魔界訪問 10





「そういえば、蔵馬」

蔵馬が持ってきた湯飲みをそれぞれの前に
が置いていると躯が今度は蔵馬に話を振る。

「何ですか?」

「たぶんそろそろだろう。トーナメント。出るのか?」

幽助発案の魔界統一トーナメントは、数年に1回のペースで行われる事となっている。そのトーナメントの頂点に立った者が魔界を治める大統領となり、魔界の方針を示すこととなるのだ。

このトーナメント戦は魔界の大統領選挙の代わりと言ったところだ。

「ああ、そういえばそうですね。今のところ、出るつもりはありませんね。観戦には来るかもしれませんけど」

すっかり忘れていた、といった表情で蔵馬が応える。

...そう言うだろうと思った、と躯はそのまま納得した。

と一緒に居る蔵馬は毒気が抜かれている。

元々彼は毒気を振りまいている人物ではなかったが妖怪であるため、その本来の性質から多少好戦的ではあったはずだ。

だが、今では向けてくるその刃をまったく感じない。

まあ、彼女に危害を加えようとすれば話は全く別物に変わるだろうが...

「そうか、残念だな。お前と戦いたいといっている奴はオレの部下にも居るんだがな」

「それは光栄ですね」と全く気持ちの篭っていない声音で蔵馬は肩を竦めた。

「浦飯は?」

「幽助、ですか?彼の事ですから、参加するんじゃないんですかね?別に魔界の利権とかそういうのは全く興味はないでしょうけど」

「それは、楽しみだ。前回はくじで当たらなかったからな。運のいいことに、黄泉が当てたから」

本当に心待ちにしているかのような表情を浮かべて躯が言った。

「飛影はどうするか聞いたんですか?」

「出るだろう。色々と使いっ走りにされているのが気に入らないようだからな」

躯の言葉に「なるほど」と呟き、蔵馬はお茶を飲んだ。



「来たか」と躯が呟くと、ドアがノックされて人が入ってくる。

飛影だ。

「ご苦労だったな」

「お邪魔していますよ」と蔵馬。

「こんにちは」と言って
が頭をぺこりと下げる。

意外な客人に飛影は眉を上げたが、反応はそれだけで躯に先ほどまでのパトロールの報告をする。

蔵馬はお茶を飲み終わり、
も同じく飲み終わっていた。

「じゃあ、帰ろうか」

蔵馬が立ち上がり
にそういう。

「何だ、飛影に用事があったわけじゃないのか?」

反応したのは躯だ。飛影はチラリと蔵馬を一瞥したけだった。

「いいえ、顔を見に来ただけです」

蔵馬はそう言って
を見た。

彼女は頷いて立ち上がる。

「あの、お邪魔しました」

彼女も帰ると言っているので躯も強くは引きとめずに立ち上がる。

「今度はもっとゆっくり出来るときに来るといい。黄泉なんかのところに行かずに」

全く本当に素晴らしい情報網だと思いながら蔵馬は躯を眺め、飛影に視線を移す。

「何だ」

蔵馬の視線を感じて飛影は眉間に皺を寄せて聞き返した。

「いえ、これを飛影にと思ったので」

そう言いながら紙片を渡す。

飛影はさらに眉間の皺を深くしてこの紙片は何だと無言で問うた。

数字とアルファベットの羅列がある。

「雪菜ちゃんの携帯の番号とアドレスです。いつでも連絡を取ることが出来ますよ」

ニコリと微笑む蔵馬に対して飛影は無言でその紙を燃やした。要らないものだ。

飛影がそんな反応をするだろうと予想していた蔵馬は苦笑しただけで何も言わなかった。

「じゃあ、また。飛影もまた人間界に遊びに来てくださいね」

蔵馬の言葉に飛影は鼻を鳴らして返事をしなかった。そんな飛影の反応に蔵馬は苦笑する。


躯が人間界との境まで送ってくれるというのでその言葉に甘えて送ってもらい、
たちは数日振りに人間界へと帰った。

「ねえ、


「何?」

「魔界、どうだった?」

「空は..秀一の言ったとおりだったけど。でも、魔界自体は楽しかったよ。沢山の蔵馬さんのお友達にも会えたし。蔵馬さんの尻尾触らせてもらえたし」

の言葉に蔵馬は絶句する。

いや、会った妖怪の中で友人と呼べる者は少なかった。というか、少なくとも黄泉は友人と称する類には入れたくない。

そんな事を思ったが、彼女がもの凄く納得しているので仕方なく諦め、ゆっくりと彼女の認識の誤解を解こうと蔵馬は殆ど諦めに近い気持ちを胸に抱いた。



魔界訪問やっと終了。
長いな...
まあ、ヒロイン一番の収穫といえば蔵馬の尻尾のふわふわでしょうね。
あれは気持ちよかったと思う。
人間界に帰っても時々ねだりそう。
蔵馬はそれをむげに断れずに諦めの心境で尻尾をふさふさと振ってみたり。


桜風
08.6.29


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