思った。

席に着いて眠気をやり過ごしていたら同級生が答辞を読み始めた。

「あ、そうなんだ...」

そういえば、そうだ。

南野秀一。彼はとても成績が良かったし、教師への印象もかなり良いから、たぶん彼が壇上に上がると思っていた。

けど、今答辞を読んでいるのは海藤優だった。彼はとても成績がいいと聞いている。もちろん、南野秀一よりも。

時々蔵馬が彼と話をしている姿を目にしていた。何か意外な組み合わせだな、と遠巻きに見ていたのを
は思い出した。


彼の答辞は早めに終わった。

頭の良い人は話す言葉も短いんだなぁ...

は感心しながら感謝をした。



最後のホームルームを終えて正門に向かうと「
さん」と声をかけられて振り返ると南野秀一の母親が居た。

「こんにちは」と挨拶をするとニコニコと微笑んでいた彼女の手にはカメラがあった。

「あ、南野くんと一緒に写られるんですか?探してきましょうか?」

が言うと彼女は微笑をたたえたまま首を横に振った。

さんと撮りたいの」

「へ?!」

目を丸くして
が言う。

「えーと、誰かに頼みましょうね」

「え、いえ..は?」

どう返していいかわからない。

だって、彼女は南野秀一のお母さんで、自分とは家族でもなんでもなくて。

「あ、あの...」

が声をかけるが、彼女は聞かない。

「母さん」

天の助け。

そう思って振り返った。彼女の息子、南野秀一が居た。

「あ、秀一。シャッター切ってくれるかしら?」

「いいよ」

ええ?!

は目を丸くした。

「ほら、
。母さんと並んで」

わたわたとしている
に苦笑しながら蔵馬が指示する。

さん、いいかしら?」

「あ、..はい...」

緊張している
に蔵馬は苦笑しながらシャッターを切った。

「そうだわ。せっかくだから3人で撮ってもらいましょうよ」

「そうだね」

この母子は...

がどうして良いのか、と途方に暮れているのを気にせず、蔵馬は先ほどまで話をしていたらしい海藤を呼んだ。

呼ばれて少し面倒くさそうに海藤がやってきた。

「シャッター切ってくれよ」

「いいけど...
が大変なことになっているみたいだけど?」

海藤に指摘されて
は目を丸くする。

「わたしのこと、知ってるの?」

「有名人」

そっけなくそう返した海藤に首を傾げて
は不思議そうな表情を浮かべていた。



「はい」

呼ばれてハッとした
は慌てて手招きされた蔵馬の元に向かった。

蔵馬とその母親の間に立たされて
の表情が硬い。

「笑ったら、


「むーりー...」

無表情に返す
に海藤は噴出し、彼女の隣に立っている蔵馬も肩を震わせている。

仕方なく、
が笑わないまま海藤はシャッターを切る。

「南野くんと海藤君のツーショットは?」

自分が被写体でなくなったことに緊張が解れたのか
から提案があった。

蔵馬と海藤は顔を見合わせて「遠慮するよ」と異口同音に返した。

あまりにも息がぴったりだったので
は笑う。

さん」

振り返るとクラスメイトがカメラを携えて立っていた。

「一緒に撮ってもらえるかしら?」

「いいよ、貸して」

そう言って
が手を伸ばすとクラスメイトは目を丸くし、蔵馬は溜息をついた。

と一緒に、って話だよ」

「へ?南野くんじゃなくて??」

普通、そういうときは面白くないなーとか思うべきだと思う。

蔵馬はそう思いながらも
のクラスメイトの持っているカメラを受け取った。

そこから何故か
との撮影会が始まった。

クラスメイトとの別れを済ませて学校を出ると見慣れた人影があった。

「幻海さん?!」

「卒業、おめでとう」

幻海の言葉に
はぽかんとした。何故知っているのだろう。

「俺が連絡したんだよ」

「お久しぶりです」と海藤まで幻海に挨拶をしている。

「何で?」

「まあ、色々とね」

蔵馬が濁して言う。

まあ、深く聞かない方が良いのかと
は納得した。

「ああ、そうだ。幻海師範。
と一緒に写真とかどうですか?」

蔵馬に言われて幻海は「いいね」と頷いた。

「ほら、並んで。
ももう慣れただろ?」

蔵馬に促されてギクシャクしながら
は幻海の隣に並んだ。

「俺が撮ろうか?」

海藤の申し出を蔵馬は断った。

の家に何度か行ってみたが、彼女との写真がなかった。家族写真も少なくて、今の保護者との写真もなくて。

思い出を作らないようにしていたのだと思う。

でも、もう思い出を作っても良いんじゃないかと思っていた。

だから、今回ここに幻海を呼んだのは蔵馬で、蔵馬の話を聞いて幻海も賛成してくれた。

「ほら、
。良い?」

カメラを構えた蔵馬が言う。やはり硬い表情ではあるが、
は頷いた。

「はい、バター」

の隣の幻海がそう呟く。

は思わず目を丸くして幻海に視線を向けた。

その表情が面白くて蔵馬はシャッターを切る。

「え、ちょっと!今のなし!!」

が言うが「今の表情がいちばん らしかったから」と返す。

それってどういう意味だろうと思いつつも「ダメダメ」と
が蔵馬に訴える。

「あの子達、いつもあんな感じかい?」

傍に居た海藤に幻海が問うと「南野がどんどん壊れていってますよ」と海藤は苦笑しながら頷いた。

「結構なことじゃないか」

「ま、そうなんでしょうね」

肩を竦めていう海藤に幻海は声を上げて笑った。









桜風
10.3.1