魔界訪問 3





黄泉の屋敷は広く、日本家屋のようなそんな雰囲気だ。庭だって趣がある。

客間に案内される途中に小さな男の子が
を見ていた。

「こんにちは」

声を掛けてもその子はじっと
を見る。

「修羅」

黄泉が声を掛けた。

「息子です」

の視線を受けて黄泉は説明した。

なるほど、と頷き
は廊下に膝をついて修羅と視線を同じ高さにする。

「こんにちは、修羅君」

修羅はじっと
を見ていたが

「お前、人間か?」

と聞いたきた。

「そうだよ」

が答えると

「何で『食事』がこんなところウロついてるんだ?」

修羅が何事もないように問う。


しまった、と蔵馬が思った途端、
の体は崩れ落ちた。

暫く忘れていた。

の知っている、人間界にいる妖怪は勿論人を喰う種類ではない。

蔵馬だってそうだし、雪菜は論外だ。

幻海師範に霊力を封じられて以来、自身にも暫くそんな妖怪との接触がなかったため免疫はすっかりなくなってしまっていたのだろう。

そんな中、修羅の言葉で思い出してしまった。

亡くなった両親の事を。その、原因を。

そして、体が、脳が拒否反応を示したのか
は気を失った。

「すまない、部屋を用意しよう」

蔵馬を篭絡した女、ということで
の過去も全て調べていた黄泉は がこうなった原因について思い当たる節があり、取り敢えず彼女がゆっくり休める部屋を用意した。


の寝ている傍に蔵馬は控えていた。

暫くして黄泉が声を掛けてくる。

静かに襖を開けて部屋に入ってきた。

「魔界の法を破っているのか?」

低く蔵馬が聞く。

黄泉は元々人間を食糧としていた。

が、以前行われたトーナメントで敗退したため、その優勝者の煙鬼の決めた自治法により人間を食すことは禁止されている。それは次の大会までのものだが、まだその法の効力は失われていない。

「いや、法には従っている」

では、何故修羅はあんなことを口にした?

視線だけで蔵馬は問う。

「恐らく、この屋敷の中で誰かが息子に話したのだろう。少し昔の慣習を」

「どうしようもない教育係だな」

静かな怒りを垂れ流しにしている蔵馬が呟く。

「修羅には、言って聞かせた。分からない子じゃないからな」

その言葉に蔵馬は何の反応を示すことなく、
の寝顔を眺めていた。

「俺も、少し迂闊だったとは思ってる。すっかり平和ボケだ」

蔵馬の言葉に黄泉は反応を示さず、そのまま静かに部屋を後にした。



それから数時間して
の瞳が薄く開く。

?」

蔵馬が声を掛けると
は声のした方に顔を向ける。

凄く心配そうに眉を寄せている蔵馬の顔が目に入る。

「秀一」

「怖い思いをさせてごめん、
。帰ろう、人間界に」

蔵馬の言葉で先ほどの修羅の言葉が甦る。

それでも、以前さらりとだが聞いた幻海の言葉を思い出した。

ゆっくり体を起こす
に手を貸して蔵馬が顔を覗きこむ。

「前、ね。幻海さんから聞いたの。人間界と魔界には協定があるって」

「あるよ」

の言葉に蔵馬が頷く。

「だから、私を食べようとする妖怪も減るって...」

「減る、というのはあまり正しくないかな?元々強い妖怪は人間界に行くことは出来なかった。以前の
くらい霊感があれば自然と自分を守るための結界がうっすらだけど形成されていたはずだ。
だから、弱い妖怪が
を、その..食事の対象としてみていてもそれに手を出そうとすればそれなりのリスクが伴っていた。恐らく、それでも を襲ってきていた妖怪は下等なもので、自分と との力の差を測りきれていなかった奴らだと思う」

蔵馬の言葉に
は少し首を傾げる。

いまいち納得できないようだ。しかし、蔵馬は取り敢えず現状の説明を続けることにした。

「そして、現在。さっき
が通った道、覚えてるよね?あそこは元々人間界と魔界を遮断する結界が張ってあった場所なんだ。魔界の大統領が決まって、協定が結ばれてあそこに張ってあった結界は解除された。だから、強い妖怪が行き来できるようになったし、逆にこちらに迷う人間も増えてきた。色々と賛否両論だろうけど、今のところはその協定とこの魔界の法で秩序は保たれていると思う。魔界の法では人間を食すのは禁止されている。もちろん、その『人間』というのは魔界に迷い込んだ人間も含まれている。
さっき、修羅が言ったことは1年ちょっと前の魔界の考え方だよ。今の法が出来るまではそういう考えの下に人間を食してきていた妖怪もいる」

蔵馬は言いにくそうに
を見た。

「八つ手、とかいう...」

以前蔵馬から聞いた自分の両親を食った妖怪の名前を口にする。

蔵馬はひとつ頷く。

「あいつは、元はそんなに強くない妖怪だった。まあ、当時の俺にとっては強かったけどね。けど、さっき会った黄泉や、飛影。飛影は前に1回会っただろう?今の彼らに比べたらとても弱い妖怪だ。アイツは人や妖怪を食って強くなるタイプのものだった。食事、というよりは自身の強化、のために他者を食っていたはずだ。
ああ、ごめん。随分話が逸れた。
えーと、とにかく。今の大統領が大統領である限りは、人間を食事の対象とすることは禁止されている。だから、さっきの修羅の言ったことは今の魔界にはありえない、あってはいけないことなんだ」

は頷く。そして、蔵馬を見上げて

「蔵馬さんは、どう、だったの?」

「俺?俺は、最初から人間を糧にしたことはなかったな。興味がなかった」

そう言って言葉を区切り、

「ただ、仲間のそう言った嗜好に対しても口出しはしなかったな」

黄泉が人間を食事の対象としていても興味はなく、全く気にしていなかった。

の瞳が揺れた。

こう反応されるのは分かっていた。けど、聞かれたことは正直に答えたい。

と一緒に過ごして生きたいと思ったときから、蔵馬のことを聞かれたたら嘘は吐きたくないと思っていた。それは が自分を理解しようとしてくれている事だから。

だから、聞かれたことに対して、
が知りたいと思っていることに対してなるべく隠し事をしないようにもしていた。

バカ正直に何もかも言うなんて、本当にバカだと思うけど、蔵馬はそうすることを選んだ。

「少し、外すよ。隣に控えてるから何かあったら呼んで。黄泉が屋敷の人たちにちゃんと言い含めているから危険はないと思うけど。いいね、これは約束だよ?」

そう言って蔵馬は
を横にして静かに部屋を後にした。

は目を瞑らず天井を眺めていた。

歴史を感じさせるその天井は、幻海の寺の天井に何だか似ていた。



修羅は生まれてすぐに魔界トーナメントだったから。
ご飯はパパと同じ物ではないでしょうね。
けど、黄泉の主食がアレだったらしいので、修羅もソレになるような...
ま。すぐに自治法が出来たからそういうのはなかったでしょうけどね。


桜風
07.11.3


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