畑中家(後編)





蔵馬の部屋は二階にある。

案内された部屋は、整頓されていて何だかすっきりしている。

何となく、蔵馬の性格がにじみ出ているようで少し落ち着いた。

「何か音楽聞く?」

そう言って部屋の端にあるオーディオの傍へと向かった。

がそこを覗けば、クラシックからロックまで多種多様のジャンルのCDが置いてある。

「え、何で民謡があるの?これ、アフリカのどこかの民族の伝統音楽?」

気になったそれらを手にとって蔵馬を見上げる。

「うん。とりあえず耳にしたことあるの買ってたんだよ。ほら、人間界の社会勉強みたいなかんじ?雪菜ちゃんと一緒だよ」

にしたって...純粋に人間である
すら知らないジャンルの音楽CDがわんさか出てくる。

聞いたことのない音楽CDを手にとって蔵馬に渡せば、その音楽が部屋に広がる。

何だかそれが可笑しくて
が笑う。

「少しはリラックスできた?」

そう蔵馬が問えば、きょとんと蔵馬を見つめ、やがて破顔する。

「うん!」

「それは良かった」と微笑んだ蔵馬は
を抱き寄せて唇を落とした。

啄ばむように、何度も
の顔に飽きることなく口付けを落とし続けていると、くすぐったそうに が身を捻る。


「あのー、南野さん」

「何?」

現在、床に座っている
は蔵馬に後ろ抱っこされている状態だ。少々恥かしい。

というか、居心地が良すぎてなんだか変な気分だ。

「せめて、手をどけてくださいませんかね?」

「イヤだよ。すっと我慢してたんだから、今くらいいいだろ?」

そんなことを言って顔を覗き込まれた
に反論できるはずもなく、大人しく蔵馬にすっぽりと包まれたままコーヒーを飲んだ。

ああ、飲みにくい...

「ねえ、


奇妙な音楽が流れているこの空間で今の自分たちの状態に疑問でも持ったのか、と思いつつ、「ん?」と蔵馬に続きを促す。

「3月3日、何か予定入ってる?」

「おひな祭りの日?全然入ってないよ。どうしたの?」

「じゃあ、
の家に行っても良いかな?」

こんな前以て話をすることでもないだろうと思ったが、別に構わないので「いいよ」と答えた。

その答えを聞いた蔵馬は嬉しそうに微笑んだ。

そんな蔵馬の微笑を至近距離で見てしまった
は赤くなって俯く。

「南野くん、それ反則...」

「え、何が?」

と蔵馬は先ほどより更に顔を近づけ、吐息のかかる距離で微笑む。

分かってやっているのか、そうでないのか判断つかないその笑顔に、
は「知らない!」と言って顔を背けた。

の真っ赤になった耳を見ながら蔵馬は必死に笑いを堪えていた。


蔵馬の胸に重みを感じる。

さっきまでふてくされていた
が体重をかけてきたようだ。

どうしたんだろう?と思って覗き込むと、目を瞑って規則正しい寝息を立てている。

蔵馬は小さく笑い、
を起こさないように立ち上がる。

ベッドを整えて
を寝かせた。

「お疲れ様」

の額に唇を落として部屋を出て行った。

「あら、コーヒーのおかわり?」

台所に下りると夕飯の支度中の母に声を掛けられた。

「ううん、いいよ」

さんは?」

「寝ちゃった。疲れてるんだと思うよ」

「そう」と言って優しい顔で微笑んだ母は料理を再開した。

「何か手伝う?」

「いいわよ。あなたもゆっくりしてなさい」

言われた蔵馬は、先ほど自室から持って降りていた読みかけの小説を開く。

今、この母と2人の空間は懐かしくもあり、幸せな時間だとも思う。

暫くすれば義弟が学校から帰ってきて、それからもう少し遅くに父が帰ってくる。

「そういえば、秀一」

「何?」

「あなた、誕生日。何が欲しいの?」

「いいよ、要らない」

「でもねー...」

「スーツ、買ってくれるんでしょ?それで良いよ。あ、あと。3月3日。俺、夕飯要らないから」

蔵馬の言葉に、母は少し驚いたように眉を上げ、しかしすぐに微笑んで

「ああ、
さんと約束があるのね。分かったわ。良かったわね。誕生日に好きな人と過ごせるのね」

と返事をした。

「うん、まあね」と返事をする蔵馬の表情を見て、志保利は小さく笑う。子供みたいだ。

楽しみで仕方が無い、そんな笑顔だ。

程なくして義弟が帰ってきた。

を起こしに行こうと立ち上がったが、母に「お父さんが帰ってくるまで寝かせてあげましょう」と制止される。その言葉に従い、蔵馬もまた腰を下ろした。


が目覚めると知らない天井が視界に広がる。が、耳に入ってきた音楽で此処が蔵馬の部屋だというコトを思い出す。

「南野くん...」と呼んでみても返事が無い。部屋の電気も消えているため、この部屋には居ないのだろう。

本当なら起き上がらねばならないところだろうが...

気持ちいい...

今日干したばかりなのか、太陽の熱をいっぱいに孕んだ布団の魅力には敵わない。それに、太陽の匂いに混ざって蔵馬の匂いもする。

は布団に包まり、ごろごろとベッドの上で転がっていて、落ちた。

タイミングが良いんだか悪いんだか。丁度蔵馬がドアを開けたときで、彼は決定的瞬間を目撃したことになる。

「何してるの?」

「落ちちゃった...」

「受験生の禁句を自分で口にするとはね...」

「だって、どうやってももう足掻きようがないでしょ?」

確かに、と笑って蔵馬が
を起こす。

布団に包まってごろごろしていたため、中々起き上がれずに頑張っていたのだ。

「何で落ちるかなー?」

不思議に思って口にすると

「だって、家と反対なんだもん。私のベッドはこっち側が壁だから安心してたんだけど...」

と恥かしそうに原因について述べる。

の家に行っても部屋に入らない蔵馬は一度だけ見た の部屋を思い出して納得した。

、義父さんが帰ってきたからご飯にしようって」

蔵馬の言葉を聞いて
は飛び上がり、一生懸命髪をなおす。


階下に行けば、蔵馬の家族が揃って食卓についていた。

慌てて「ごめんなさい」と言う
に、「良く眠れました?」と志保利が声を掛け、それによって の顔が赤く染まる。

それでも、正月に来たときよりはまだ会話が出来るくらいのリラックスは出来た。

その日も、あまり遅くならないうちに
は家に帰った。


富樫先生は自分が出された同人誌か何かで蔵馬の誕生日は3/3と言っていたらしいです。
女の子の日ね(笑)


桜風
07.2.28


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