初詣(後編)





やっとの思いで、本殿まで辿りつき、賽銭箱に小銭を投げ入れて手を合わせた。

元々信心深くない蔵馬は形だけで終わらせ、あとは
のタイミングに合わせれば良いと思い、横目で を見ていた。

目を瞑って一生懸命何かを願っていた
の横顔を飽きることなく見ていると、 の目が開く。

そのタイミングで自分も手を下ろしてこちらに向かってくる人の波から外れた。

「南野くん、何お願いしたの?」

帰りはそんなに込んでいないところを選んで神社の入り口に向かう。

「んー?世界平和」

冗談を言ってみる。

「ホントに〜?」

冗談だと取った
が見上げてくる。

「まあ、冗談だけどね。
は?」

「えへへ。ヒミツです!」

「俺に聞いておいて?」

「だって、南野くんだってホントのこと教えてくれなかったじゃない?だから、おあいこだよ」

そう言って笑う。

まあ、そうかもしれない、と思いながら蔵馬は
の隣をゆったり歩いた。


「あ、破魔矢!」

先ほどよりも小規模の人ごみの中に社務所を見つける。破魔矢が売ってあるのが見えて
は指さした。

「ああ、ホントだ」

「ねえ。家に破魔矢があっても大丈夫?」

そんなことを聞かれた。

「え、何で?」

「だって、南野くん。妖怪だったんでしょ?」

なるほど、と思いつつ、覚えてたんだ...と少しだけ感心した。

何となく
の態度を見ていると蔵馬を妖怪だと思っていない感じがしていた。公平と言うか、分け隔てないと言うか...忘れているんじゃないかと思う態度だ。

「俺には大丈夫だよ」

蔵馬がそう言ったが、「あ!」と声を上げる。今度は何だろう?

「此処、お稲荷さんじゃないよ」

と、どうしようという顔で見てきた。

「いや、だから。気にしなくて良いんだって。大丈夫だから」

妖怪と神、幽霊と妖怪(お化け?)がある程度同義語となっている日本の文化のお陰で
の頭の中もしばしば混乱する。

とりあえず、
は破魔矢が欲しいらしいので人ごみを掻き分けて社務所へと向かった。

そして、破魔矢を購入した後にはぐれたときのための蛍子たちとの待ち合わせ場所へと向かった。

「本当は皆で揃ってお参りしたかったんですけどね」

と少し寂しそうに呟く蛍子。

「まあ、こんだけ人が居たら仕方ないだろ。じゃ、まあ。今年もよろしく」

残念がる蛍子を宥めて幽助が締め、お開きとなった。

「あんまり話が出来なかったね」

と少し残念そうに呟く


「いつでも会えるメンバーなんだから。そんなにがっかりしなくても良いんじゃないかな?」

と蔵馬は宥めながら家に向かう。

帰りの電車も人が多く、駅に着いたときには
はへろへろになっていた。

しかし、蔵馬の家に近づいていくにしたがって緊張が生まれ、別の意味で見ていられなくなる。

、そんな緊張しなくて良いから」

「でも。私が何かしたら南野くんの肩身が狭くなるかも」

「いや、大丈夫だって。
は、ありのままでいたらそれで十分なんだから」

そう言って蔵馬が落ち着けようとしても、どうにもなら無い状況になっているようで
の表情が硬い。

できれば、この緊張から解き放ってあげたいとも思うが、それを理由に蔵馬の家に行かないとなるとまた気に病んでしまう。

勿論、蔵馬の両親と義弟はがっかりするだろうし、お互い望む結末にはならないはずだ。


これは、本当に早々に家を出たほうがいいなと思ってなるべくゆっくり家への道を歩いた。


家に着いてしまった。

の様子をちらりと見る。緊張疲れの状態に突入していた。

玄関を開けて帰宅を告げると何故か3人が揃って出てきた。

「まあ、
さんですよね。よく来てくださったわね」

と母。

「さあ、お入りください」

と義父。

「綺麗な人だね」と小声で蔵馬に声を掛けてくるのが弟。「まあね」と返して
を振り返る。

「あの、
です。いつも、えーと。秀一さんにお世話になっています」

そう言って深々と頭を下げる。

が、

「あ、おれも秀一っていうんですよ」

と義弟が言う。このバカ、と思って
を見るときょとんとしている。少々混乱気味の表情だ。

「えーと。じゃあ、お兄さんの方の秀一さんにお世話になっています」

態々言い直さなくても...

蔵馬は一瞬脱力したが、その素直さが家族には受けたらしい。

そりゃ、態々言いなおす素直さは
の長所だし、可愛いけど。家族全員がそこを気に入るってのも何とも納得がいかないというか、しっくり来ない。

とは言え、家族が
に抱く感情は友好的なもので、それは にも伝わったようだ。先程よりは表情が柔らかくなる。

蔵馬の家族と揃って食事や話をしていたが、母が先ほどから気になっていたのか、
を別室に招いた。

「着物が少し、着崩れているわよ」

と言いながら帯を締めなおしてくれる。

「ありがとうございます。崩れているって思ったのですが。私着付けが出来ないので...」

恥ずかしそうに言う。

「じゃあ、時間のあるときにまたいらっしゃい。教えてあげるわよ」

娘も欲しかった蔵馬の母がそう言う。

「いいんですか?」

「ええ、勿論よ。いつも秀一、えーと。お兄ちゃんの方の秀一がお世話になってるんですもの。お邪魔させてもらってばかりで...」

と申し訳なさそうに言う。

寧ろ申し訳ないのは自分の方だ。違和感なくご飯を作ってもらっている。

「いえ。本当にお兄ちゃんの方の秀一さんにはお世話になっていて...」

傍から聞けば変な会話だが、本人たちは本気だ。

取り敢えず、今は受験というものがあるのでそれが終わってからという話になって、この話は終わった。

男性陣の元へと戻ると蔵馬が立ち上がる。

「そろそろ、送っていこうか?」

残りの家族は「もう!?」と名残惜しそうにするが、
が受験生であるということと、蔵馬と同じく殆ど寝ていないと言うことがわかっていたため強くは引き止められずに開放してもらえた。

は丁寧に礼を言って蔵馬の家を後にした。

帰りながら先ほどの蔵馬の母との話をすると、蔵馬も賛成する。

「やっぱり女親は女の子が欲しいんだろうね。俺や秀一だと物足りないんじゃないかな?良かったら付き合ってあげて」

と言われ
は、こちらこそお世話になっていいのだろうかと恐縮していた。

良くも悪くも人に気を遣う
に苦笑を漏らす。


そして、
の家に着いて最後の最後に、

「ねえ、南野くん。帯が解けないの。解いてもらえるかな?」

蔵馬は
に脱力させられた。

「いいけど...」

色々と思うところはあるけど、それは抑えて、慣れない着物の
の着替えを手伝ったのだった。


蔵馬も男の子ですから(笑)
出来ればお代官様ごっこがしたかったでしょう(殴)
蔵馬ファンの皆さん、ごめんなさい...


桜風
07.1.17


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