| 街を歩いていると肩をポンと叩かれて蔵馬は振り返る。 背が自分と同じくらいの高さのが軽く手を上げて「やあ」と言っている。 「久しぶりですね、」 蔵馬はにこりと微笑み 「まだ若作りですか?」 とついでに余計な言葉を付け加え、 「あら、レディに失礼ね」 とこれまた笑顔で返された。 と知り合ったのは、随分昔で、魔界のどこかだった。 知り合って間もなく彼女の姿を魔界で見なくなったと思っていたが、ここ最近再会した。 どうやら人間界に遊びに行っている間に魔界との間に結界を張られて戻れなくなったらしい。 特に困っていなかったので、各地を転々として日本には200年位前に戻ってきたと先日聞いた。 外見は20代前半で、その気になれば見た目を変えることは出来るらしいが、その気にならないので彼女は200年前から同じような外見で日本各地を20年ずつ渡り歩いているとか。 こちらに来たのは10年位前だと言う。 「蔵馬、一人?」 「こっちでは『南野秀一』です。いい加減覚えてくださいね」 笑顔で蔵馬が返す。 「はいはい、どうだっていいよ。あんただってあたしの名前覚える気ないんでしょう?」 指摘されたとおりだ。 蔵馬にとって、彼女は『』のままだ。 「ちょっと買い物に付き合わない?」 「オレは忙しいんですよ」 「太っ腹!さすが元こそ泥」 「大盗賊、です」 心持小声にして蔵馬が指摘すると彼女はカラカラと笑う。 「ま、暇なんでしょうから付き合いなさい」 彼女の言葉に蔵馬は大げさに溜息を吐いた。 「今の流行りってのがイマイチね。流れが早すぎる」 「には大変でしょうね。そろそろ魔界に戻ってはどうですか?今は結構楽に行き来できますよ」 「彩がないからイヤ」 そう言いながらカラフルなスカーフに手を伸ばしている。 「その外見なら、それはちょっとアンバランスですよ」 そう言って蔵馬は彼女が手にしたスカーフを取り上げて見繕う。 「面倒見が良くなったね」 「お陰さまで。これなんてどうです?」 「あと、蔵馬の敬語はきもい」 「わぁ、凄いですね。『きもい』だなんてスラングですよ。随分勉強しましたね」 軽く馬鹿にもしてみる。 「でしょう?」 得意になって返された蔵馬は、やっぱり溜息を吐いた。 「さて、お茶でもご馳走してあげるわ」 「当然でしょう?」 そう言いながら蔵馬はさっさとカフェの中に入っていく。 暫くそこで話をしていたが「ねえ、アレってどういう意味?」と蔵馬に問う。 「あれとは?」 「窓際の、あの女の子たちの話」 「女の子...?」 『有閑マダム』と呼ばれる雰囲気を醸し出した女性達ならいる。 「あの子達」 「自分の外見と発言は統一させてください」 そう言いながら蔵馬も耳を澄ませる。 「ああ、夏目漱石ですよ」 「あの坊やの話題なの?」 「...知り合いですか?」 「まあねー。お札になったときには思わず『出世したねぇ』と声をかけてしまったくらいよ」 得意になってが言うが、それは傍から見たら『変な人』である。 「彼は『I love you』を訳すなら『月が綺麗ですね』で充分だって言ったらしいですから。そのエピソードで盛り上がっているみたいですね」 旦那に昔言われただとかそんなことを彼女達は話している。 「ふーん。ちなみに、蔵馬は?」 「オレですか?そうですね...『お前はオレのものだ』ですかね」 さらっという。 「蔵馬、他人の事言えないから。外見と発言内容は統一させた方が良いよ」 の指摘に肩を竦めた蔵馬は「肝に銘じておきます」と軽く頷いた。 |
桜風
11.5.1
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