| 仕方なく、その日は黄泉の屋敷に1泊となってしまった。 あのまま修羅が駄々をこねているのを相手をするのが面倒くさくて納得させるために譲歩した。 本当ならとっとと帰るところだったのに。 取り敢えず、黄泉の屋敷に荷物を置かせてもらって外に出た。 先ほどまで一緒に行くと言っていた修羅だったが、修行の時間らしく、すぐに諦めた。 一応、彼の中での優先順位は決まっているようだ。 「何処に行きたい?」 「見晴らしのいい所」 の返事を聞いて蔵馬は暫く悩み、 「わかった。じゃあ、しっかり掴まってて」 と手短に言ってまたしても を抱え上げる。 暫く駆けた後、小高い丘の上にまでやって来た。 「ね、ねえ秀一」 「何?」 またしても目を回したようで はその場に座り込む。 「今度は、おんぶにしてみてくれる?取り敢えず、さっきのだったら目がまわることが分かったから」 の提案に「分かった」と笑いながら蔵馬は頷き、 の隣に座る。 「どう?」 蔵馬に促されてやっとそこからの景色を眺める。 「う、わー...壮観」 溜息のように が呟く。 「規模だけは大きいかな?」 まんざらでも無さそうに蔵馬が付け加える。 「さっきの、癌陀羅ってどこ?」 に聞かれて蔵馬は首を巡らせて「ああ、あそこ」と遠くに見える街を指差す。 「魔界は街が少ないんだ。ひとつの国にひとつの街、って感じかな?」 説明を付け加える。 遙か遠くに小さく見える街が癌陀羅だと蔵馬が言う。 「あんな遠くからこれだけの時間で此処まで来れたの?」 驚いた が言うと 「うん、そうだね」 蔵馬がさらりと肯定した。 「蔵馬になれたら、もっと早いよ」 その言葉に は首を傾げる。 「今は違うの?」 「今は人間の、南野秀一の体だからね」 「蔵馬さんの体になれるの?」 「...まあ、一応」 ちょっと調子に乗ってしゃべりすぎたかな、と思いながらも肯定した。 「見てみたい、って言ったら迷惑?」 の言葉に蔵馬は眉を上げる。 「見たいの?」 「ちょっと」 人差し指と親指の隙間を空けて が言う。 「ビックリしない?」 少し、不安そうに蔵馬が聞く。珍しい、と は思ったけが 「ビックリするかもしれないけど、姿が変わっただけで嫌いにはならない。性格が変わるわけじゃないんでしょ?」 と返す。 「まあ、変わらないけど...」 多少好戦的になるかもしれないが、 に対して何かが変わる事はない。 「あ、でも。いやだったら良いんだよ」 何だか渋っている蔵馬に慌てて は言葉を重ねた。 「じゃあ..あ、でも。結構妖気が強くなるから。気持ち悪くなったらすぐに言って」 は霊感が強いとは言え、普通の人間で。蔵馬の放つ妖気に当てられる事があるかもしれない。 そう思って蔵馬は と距離を取った。 すぅ、と蔵馬の周囲の空気が、温度が変わる。 距離を保ったまま蔵馬が口を開く。 「 、大丈夫か?」 呆然と自分を見ている目の前の に少し不安を抱いた。 ヨロヨロ、と は蔵馬に近づく。 妖気に当てられるようなことは、今のところない。 ゆっくり歩き、そして、蔵馬の目の前に立った。 蔵馬を見上げて が口を開く。 「お座り」 蔵馬は目を瞬かせて取り敢えず、 の言うとおり、片膝をついた。 は徐に蔵馬の頭の上、つまり、耳に手を伸ばす。 軽く握ってみる。 「 ?」 「気持ち、いい...」 はにんまりしてそう呟く。 「は?」 そして、最大の目標。 片膝をついた蔵馬の後ろに回りこんでふさふさした尻尾を恐る恐る触ってみる。 「気持ちいい..!!」 嬉しそうに蔵馬の尻尾にじゃれる。 「えーと、一応聞いてもいいか?感想は?」 「可愛い!!」 蔵馬の思考が一瞬止まった。 この姿で『可愛い』と言われたのは初めてで、どう反応して良いのか分からない。 取り敢えず、真っ先に浮かんだ疑問を口にしてみる。 「褒めて、るんだよな?」 「褒めてる。やだ、可愛い!!」 が喜ぶから、つい尻尾をパタパタと動かしてしまった。 どうしよう... 正直なところ、こんな反応をされても困るばかりだ。しかし、 が喜んでいる以上、この姿でいるほうがいいのだろうか? 悶々と考えている蔵馬の様子に、何を勘違いしたのか が慌て始める。 「ごめん、蔵馬さん..ん?秀一??え、っと...気分悪いなら楽な方になって!」 そう言われて、取り敢えず といて落ち着く、人間の姿の方に戻った。しかし、何となく は寂しそうだ。そんなにふさふさした尻尾が気に入ったのだろうか? 「...どうだった?」 もう一度だけ聞いてみる。 「可愛かった」 やはり感想は変わらないらしく、 は簡潔にそう言った。しかし、すぐに「けど、」ともうひとつ言葉を重ねる。 「けど?」 蔵馬が促すと 「思ったよりも優しい目をしてたよ。昔、秀一から蔵馬さんの話を聞いたときはもっと怖い人なのかと思ったから。ちょっと、驚いた」 少し照れくさそうに が言う。 の言葉に蔵馬は眉を上げる。目が、優しかった...?全くそんな自分、妖狐蔵馬の姿なんて想像できない。 沢山の命と他人の大切なものを奪ってきたのだ。そんな表情、できるはずがない。 「秀一...?」 心配そうに が覗き込んでくる。 「気分悪くなっちゃった?ゴメン、我侭言って」 「ううん、何でもない。大丈夫だよ。 の方こそ、大丈夫?気分悪くならなかった?」 蔵馬の言葉に「大丈夫」と言って は笑う。 良かった、と蔵馬は小さく呟いた。 「ところで、空の方はどう?」 当初の目的を忘れつつあるような気がする。 蔵馬に促されて は空を見上げる。其処彼処で稲妻が地上に向かって伸びている。 「晴れるとき、あるの?」 「殆どないかな?いつも大体こんな感じ」 「太陽は?」 「んー、気にしたことないけど。魔界の明るさはいつもこんな感じだよ」 「そっか」と は呟く。 「ね、言ったとおり楽しくないだろう?」 蔵馬が言うと 「でも、稲光。凄く綺麗だよ」 が言う。 蔵馬はそうかな、と首を傾げて遠くの空の稲光を眺めた。 「私、停電は嫌いだけど、雷は嫌いじゃないな。寧ろ好き。ワクワクするもん」 「じゃあ、魔界に来て良かったってことかな?」 蔵馬が少し軽く聞くと は「うん」と頷く。そして、 「蔵馬さんの姿を見ることが出来たし。カッコ良かった!」 とにこりと笑う。 それを聞いた蔵馬は内心複雑だ。 『蔵馬』というのは自分のことで。しかし、いつも が目にしているのは『南野秀一』だから、蔵馬ではないと思う。 「 は、どっちが好き?」 子供じみた質問だと思いつつも口から出てしまった。 はきょとん、として破顔する。 「どっちも、あなたでしょ?」 今度は蔵馬が目を丸くする。そして、「参ったな...」と呟く。 は蔵馬だった南野秀一が好きだといっている。つまり、今の自分の存在そのものを受け入れてくれているというコトだ。 「ありがとう」 蔵馬を見上げて は驚く。珍しく、蔵馬は照れていた。 の『空を見る』という目的を果たしたため、癌陀羅へと帰った。 の提案どおり、今度は蔵馬が を負ぶっての移動となった。 あっという間に癌陀羅へ戻ってきたが、 の反応は行きと大して変わらなかった。 「今度はどうする?」 蔵馬が聞いてみると 「もう、諦めた...」 項垂れて が呟き、蔵馬はそうだろうなと思って小さく笑った。 |
蔵馬も南野秀一もこの時期には差があまりない状態のはずですよね。
まあ、やっぱり体によって元の身体能力の差は有るでしょうけど。
一応、妖狐になったら少し好戦的、というコトで言葉遣いが少々乱暴になっております。
蔵馬のもふもふのシッポとじゃれたい...
桜風
08.2.24
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