魔界訪問 7





癌陀羅に戻り、預けていた荷物を取りに行く。

を見つけた修羅はまたしても を引きとめようとしたが、今度は蔵馬が跳ね除けた。

駄々を捏ねて泣く修羅に
はオロオロとする。

、甘やかさない方が修羅のためだよ」

蔵馬に言われて彼女は頷く。

「また、遊びに来るからね」

「いつ?20年後?それとも100年後?」

ごしごしと涙を拭きながら修羅が問う。

単位がおかしい...

20年後と聞かれて自分はいくつになっているだろうと一瞬考えてしまった。

「えーと、それよりも早く来れる..かな?」

苦笑しながら
が言う。

この小さな修羅も妖怪だから長生きするんだな、と納得した。

「ホント!?約束だよ!破ったら殺すよ!」

満面の笑みでそう言われて
はリアクションに困る。

魔界では約束を破ったら即殺されるのだろうか...

「こら、修羅。人間にそんな事を言ってはいけないよ」

黄泉がたしなめる。

「だって、約束を破るのはいけないことでしょ?」

「だけど、こっちも都合ってものがあるからな」

蔵馬が一応念を押して
を促す。帰ろう、と。

「じゃあね、修羅君」

「うん。約束だぞ、約束破ったら半殺しだからね」

ちょっと手加減してくれるらしい。

は苦笑して手を振り、蔵馬と共に屋敷を後にした。

先ほど
が少し街並みを見てみたい、と言ったので街の中を歩くことにした。

蔵馬としては知り合いに会う確率が高いから出来れば遠慮したかったのだが、
が物凄く興味津々に言うものだから勢い余って頷いてしまった。



その日は市が開かれているらしく、珍しいものが店先に並んでいた。

「いいときに来たね」

「いつもは違うの?」

「うん。此処まで大きな市が開くのは4年に1回だったかな?まあ、開催期が10日くらいはあるけど、タイミングが合わないとやっぱり逃すしね」

蔵馬の言葉を聞いて
は先ほどよりも真剣に市を見始める。

「オリンピックみたいだね」

の呟きに蔵馬が噴出す。そういえば、そうだな。

この市は人間界の閏年に開かれている。

まだ、魔界と人間界が隔絶されていなかった時代からあったのかもしれない。だから、閏年に合わせて...

なワケないか。

少し考えて否定する。

魔族が何かに合わせて自分たちの行動を決めるなんて。というか、癌陀羅は黄泉の築いた街だから新興都市だ。一応。

4年に1回市が開かれるのは黄泉の参謀としてこちらに来たときに知った。一応、あのときの魔界に関する知識を得るためにどうでもいいことも頭に入れている。



「よー、蔵馬」

やっぱり出会ってしまった。「酎...」と少しだけ嫌そうに蔵馬は呟く。

「お?これが蔵馬の女か?へー...」

興味津々の表情を浮かべて
の顔を覗きこむ。

は驚いてそのまま固まった。大きな人だ。

<それ以上彼女に近づかないでくださいね>

人間の耳に届かない音で蔵馬が言う。

<何だよ、ケチケチするな。減るもんでもないし>

<減ります>

蔵馬がそういうと酎はかがめていた腰を伸ばす。

「本当に、お前は変わったな。聞いたときには何だか想像できなかったけどな」

ニヤニヤという酎に蔵馬は溜息を吐いて「陣が?」と問う。

「まあ、前に凍矢にも会っただろう?あいつもそんなこと呟いてたな」

「ま、褒め言葉として受け取っておきますよ」

「はは、そうしとけ」

蔵馬と酎が会話をする中、蚊帳の外に置かれた
は会話をしている2人を交互に見ていた。

何だか、蔵馬が楽しそうだ。

「ま、いいもん見れたなー。オレって幸運だな」

豪快に笑いながら酎がそういって「あ、そだ」と何かを思い出す。

「まだこっちに居るのか?」

「そろそろ帰ろうと思ってるけど。何ですか?」

蔵馬が問う。何だろう。

「ほら、お前が置いてった大きな樹。何つったっけ?あの薄ピンクの花の。あれ、また満開だぜ。あれってそんなにしょっちゅう咲くもんなのか?」

酎に言われて苦笑した。

「いいや。本来なら1年に1回、春に咲く。すぐに咲いてすぐに散るんだ。けど、アレは俺の魔力で無理やり咲かせたからね。狂い咲きは仕方ないと思うよ。でも、そうか...」

それを聞いて蔵馬は少し思案した。

「ま、こっちにたびたび来るわけじゃないなら見せてやってもいいんじゃないか?人間界にあんなのあるとは思えないし」

そう言って酎は
に「じゃあな」と声を掛けて人ごみの中に消えていった。

が蔵馬を見上げる。

「ご挨拶できないまま帰っちゃった」

が呟くと蔵馬は苦笑した。

「いいんだよ。彼らはそういうの全く気にしないから。ねえ、
。少し帰るの遅くなるけど、いいかな?」

「さっき、酎さんが言ってたところ?」

が聞き返すと蔵馬が頷く。

「うん。見てみたい」

「じゃあ、少し我慢してね」

そう言って蔵馬は
を抱え上げてそのまま地面を蹴る。

もうちょっと待ってほしかった。

少しだけ心の準備をする時間が欲しかった。

そんな事を思っても後の祭りで、
は跳ねる蔵馬に必死にしがみついていた。




帰らせようかとも思ったのですが。
もうちょっとだけ魔界に滞在。
躯にも会いたいと思っておりますので。


桜風
08.3.26


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