| 植物は全て自分の武器となる。蔵馬とはそういう妖怪だ。 彼は妖狐で、それなりに魔界で名を轟かせている盗賊団の頭領をしている。 冷静沈着冷酷非道とは彼のためにある言葉かと思うほど、彼の特徴を端的に表そうと思えばその2つの四字熟語を使えばちゃんと表現できる。 妖狐蔵馬とはそういう存在だった。 最近、蔵馬の盗賊団の中に新顔が加わった。名を という。 力は底々あるし、足手纏いにもならないから蔵馬は黙認していた。 新しく盗賊段に入る妖怪に関してはあまり興味を示さない。邪魔になれば切り捨てるし、役に立つなら利用するだけだ。 に関しても最初はそういうつもりだった。 彼女は数少ない女妖怪ということもあって、彼女に不埒な動機で近づく輩も少なくなかったが、そういった者たちはいつの間にかその盗賊団から消えていた。 元々そんなに大きな集団でもないため、諸々の噂は蔵馬の耳に入っていたが大抵の噂には興味がないらしく、むしろ消えたのならそれで自分たちの盗賊稼業に全く支障がないため、 を問い詰めるなどの行動もしなかった。 は蔵馬に媚びることなく、でも必要以上に距離を置くでもなく。いつも彼女は自然に振舞っていた。 どこにも無理をしていない。 そんな彼女に蔵馬は少しずつ好感を持ち始めていた。 その日もある集落を襲いに行った。 噂どおりの品が手に入り、根城に向かっていた。 ふと、赤い花が目に留まる。 「蔵馬?」 黒鵺が声を掛けてきた。 「先に戻れ」と言いながら本日の戦利品を投げて渡す。 蔵馬にそういわれた黒鵺はそのまま根城へと向かっていった。 先ほど目に留まった赤い花の元へと戻った。 蔵馬ですら名を知らないその毒々しいまでに赤い花はまるで自分が世界の中心だといわんばかりの存在感を示している。 似ていると思った。 その花を手折るのに一瞬躊躇したが、もし、この花に毒があればそれこそ想像通りであり、蔵馬は毒消しも持っているので神経質になることはないだろうと思って1本折って根城へと戻った。 戦利品を囲んでいる仲間の元へと向かう。 チラリと本日のそれを見た。誰もくすねていない。 それを確認して蔵馬は仲間たちと話をしている の元へと向かった。 「おい、 」と声を掛けると彼女は話を中断して振り返った。 「あら、遅いお帰りね。頭領」 軽く会釈をして彼女はそう言った。 「これをやる」 そう言って差し出したのは先ほど摘んだ赤い花だ。毒はないようだった。 「...あたし、これから殺されるのかしら?」 彼女の言葉を蔵馬は鼻で笑う。 「いつでも出来るだろう、そんなこと」 「...それもそうね」 自分の不穏な言葉を肯定する に蔵馬は目を眇めた。 「相変わらずだな」 「あなたに殺されるなら、まあ。良いかなって思ってるから」 蔵馬は深く息を吐く。 「オレがお前を殺せると思うか?」 「簡単に。こう、赤子の手を捻るが如く」 「お前は、馬鹿だろう」 「心外なことに黒鵺にもこの間言われたわ」 「...だろうな」 蔵馬は呆れたように腰に手を当てた。 「今朝、言っていただろう」 何を、とまでは言わない。 「あたし、今なら殺されても良いわ。物凄く満足して死ねるもの」 蔵馬が言わずに飲んだ言葉を察して彼女はそういう。 今朝、何の気なしに彼女は言っていた。今日は自分の生まれた日だ、と。 親から生まれた日なんてのは知らない。 ただ、彼女が“ ”と初めて名乗ったのが確か今日だった。 そう言っていたのだ。 偶然その言葉を耳にした蔵馬はそれがずっと気になっていた。 「死なせるか」 蔵馬がそう呟く。 「...焼きが回ったとかいう不本意な噂が立ちますよ?」 「だから何だ」 蔵馬の言葉に は微笑む。 「では、あなたに役立たずと判断されるまでお傍に置いてください」 「...断る理由はない」 は再び微笑んだ。 いつも挑発的に見えていたそれはとても穏やかで蔵馬は思わずその表情に見惚れる。 そんな自分に気がついて蔵馬は慌てて視線を逸らせ、 はそんな蔵馬を見上げてまた微笑んだ。 |
桜風
08.5.1
08.5.18(再掲)
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