| 不覚にも負傷してしまった。 蔵馬は自身の汚点に舌打ちをした。 幸い、ここはあまり人が通らないようだ。道がない、荒れ放題の山の中だった。 しかし、そんな蔵馬の予想は大きく外れた。 「あら、こんにちは」 少女が自分を恐れることなく近づいてきた。妖狐蔵馬といえば、泣く子も黙る大盗賊なのに... 「怪我、してるわね...大丈夫?何をしたらこんな大怪我を負えるのかしら??」 そう言って少女は自分の着ていた衣服の袖をちぎった。 その腕に大きな火傷の痕がある。 ふとその傷痕が目に入ってそのままそれが気になっているうちに「はい、できた」と声を掛けられて自分が手当てをされていたことに気が付いた。 「貴方、綺麗ね。ねえ、お名前聞いても良いかしら?」 蔵馬は少し悩んだが、別に減るものでもないと思って「蔵馬だ」と答えた。 「蔵馬さん。そう。わたしは、 。ちょっと先にある村に住んでるの」 「それは、どうしたんだ」 さっき自分が気になった傷痕を視線で指してそう聞いた。 は難しい表情を浮かべた。答えにくいと言った表情だ。つまり、誰かに故意に傷つけられたのだろう。よく見れば新しい傷もあちこちにある。 「うち、親が早くに亡くなったから」 弱い者達は群れを成して生きている。 魔界にも沢山村がある。 その村々を襲って財宝を奪っているのが自分の生業なのだが... 多くの村の長は私腹を肥やし、弱いものを道具のように使っている。そういった村を多く見てきた。 蔵馬は別にそれを見てなんとも思わなかった。 ただ、地位のある村の長から財宝を奪い、ついでに村から食料を根こそぎ奪って自分たちの根城に帰る。 蔵馬自身は財宝を奪い、食料についてはそこまで求めていないが、部下が何をしようが口を出さず、奪ってきた食料は勿論自分だって口にしている。 「これを」と蔵馬はもっていた小さな宝石を取り出した。 とりあえず、手当てを受けたのだから礼くらいしておこうと気まぐれを起こしたのだ。 しかし、 は蔵馬の手のひらに乗っている宝石を見て困ったように笑った。 「要らないわ。でも、人にそんな高価なものを見せてはダメよ。ここ、荒れてるでしょう?ついでに追いはぎも出るのよね。蔵馬さん、歩ける?」 「いや。だが、少ししたら仲間が迎えに来るだろうな」 黒鴉、怒ってるだろうな... 黄泉、運が良かったと喜んでいるかもな。 そんなことを思うと何だか可笑しくなってクツクツと笑う。 「良かった。わたしもそろそろ戻らないと怒られちゃう」 「本当に良いのか?これがあれば自由が買えるだろう」 蔵馬が問う。 普通はすぐに飛びつくだろうと思っていた。虐げられているものなら特にこういうものを差し出せば飛びつくだろう、と。 「わたしが居なくなったら、別の人がわたしと同じ目に遭うから。良いの。慣れちゃった」 笑って言う の瞳からポロリと涙が零れる。 彼女は慌てて目元を乱暴にぬぐった。 ぬぐった痕は赤くなっている。 「今の、ナイショね?ごめんなさい、お友達が迎えに来るまで一緒に待っていられたら良かったんだけど...」 が心配そうな表情を向けるから蔵馬は適当に手を振った。 「あいつらならすぐにやってくる。あえて心配だと言うなら、あいつらの長い小言かもな」 蔵馬の言葉にクスクスと は笑って「じゃあ。お友達にあまり心配をかけないほうがいいと思うわ」と言って は駆けて行った。 そういえば、彼女は自分の怪我の手当てのために服の袖をちぎった。 もしかしたらそれについて彼女は折檻を受けるかもしれない。たぶん、間違いないだろう。体中のあざや傷を見ると容易に想像できる。 「蔵馬」 不意に頭上から物凄く不機嫌な声が降ってきた。 「ああ、遅かったな」 蔵馬の言い様に黒鴉はぐっと言葉に詰まった。相変わらず王様だ。 「どうした、それ」 『それ』とは の手当のことだ。 「ああ、近くの村の娘が通りがかったんだ」 「...よくお前に近づいたな」 黒鴉が関したように呟くと「妖狐蔵馬のことは知らなかったようだな」と面白そうに蔵馬が言った。 黒鴉は驚いたように「そうか」と呟き、その表情と声が可笑しくて蔵馬は声を上げて笑った。 「次のターゲットはどうする?」 根城に帰ると仕事の話になった。 「ああ、お前らは好きにしろ。俺は少し個人的に行ってみたいところがある。数日留守にする」 蔵馬の言葉に盗賊団の幹部たちは目を瞠った。 自分も、と手を上げた者たちが居たがそれらは付いて来ない様に命じてそのまま根城を後にした。 先日負傷した場所の近くまで行き、その先にあるという小さな村を目指した。 そこは本当に小ぢんまりした村だった。 そして、その村で一番大きな屋敷に向かうと の姿を見つけた。 彼女は今日もボロボロの体をしていた。 しかし、彼女以外の者たちも沢山の痣や傷を持っている。 屋敷の中に忍び込み、村長の姿を確認した。絵に描いたような強欲な成金だ。 蔵馬はつい、と目を眇めた。 ここに来るまでに村の様子も見たが、誰も彼もこの村長の圧政に苦しんでいるようだった。 「さて、」と蔵馬は呟き、村長の前に堂々と現れた。 村長は悲鳴を上げて助けを求めた。 慌てた家の者たちは村長の部屋に飛び込むなり蔵馬の姿を見てそれぞれ悲鳴を上げる。 遅れてやってきた はただ首を傾げた。 何故皆はこんなにも彼を恐れているのだろうか。 「命がほしいか?」 村長に問う。 彼は何度も何度も。首が取れるのではないかと思うくらい首を縦に振った。 「そうか...」 蔵馬はそう呟き、 を振り返った。 「この間は、礼を言い忘れた。助けてくれてありがとう。それで、 は俺の差し出した礼を受け取らなかった。だから、態々礼を届けに来た。いや、違うな。 、俺は盗賊なんだよ」 そう言って笑う。 蔵馬の言葉を理解するのに少し時間がかかっている様子の を面白そうに見ていた。 どん、と誰かが の背を押した。 よろける様に は蔵馬の前に足を踏み出す。 しかし、 のその背の後ろには刃を持った村長が居た。 もろとも蔵馬を刺すつもりなのだろう。 蔵馬の目が昏く光る。 の腕を引いて蔵馬は手に持っていた葉を刀に変えてそのまま突っ込んできた村長を袈裟懸けに切りつけた。 傷を負ってのた打ち回る村長に冷たい瞳を向けた蔵馬はとりあえずこの部屋の中にある高価な置物を手に取った。 そして、それを村長の目の前で割る。 ひぃ!と悲鳴を上げながらその置物の欠片を集めるその姿に目を眇めて蔵馬は続け様に貴重と思われるものの破壊活動を続けた。 粗方それらの破壊活動を済ませ、「おい」と這い蹲っている村長に声をかけた。 「この宝は貰っていくぞ」 村長は何を取られるのかと青ざめたが、蔵馬が手を添えているのは だ。 も蔵馬のことばに目をぱちくりとして見上げている。 「 、盗賊は盗むものの意思は確認しないんだ」 そう言って を抱えて村長の屋敷を後にする。 「えーと、蔵馬さん」 「何だ?」 「行く場所がないじゃないですか」 そう抗議をする を面白そうな目で見た。 「じゃあ、うちに来い」 はコクリと頷いた。 「わたし、何も出来ませんよ」 「別に構わない。食事くらいは作れるだろう?」 その言葉に蔵馬は「なら、それでいい」と言う。 は蔵馬の様子を盗み見るようにしていたが、「ありがとうございます」とポツリと呟いた。 「お相子だ」 そっけない蔵馬の言葉に「はい」と は頷いた。 |
桜風
09.5.1
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