魔界訪問 8





が疲れるといけないから、と休憩をしながら蔵馬は昔トーナメントを行った会場へと向かった。

暫く駆けていると遠が淡く霞んでいる。

「見えてきたよ」

そう言って一度足を止めて
を下ろす。

「あそこ?」と指差しながら
は蔵馬を見上げた。よく見えないが、あそこは少し空が違う。何となく、霞んで見える。

「そう。よく見えたね」

「何となく、勘」

は苦笑しながら応えた。

の言葉に蔵馬も苦笑して「じゃあ、あとちょっと。頑張って」と声を掛けて を抱え上げ、再びそれに向かって駆けていった。

近づくに連れて花びらも舞ってくる。

それが視界に入るたびに
は嬉しそうに声を洩らした。


蔵馬の植えた桜の全体が見える丘に立って
を下ろす。

「どう?」

「え、これって森?」

「ううん、1本だけだよ」

蔵馬の返事に
は言葉を失った。

こんなに成長した木は、普通だったら樹齢何年くらいだろう。

「最初からこうだったの?」

の問いに蔵馬は頷く。

「少しくらいは大きくなったと思うけど、大体、これくらい」

蔵馬の答えを聞いて改めてその木を見る。どう見ても普通の桜だ。ただ、巨木なだけ。

「昔の家に、桜の木が植えてあったんだ」

ふいに蔵馬が口を開いてそう言った。

「今の家族は両親が再婚してできたものなんだ」

再婚だということは聞いたことがある。

「その前は、違う町にいて、違う家に住んでいた。父の記憶は殆どない。けど、母が言うには桜が好きだったんだって。だから、母も桜が好きだし、俺も、何となく好きだった。

庭の桜の木に登ってよく遊んだんだ」

は蔵馬の言葉を静かに聞いて、そして再び視線を桜に向けた。

狂い咲き。

そんな表現が合いそうな、眩暈を起こしそうなほどの壮観な桜の姿に圧倒される。

何故、蔵馬が此処に桜を植えて此処まで成長させたのかは分からない。

「ねえ、もっと近くで見ること出来る?」

が問うと、「いいよ」と蔵馬は頷いた。

再び
を抱え上げて桜へと駆けていった。



「おい、蔵馬じゃねぇか」

桜の枝の上に着地すると遥か下のほうから声が微かに聞こえた。

を見てみると、彼女の耳には届いていないようで桜を見上げて「すごーい」と声を洩らしていた。

このまま無視しよう。

そう思っていると気配が近づいてくる。

思わず舌打ちしそうになったが、それは何とか堪えた。

「ん?お譲ちゃん、人間だな?」

突然現れた人物に目をぱちくりしていた
だが、人間だな、といわれて頷く。

「ほーう?これが..なるほど、なるほど」

そう言って蔵馬を見た。

どうやら
は魔界では本人の与り知らぬ間に有名人になってしまっているらしい。

まあ、その原因はどう考えても蔵馬自身が少し名の通った盗賊の頭だったという過去もあるのだが...

「そういえば、大統領が今度お前らに頼みたいことがあるっていってたぜ」

妖怪の一人がそういう。

どうでもいいが、酒臭い。下で花見でもしているのだろう。

「俺に、ですか?」

蔵馬が問うと「と、いうか。人間界組にだな」と返されて首を傾げる。

「じゃあ、今度幽助にも言っておきます」

「おう。そういや、お前らも下で花見なんてどうだ?元々はこれはお前が植えた木だしよ」

そう言う妖怪に対して蔵馬はやんわりと断った。

彼は気を悪くした様子は全くなく、「ま、今度また来いや。どうせこの下では毎日宴会だ」と言って再び地上に降りていった。

「蔵馬さんって有名人なんだね」

が感心したように呟いた。

もね」という言葉を飲んで蔵馬は「そんなことないよ」と微笑む。

ふと、少し離れたところに百足を見つけた。移動要塞、という言葉を冠しているだけあって、一定の場所に留まっていないからこの広い魔界では簡単に見つからない珍しいものだ。

蔵馬が時計を確認していると「大丈夫だよ」と
が声を掛けてくる。

「ちょっと、寄りたいところ見つけたんだけど」

蔵馬が言うと
は頷く。

飛影はよくパトロールに出ているという。

だから、会えるかどうかは分からないが、百足に向かってみることにした。



もっと長くお花見をしようかと思ったのですが。
アレだけ立派な桜の木の下でお花見をしていない妖怪は居ないだろうと思い。
さらに、そんな妖怪たちの中にヒロインを置いておきたくないとか蔵馬は思うと思うので。


桜風
08.4.29


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