It's so happy





悲鳴が聞こえて蔵馬がその場に向かう。女性の声だ。

魔界と人間界では平和協定が結ばれている。まあ、その事実を知っているものの方が少なく、どちらかといえば人間よりも妖怪の方が知っている割合は多いのだろう。

妖怪が人間を襲うことは許されない。

ここ数年ではあるが、そういう法が整備されている。

蔵馬は悲鳴の上がった現場に駆けつけ、「やめろ」と妖怪に声をかけた。

蔵馬の姿を目にした妖怪は逃げていく。

彼女は呆然と蔵馬を見ていた。

「大丈夫ですか?」

そう言いながら蔵馬が手を差し出す。

彼女は少し躊躇ったがその手を取って立ち上がる。

その場に散乱している彼女のバッグの中身と思われる書類や筆記用具、その他諸々を拾う手伝いをした。

あの妖怪は人間に見えなくもなかった。

ということは、彼女は妖怪に襲われたのではなく、人間に襲われたとした方が色々と収めやすい気がした。

「あなたも妖怪?」

目を瞠る蔵馬に彼女は『』と名乗った。

「あの、えっと...」

「ああ、わたしも妖怪」

あっさり彼女が言う。

と、いうことはあの妖怪は魔界の法を破ったわけではないのか...

「そうか」と蔵馬が息を吐く。

「最近、魔界に法が出来たんですって?」

「知らないのか?」

驚く蔵馬に「生粋の人間界生まれたの人間界育ちだからね」と笑う。

つまり、人間界にやってくることが出来た時代からこちらにいるのか、それとも、霊界が網を張っていたその網の目を潜り抜けていけるほどの弱い妖怪を両親に持っているかのどちらかなのだろう。

しかし、彼女からは妖気があまり感じられない。

「よわっちい両親から生まれた方よ」

蔵馬が頭に浮かべた選択肢を指摘して彼女は笑う。

「寿命は?」

「今は、えーと..人間で言うところの20代から30代を30年が4回目かな?まだまだ先は長そうよ」

「よく持つな...周囲に気味悪がられるだろう」

そう言う話は良く聞く。そして、迫害されるのだ

「住む国を変えてるし、何とでもなるのよ。今は某商社のOLさん」

笑いながら彼女が言う。

「凄いな」

「まあね。ね、名前教えてもらえるかしら?」

「蔵馬だ」

「それって、その姿の名前?苗字かしら??」

首を傾げて言う彼女に「人間界での名前は『南野秀一』だ」と教える。

「なるほど、秀一くんね。何歳?」

「19だ」

「あら、お若い」

カラカラと彼女が笑った。



お互い、生活範囲が被っているのと珍しいと言うこともあって何となく一緒に出かけることが増えた。

彼女と歩いているところを知り合いに見られてはからかわれ、蔵馬は苦笑する。

「秀一くんは皆に愛されているのね」

その様子を見ていたがいう。

「まあ、『いい子』だったからな」

「疲れない?」

「色々あったんだよ。今の生活には満足している」

「良いわねー、そういう風に胸を張っていえるなんて」

は言えないのか?」

蔵馬の問いに「ははっ」と彼女は軽く笑った。

そういえば、彼女が誰かと親しくしているというところを見たことが無い。

「人間って短命でしょう?」

ポツリと彼女が言う。

「そうか」と蔵馬は呟いた。

もしかしたら、昔は彼女にも友人と呼べる存在がいたかもしれない。だが、繰り返す別れの中でそれに耐えられなくなった。

おそらく、そうなのだろう。

人間界に長い間いる妖怪のうち何人かそういう話をしていたことを思い出す。

「オレも、たぶんそう長くないんだ」

「人間と融合しちゃってるんでしょう?」

「何で分かる?」

「妖気のこう..種類っていうか。何だろう、雰囲気?まるっきり人間なのに妖気がそこはかとなく、っていう感じ」

少し寂しげに彼女は睫を伏せた。

だが、いずれ来る別れを恐れて人との交わりを絶つのも寂しすぎるだろう。

押し付けるつもりは無い。しかし、見ていられないとも思った。




そう言って蔵馬が両手を広げた。

彼女は目を丸くして蔵馬を見上げる。

蔵馬は首を傾げて促す。蔵馬が何を意図としているかはにも一応分かっている。

「...えい!」

思い切って彼女は蔵馬の胸に飛び込んだ。

そっと彼女を抱きしめる。

「こういうのも悪くないだろう?」

「そうね、ありがとう」

も蔵馬を抱きしめ返した。









桜風
11.5.3


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