| 珍しく蔵馬は待ちぼうけている。 と約束しているのだが、何故か約束の時間になっても の姿が見えない。 いつもは駅で待ち合わせているのだが、今回は が午前中に用事があるから、出先での約束だったというのに... もしかしてその用事が延びて連絡が取れないのかと思って待っていたが、段々不安になってくる。 時計を何度も見て落ち着かない。 突然携帯が震え、メールの受信を知らせる。 見ると、 からで 『ごめん、今日行けなくなった』 と一言だけ送られてきた。 いつもなら電話をしそうなものなのに、何故か今に限ってメールだ。 気になった蔵馬は に電話を掛けてみるが、応答がない。 取り敢えず の家へ向かってみることにした。 勝手知りたる他人のマンション。 オートロックをあけてエレベーターに乗り込む。 の家のドアの鍵を開ければ、人の気配がする。 一瞬眉間に皺を寄せた蔵馬がいつもどおり家の中に入っていくと、 の部屋の中から苦しそうな声が漏れている。 「 ?」 ノックをして部屋の中に声を掛けるも返事がない。仕方ないので の部屋のドアを開けた。 部屋の中に の姿はあった。 苦しそうな息をしており、顔が赤い。 「 !?」 駆け寄った蔵馬が の額に手を当てる。肌に感じる温度の高さに驚く。 すぐさま部屋を飛び出して冷凍庫を開ける。 氷枕を取り出してタオルを巻き、ついでに水分補給もしておいたほうが良いだろうと冷蔵庫を開けて冷えた水をコップに注ぐ。 の部屋に戻り、氷枕を頭の下に敷いた。 「 、水だよ。飲んで」 声を掛けても意識が朦朧とした感じで目の焦点が合っていない。 仕方ない、とばかりに蔵馬はその水を口に含んで に口付ける。 ゆっくりと水を に移せば、嚥下するように喉が動く。 それを何度か繰り返し、コップの水がなくなった。 「取り敢えず、何か食べないと薬が飲めないよな...」 と、思ったがよーく考えれば、自分は薬草を持っている。 市販の薬に頼らなくても良い事に気付いた。 それでも、栄養は摂取しないと風邪は治らないだろうから買い物に出かけた。 のマンションの近所にあるスーパーでは、蔵馬は既に顔なじみの客となっている。勿論、買い物に来るおば様たちのアイドルでもある。 「あら、今日はあの可愛い彼女は一緒じゃないの?」 「ええ、ちょっと風邪を引いたみたいで」 そう答えると、周りに居た人たちまでが風邪についてのお婆ちゃんの知恵袋的なアドバイスを口にする。 蔵馬はそれらを適当に記憶し、愛想良く相槌を打つ。 おば様たちから開放された蔵馬は多少疲れている上、あまりにも時間をとられてしまってちょっとだけ苛立っていた。 取り敢えず口にしやすいゼリーやヨーグルトを購入し、消化に良さそうな献立を考えてその材料もかごに入れる。 思いの外スーパーでの買い物に時間をかけてしまった蔵馬は民家を跳び越えたい衝動を抑えて人らしく、徒歩でマンションに向かった。 の家に戻り、部屋を覗くとさっきより顔色が幾分かマシになった がすやすやと寝息を立てている。 手早く料理を作り、ついでにその中に風邪に効く薬草を混ぜて の部屋へと持ってくる。 先ほどより意識がしっかりしている は部屋に入ってきた蔵馬に 「ごめんね、今日...」 と声を掛けてきた。 「いいよ。出掛けるのはいつでもできるんだから。でも、何で俺を呼ばないの?」 「だって、風邪を移したら大変でしょ?」 ああ、もう何だってこの子は... 蔵馬は の髪を梳く。 「 が一人で苦しんでいる方が、俺はイヤだよ」 額をくっつけながらそう言うと、小さな声で「ごめんなさい」と が呟いた。 「ん。反省してるならよろしい。ご飯作ったよ。食べれる?」 「うん、お腹すいた」 が起きるのに手を貸してやる。 茶碗についであるお粥らしきものを見て が一言。 「これ、何?」 「蔵馬特製、薬膳粥」 何処か誇らしげな蔵馬に少しだけ顔を引きつらせながられんげで粥を掬う。 『蔵馬』というからには魔界とか何とかの関係なのだろう。ああ、だからに見たことのない料理なんだ... そんなことを思いつつ口に運ぶ。 「にがっ!!」 思わず声を出す。 ちょっと、これ何が入ってるの!? そう思って勢い良く蔵馬を見ると 「うん、苦いと思うよ」 あっさり認められた。 「いや、これ。初めての苦さなんですけど...」 「 は魔界の薬草の味、初体験だからね。慣れれば、まあ、普通に苦いで済むよ。効果はこっちのよりも高いから今回は魔界のを使ったんだ」 いたずらでも何でもなく、 の体調を気遣ってのそれなら仕方が無い。大人しく茶碗の中を綺麗にした。 「ごちそうさまでした」 手を合わせると蔵馬は笑いを堪えつつ「お粗末さまでした」と答えた。 粥の中に薬草が入っていたので食後に薬を飲む必要はなく、 はそのままベッドに横になった。 「着替える?ずいぶん汗かいただろ?」 「うーん...」 「辛いなら手を貸すよ」 からかうように蔵馬がそういう。 は蔵馬を軽く睨んだ。 「遠慮します。着替えるから...」 無言で出て行くように促す に蔵馬は苦笑しながら部屋を出て行った。 食器を洗い終わり再び の部屋を訪れる。 「 、今日俺泊まるよ」 「え、悪いよ」 「悪くない。さっきも言っただろ。 が一人で苦しんでいる方がイヤだって。夜中に熱が上がったらどうするんだよ。大丈夫、俺には移らないから」 「もう...じゃあ、お布団は適当にお母さんたちのベッドを使って」 どんな断り方をしても蔵馬は泊る気なので も早々に諦め、蔵馬の宿泊を許可した。 「ありがとう」 にっこりと微笑み、蔵馬は部屋から出て行く。 翌朝になれば の熱も引き、いつもどおり起きれた。 着替えを持ってリビングに行けば、蔵馬が新聞を読んでいる。 「おはよ」 「おはよう。熱は?」 蔵馬は立ち上がって と額を合わせる。 「うん、熱は下がったね」 「薬草のお陰です」 「俺じゃなくて?」 「じゃあ、秀一のお陰です」 の言葉に満足そうに微笑む蔵馬。 「シャワー浴びてくる」 「ん。朝食は、もう普通のでいいね」 「うん、苦くないヤツがいいな」 笑いながらそう言って はバスルームに向かった。 台所に向かう蔵馬はひとり、「そんなに苦かったかなぁ?」と首を捻っていた。 苦くない食事を口にした後、食後のコーヒーを久しぶりに味わう。 久しぶりと言っても1日ぶりなので大した時間ではないが、毎日飲んでいたものを口にしていなかったため、特に久しぶりに感じてしまう。 がそんなささやかな幸せに浸っている中、蔵馬が声を掛けてきた。 「ねえ、 」 「何?」 「俺、ここに引っ越してもいい?」 「!?」 危なかった、コーヒーを噴出すところだった... 「はい?」 「だって、今回みたいなことがこの先ないとは言い切れないだろう?心配だよ。元々 は自分を顧みないから」 念を押すように「ね、いいだろ?」と言ってくる。 今回のことは反省してるし、蔵馬が来てくれて凄く助かったし感謝しているけど... 中々頷かない に蔵馬は笑顔で 「じゃ、決まりだね。荷物はゆっくり運ぶから。ほら、一応生活するのに支障がない程度に物が揃ってるしね」 大抵の の主張は聞いてくれるが、こういう風に強引に話を進める蔵馬はもう止められない。 は諦めの溜息を吐いた。 「まあ、幸い部屋は余ってるしね。でも、秀一の家の方の了解も取っておかないと。御両親、どちらかでもダメだって仰ったらダメだからね」 「分かった」 蔵馬は即答する。両親の答えは分かっているから。 「ダメ」なんて言うはずがない。普段からひとり暮らしの のことを心配しているのだから。 かくして、それから数日もしないうちに、蔵馬は の家で生活をするようになったのである。 |
絶対にこの2人は同棲すると思っていました。
何故か『絶対に』です。
蔵馬は魔界の薬草とか普通に治療に使いそう。ちゃんと人体に影響がないか調べて。
その方法は何だろう...?
桜風
07.5.9
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