Sweet × Sweet





パラッとページを捲っては手を止めた。

「へぇ...」

最近は人間界の雑誌が簡単に手に入る。お陰でこうして暇つぶしの手段がひとつ増えた。便利な世の中になったものだ...

そして、人間界の『日本』という国の雑誌を手に入れたはこうして異文化交流を一方的に行っているのだが、今回、どうやらその日本という国で『バレンタイン』というイベントがあるらしい。

「ふむふむ...」

これは面白そうだ。


は人間界に向かった。


人間界には知り合いがいる。昔名を馳せていた大盗賊で、今は人間の子供をやっているそうだ。

は彼が魔界にいたとき、何度か世話をした。

負傷して外科的な治療が必要になったときにふらりとやってくる。彼はある程度の負傷なら自身で治せるから、自分のところに来るときは本当に色々と拙いときだけだった。



「やあ!」

同じ衣装を纏っている集団の中に彼を見つけた。

蔵馬だ。

彼は目を丸くして一緒に歩いている男に何か声を掛けての腕を掴んで足早にその集団から離れていった。

「どうしたんだ、突然!」

何故か叱られた。

「ん?バレンタインとやらを見に来たの」

きょとんとしてが言うと、彼は非常に疲れたように脱力する。

「どうしてがそんなものを知ってるんだ」

「人間界の雑誌が簡単に手に入るようになったからね」

「日本語、読めるんだな...」

「物凄く勉強したから!」

そう言って、日本語的に全く美しくない品の無いスラングを次々と口にする。

「ちょ..ちょっと待て。まずは黙れ」

「何故だ?これが日本の『標準語』とやらでしょう?」

「待て。お前は何を見てその言葉を習得したんだ、

「まあ、色々と手に入るもので?」

言葉の意味はあまり分かっていないようだ。

「わかった、まず。今、お前が口にした単語は二度と口にするな。魔界ならまだしも、日本でそれは絶対に口にするな。わかったな?」

納得いかないが物凄く念を押されたのでは渋々頷く。

「えーと、それで。ああ、バレンタインだったか」

「ああ。あれはどういう祭り?」

「菓子メーカーに踊らされる祭りだよ」

呆れたように蔵馬が言う。

「何故だ?!雑誌で見たところ、楽しそうだったよ?!」

蔵馬は溜息をつき、「ついて来い」とに声を掛けた。

蔵馬が彼女を連れてきたのは学校の近所のスーパーだ。

その一角にバレンタインコーナーがある。

「な..なんだ此処は?!」

スーパー自体楽しい場所とインプットされてしまった。面倒なことになったと思いつつもバレンタインコーナーに連れて行くとは息を飲む。

「これは、何だ?」

「バレンタインコーナーだ」

「戦場ではなく?」

「日本には人間同士での戦場は無い、今のところな」

肩を竦めて蔵馬が言う。

「バレンタイン、怖いなぁ...」

「分かったか。じゃあ、さっさと魔界に帰れ」

素っ気無く返された。

は肩を落として「そうする」と返事をしてその場から消えた。

「ばか...」

の姿は人間達には見えていた。その彼女が突然消えた。

周囲は騒然とする。

最後の最後まで面倒を掛けられた蔵馬は誤魔化すのに非常に苦労したと言う。



数日後のバレンタイン当日。

蔵馬が魔界にやってきた。

「やあ、久しぶりだね」

が言うと「そうでもないだろう」と蔵馬が返してひょいと何かを投げて寄越した。

「何だ、これ?」

「菓子メーカーの祭りに乗ってやったんだよ」

可愛らしい包装を丁寧にはがして箱を開けると、4つほど黒い物体が入っていた。

「何だ、これ?」

先ほどと同じ言葉を繰り返す。

「良いから食べてみろ」

「食べられるの?甘い匂いはするけど...毒じゃない?」

「毒だったらちゃんと解毒してやる」

意を決してそのひとつをつまみ、口の中に放ってみた。

「...何だ、これ!!」

目を輝かせてが言う。

「チョコレートってやつだ」

「何処で手に入る?!」

「...偶に俺が持ってきてやるから人間界にはあまり来るな」

そんな風に蔵馬に言われてしゅんとなっただったが、それでもこんな美味しいものがもらえるなら、と渋々頷き、蔵馬が持ってきた土産はどうやらとても貴重な品のようなので、残りの3つは少しずつ削って食べると密かに心に誓った。









桜風
11.2.14
11.4.24再掲


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