魔界訪問 4





蔵馬が隣室に入ると黄泉がいた。

少しビックリして肩が震える。

「何故、聞かれてもいないことまで話した?」

「なるべく、彼女には嘘や隠し事をしたくないと思っているからな」

蔵馬の言葉に黄泉は眉を上げる。

「すっかり、骨抜きにされたな」

「言ってろ」

そのまま暫く蔵馬は黄泉と話をしていた。

先日来たばかりだからそんなに話すことはないと思いつつ、何だかんだで魔界の情報収集をしている自分に少しだけ呆れる。


「そういえば、
は何処に行ったのだろうな」

不意に黄泉に言われて蔵馬は慌てて襖を開けるときちんと畳まれた布団が部屋の真ん中にぽつんとあった。

!?」

蔵馬は思わず彼女の名前を呼ぶが返事がない。

バッと黄泉を振り返る。

「何故言わない」

「気づいているものとばかり思っていたからな」

「彼女は今何処にいる!?」

黄泉の聴覚を以ってすれば今
が何処にいるかなんて簡単に把握できる。

「...こっちだ」

そう言って立ち上がる黄泉に続いて蔵馬も立ち上がり部屋を後にした。

黄泉に連れられてやってきたのはこの屋敷の庖厨だった。

?」

庖厨に立って
は何かをしている。すぐ傍では修羅がちょこまかと動いていた。

蔵馬に声を掛けられて振り返った
は何だか元気そうだ。

「あ、秀一。お話はいいの?」

「うん。いや、そうじゃなくて。何で此処にいるの?」

何故
はこの屋敷の庖厨に立って食事の仕度をしているのだろう?屋敷の者に視線を向けても困ったように笑うだけで状況が把握できない。

さん。客人の貴女に庖厨に立っていただくわけには参りません」

黄泉が声を掛けると
は視線を落とす。

これで引き下がると黄泉は思った。けど、蔵馬はそうは思わない。

「あの、今回だけで良いので作らせてください!」

黄泉は絶句した。蔵馬に顔を向ける。

見えないが、どうやら諦めているような、そんな雰囲気だ。

さっきまで
を心配して上がっていた心拍数も今は穏やかになっている。

「黄泉。悪いが、彼女の好きにさせてくれないか?」

蔵馬に言われて黄泉は頷いた。

「だって。
、オッケーが出たよ」

蔵馬が言うと
は黄泉に頭を下げて「ありがとうございます」と言う。

そして、漸く今気がついた。

「修羅も、いるのか?」

「え、うん。...パパは向こうに行ってて」

状況がつかめない。

「俺も、何か手伝おうか?」

蔵馬が
に声を掛けると は「大丈夫、修羅君が手伝ってくれるから」と言って断る。

に断られてちょっと驚いた表情になったが苦笑をもらして

「わかった。修羅、すまないが俺の代わりに
を手伝ってくれ」

そう声を掛けて蔵馬は黄泉を促し、庖厨を後にした。


「何なんだ、あの
は」

困惑したように黄泉が言う。自分を『食事』と称した修羅と一緒に食事を作るという。

「面白いだろう?」

蔵馬は困ったように笑った。

「どういう神経をしているんだ...」

呆れたように呟く黄泉に

「すぐに腹を括れるんだよ、彼女は。さっき俺とこの魔界の現状の話をしたし、この屋敷に来てからの雰囲気や自分で感じ取ったことから大丈夫だって踏んだんだろう。自分で決めた結果どうなるかは、他人の責任じゃないからね。というか、頼るってことを苦手としているから。
そう長くもないけど、一人暮しをしていて、一人で生きるって決めていたようだから。責任を取るのは自分で、自分のことを決めるのだったら彼女は呆れるくらいサクッと決めてしまう」

蔵馬は楽しそうに、でもどこか寂しそうに答えた。

蔵馬の言葉に黄泉はフッと笑う。

「何だ。では、お前はあの
を手に入れていないという事か」

黄泉の言葉に蔵馬は苦い思いを感じながらも

「まあ、見方によってはそうかな?」

と肯定した。

そんな蔵馬の答えに黄泉は声を上げて笑う。

蔵馬も仕方ないから笑う。

縁側でそんな話をしていると廊下を走ってくる音がして顔を向けると嬉しそうな表情で修羅が駆けて来た。

「どうした?」

「ごはん、出来たよ。
がパパたち呼んで来てって」

修羅に腕を引かれて黄泉は立ち上がり、蔵馬もそれに倣った。


案内された部屋には取り敢えず、見た目だけなら見慣れたものがテーブルの上に並んでいる。

「材料は、こっちのだよね?」

に向かって蔵馬が聞くと は頷く。それ以外あるはずがない。

「素材の味見をさせてもらったから」

は味の事を聞かれたのかと思ってそう答えたのだが、

「人の体に悪いものとか有るんだけど。...
のことだから気にしなかったんだよね?」

呆れたように蔵馬が言うと
は今更驚いた表情になる。

まあ、即効性の毒ではない限り自分が解毒薬作れるから大丈夫だと思ったし、並べられた素材の中には人間の体に悪い作用を働くものは見当たらなかったから蔵馬はあの時その場を後にしたのだが。

「一応、こちらで人間の体に毒となるもので分かっているものは除いておりますのでご心配なく」

屋敷で働くひとりが言い添えた。

一応、黄泉の客人の蔵馬の恋人ということで、何かあってはならないことくらい承知だ。

「ありがとうございます」

面倒くさいと思いながら付き合っていたのに、今の言葉にも少し棘を孕ませていたのに
は素直に礼を言う。

毒気を抜かれて彼は「いえ」と首を振ってしまった。

そんな周囲のやり取りを感じ取りながら黄泉は思う。

(この娘、毒気を抜く天才か?)

黄泉の思っていることが何となく想像できた蔵馬は

<凄いだろ?>

少し自慢げに、黄泉に向かってそう言った。



このヒロインは思い切りが良い子だと思います。
飛影が人間界の食事に文句を言わないし、
蔵馬もそんなに気にしていなかったから似てるものがあるんでしょうね。
あるに違いない!!
ヒロイン、やっぱりご飯作るのまずまずの腕前です。


桜風
07.12.30


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