| 「そっちだ、回れ!!」 「くそっ!」 男達の怒号が響く。 その中を銀色の光が走る。 「はい、そこまで」 緊迫したその空気にそぐわない声音と口調。 銀色の髪をした妖狐は顔を上げた。 淡く光を放つその髪は金色で右目を隠している。彼女は笑う。にっこりと。 魔界では用心棒のような仕事をしている有名な女が居る。 彼女の髪は淡く輝く金髪で、前髪で右目を隠している。その速さは光の如し。 名を、と言う。 彼女が用心棒に入っている屋敷を狙うと必ず掴まって、処刑される。 彼女は元々ひとつところにいない。 大抵ひと月もしないうちに別の場所に移動するらしい。だから、ひと月待てばその屋敷をターゲットにしても大丈夫だと前に聞いた。 彼女がこの屋敷に居ることは調べていた。しかし、それでもやってきた。 慎重な性格の蔵馬が彼女の情報を掴んでいて尚且つその屋敷に近付いたことを知れば、彼の性格を知っているもの皆が驚いただろう。 そもそも、現時点でもかなり驚きの状況であろうが。 牢獄が装備されている屋敷と言うのは、きっとあくどい事を沢山している証拠なのだろう。 そう思いながら蔵馬は牢の中に座っていた。 両手両足を拘束されて、逃げるには骨が折れる。 下卑た笑いを浮かべて屋敷の主人がやってきた。蔵馬は美しい容姿をしている。売れば高額に違いない。 そして、その主人の一歩後ろにはの姿があった。 男が舐め回すように蔵馬を眺め、背後に控えているを振り返った。 「売ればいくらになると思う」 声を掛けられたは「いくらでも。言い値で買い取られる方が多いのでは?」と返した。 その返事に気をよくして男はうんうんと頷いている。 「では、早速あやつらと連絡を取って...」 そう言って入り口に引き返した。 男がの隣に来たとき、ゴトリと音がする。そのすぐ後に、その場に水溜りのようなものが出来た。 「全く、何をしてるのかしら...」 そう言って腰に佩いている刀で牢の鍵を真っ二つにして牢に入り、蔵馬の拘束具も切った。 「ひさしぶりだな、」 「『お久しぶりですね、師匠』でしょう?」 眉間に皺を寄せてが言う。 随分と昔、蔵馬は盗賊に襲われた。弱肉強食。弱き者は強き者に淘汰される。 それが魔界だ。 だから、弱い者はどれだけ強い者の傘下に下るかが生き残るための重要な鍵となる。 そういうことに頓着しなかった蔵馬は弱いのに、強き者の庇護を受けようとしなかった。だから、盗賊に襲われたときも独りだった。 しかし、運が良かった。 偶々通りがかったに助けられたのだ。 「大丈夫、坊や?」と嘲笑と共に声を掛けられてプライドの高い蔵馬はその瞬間から『打倒、』となった。 は元々魔界中を旅している。蔵馬がついてきたがそんなことを気にせずに旅を続けた。 たまに、後ろを追いかけている蔵馬が襲われたら助けたし、寝首をかこうと襲ってくる蔵馬をコテンパンにした。 2人はそんな関係だった。 手首を擦りながら蔵馬は「はいはい、師匠」と適当に返す。 「しかし、良いのか。こいつを殺して」 ゴロリと転がっているそれを見眇めながらに言う。 「ま、ちょっと早まっただけ」 「まだ続けているのか...」 別れ際に彼女の旅の目的は『復讐』だと聞いた。彼女の右目は奪われた。命は助かった。しかし、彼女の一族は蹂躙され、ゴミのように扱われて滅んだ。残ったのは自分だけ。 彼女はその黒幕の命を奪っていると話した。だから、次にあったとき、邪魔だけはするな、と。 「邪魔をしたら、可愛い弟子でも殺さなきゃいけなくなるからね」 軽い口調でそういった彼女と別れて、もう100年経ったことを今思い出した。 「しかし、まあ。わたしと一緒に旅をしていたときは用心深かったから結構生き残るタイプだと思っていたけど。迂闊な子に育ってしまって...」 が言うと「今回はお前に会いに来たから」と蔵馬が言う。 目を丸くしたはとりあえず背伸びをして蔵馬をポカリと叩いて「『師匠』、もしくは『さん』」と注意をする。 肩を竦めて「はいはい、さん」と蔵馬が適当に返す。 「で?なんで会いに来たの?」 「会いたくなったから」 「あらあら、可愛いコト言うじゃない」 歌うように彼女が言う。 「俺と一緒に来ないか?」 「ムリね。わたしはまだ目的を達していない」 「情報ならかなり入るぞ。今、俺は「盗賊団の頭をしている、でしょう?」 悪戯っぽく笑ったが蔵馬の言葉を遮ってそう言う。 驚いた表情を浮かべた蔵馬に「悪い噂が沢山流れているわ。強くなったのね」とが笑った。 「貸しを作ったままじゃ気持ち悪いからな。お前を助けるために、ちょっとでかくしてみた。、俺と来い」 蔵馬の言葉には俯く。 そして顔を上げたときには拳を握り締めていた。 「貴方の手伝いをしたくて強くなりました。俺に手伝わせてください、さん」 言い直した蔵馬に向かって満足そうに頷き、「よろしい」と言う。言葉遣いに非常に厳しい。 「ありがとう。でも、一緒に行けないわ」 微笑んだの髪を掴み、口付ける。驚いたはそのまま不思議そうに蔵馬を見上げた。 「俺と来い」 真剣な眼差しで言われたはうっかりその空気に飲まれそうになった。 しかし、彼女はするりと蔵馬の手から離れる。 「来年の、この日。わたしを探してみなさい。捕まえて御覧なさい」 「自分を盗んでみろ、というのか?」 蔵馬が言うと彼女は驚いた表情をして「それ、いいわね」と呟き、笑う。 「どうかしら?希代の大盗賊、蔵馬さん?」 彼女の言葉に蔵馬は不敵に笑う。 「いいだろう。覚悟していろ。俺は、盗みを失敗したこともないし、一度盗んだものは誰にも渡さない。は俺のものだ」 そう言いきった蔵馬に向かって愉快そうな表情を浮かべたは「生意気」とひと言呟いて消えた。 次の復讐相手を探す旅を始めたのだ。 「さて」と呟き、用事が済んだ蔵馬はその屋敷の宝を盗んでその場を去る。 唯一、女用心棒の手から逃れた妖怪としてまたひとつ蔵馬の名が上がったのはそれから数日後のことだった。 |
リクエスト内容は『蔵馬に、プロポーズ又は告白(それに近い言葉)をして欲しい』でした。
蔵馬は妖狐でも、南野秀一と融合したのでもどちらでもOKとのことでしたので、妖狐の方を。
妖狐にプロポーズとかって、難しいですねー。あの人、ほら、オレ様だったし...
リクエストありがとうございました!!
桜風
10.8.13
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