お墓参り(前編)





本日快晴。絶好のお墓参り日和だ。

はいつもより早く起きて、せっせとお弁当を作成する。

両親の墓のあるところはのどかで気持ちいいのだ。今日みたいに暖かい日は外で弁当を食べたら美味しいだろうといつも思っていたのだが、遠くて少々険しい道のりなのでなるべく軽装を心掛けていたためお弁当は持っていかないようにしていた。


時間前に全ての準備を整えてマンションの下で待っていると、蔵馬の運転する車が走ってくる。

クラクションが鳴り、近づいて
は一旦立ち止まる。

「どうしたの?乗って」

蔵馬が運転席から助手席のドアを開けて促す。

「お邪魔します」と言いながら
はそれに乗り込んだ。

「あ、荷物は貸して。後ろに置こう」

言われるままに自分の荷物を蔵馬に渡した。


車を走らせていて、蔵馬は悩み始めた。

何だか落ち着かない
に蔵馬は疑問を持つ。さっきから目も合わせてもらえていない。

何故かずっと地図を眺めていて話しかけてもそれから顔を上げようとしない。

折角のドライブもこれではつまらない。

「ねえ、


「何?」

やはり顔を上げない


「何で、俺を見ないの?」

少し苛立った声の蔵馬に
も少し焦る。そりゃ、怒られるだろう。もし、自分がそんなことされたら寂しいと思う。

けれども。

「何で」と聞かれて
は答えられない。というか、答えづらい...

今日の蔵馬は何故かスーツだ。そして、それはとても『オトナ』な雰囲気を醸し出していつもの蔵馬とは違う感じがして何だか恥かしい。

「南野くんは、何でスーツ...」

「え?ああ、おろしたてなんだ」

いや、そんなことは聞いてない...

「私、ホラ。フツーの格好だし」

毎回の事ながら、お墓参りのときは歩きやすいようにジーパンにスニーカーという格好だ。

「いいんだよ、
は。俺は、スーツを着たかったんだよ。 の御両親に初めて会うんだから」

そんなことを言われて
の頬が熱くなる。

先日、蔵馬の誕生日を祝った日の帰り際に言われた言葉を思い出した。

蔵馬もそれで、
が顔を上げない理由を察した。見慣れない服を着ているから、どうも居心地が悪いようだ。

が、これだけは蔵馬にも譲れない。

今朝も、一瞬どうしようかと思った。

動きやすい格好でと言われていたため、スーツはそれに適さないと思う。

だけど、やはりこれで来た。


車は快調に進み、途中で花を買って
の両親の眠る寺までやって来た。

正しくは、『寺のふもと』までだが。

車を置いて蔵馬は「あー...」と何やら納得したような声を漏らした。

ああ、確かに動きやすい格好でないと大変そうだ。

寺は急勾配の坂の上にあり、お年寄りに優しくないところに位置する。道はあまり整っていない。

それでも、大きいらしくこの辺一帯は殆どが檀家さんで寺の維持には困っていないようだ。

墓参りに関しては、毎日住職が経をあげてお参りしているので、殆ど訪問者がないそうだ。

まあ、あの幻海師範の知り合いだ。山の上に住んでいるのは共通のポリシーでもあるのかもしれないが、訪ねる者の身になってほしいものだ。

「ねえ、南野くん。本当に大丈夫?」

「え?」

先ほどのことを考えていたため、
の言葉を聞き返す羽目になった。

「だから、靴とか、スーツとか。汚れちゃうよ?」

「ああ、大丈夫だよ」

そう言って微笑む。

この表情の蔵馬には何を言っても流されることが分かっている
はそれ以上強く言わずに「そう?」と返事をして会話を終わらせた。

蔵馬は
の後ろをついて歩き、坂を登りきったところに立派な寺の門が構えてあった。

ちょっと派手じゃないか?と思いつつ黙って
の隣を歩いた。

「ちょっと待ってて。お寺の人に挨拶してくる」

そう言って駆けていく
の背中を見送った。

は寺の人と話しをしている。

住職らしき人が出てきた。彼と目が合う。住職は目を眇めて、イタズラっぽくにやりと笑った。

「じゃあ、行こう」

住職と挨拶を済ませてきた
は水を汲んで杓を持って歩いていった。蔵馬は只管 の後ろをついて歩く。

寺から少し離れたところにある墓地には、全ての墓に必ず花が供えてあった。中にはごうかな花が供えてあるが、それは今回の
のようにお参りに来た者が挿していったもので、それ以外は住職が必ず供えているそれだった。

の両親の墓にも他の墓と同じように花が供えてある。

テキパキと花を供えていた
だが、「あ!」と声をあげる。

「何?」

「火。火忘れちゃった。ちょっとマッチかなんか借りてくる」

「俺が行こうか?」

「ううん、大丈夫」

そう言って
は少し離れたところにある寺を目指していった。

1人残された蔵馬は
の両親の墓に向き直る。

幻海師範がコエンマに聞いたそうだ。
の両親の魂は今何処にあるのか。

心配で中々霊界に行こうとしなかったが、
が高校入学を果たしたごろに、安心したのか成仏したらしい。

「あなたたちの
は、俺が全ての悲しみから守ります」

小さく、口の中でそう告げる。

程なくして
が戻ってきた。

「チャッカマンを特別に貸してもらえたよ」

特別なのか...?

そう思いつつ、
を見守った。

線香に火をつけて手を合わせる。

お参りを済ませて寺に戻る途中、
がまたしても声を上げる。

「何?」

「ごめん、忘れ物。先戻ってて。ご住職さんがお茶飲んでけって言うから寄っててね」

そう言って走って戻って行った。

蔵馬は軽く溜息をつくと共に肩を竦ませて言われたとおり先に戻っていった。


その蔵馬を確認して
は両親の墓に戻る。

「お父さん、お母さん。大学に受かりました。ちゃんと進学するように幻海さんに諭されちゃった。あとね、凄く大切な人が出来ました。さっき一緒に居た人。南野秀一くんです。んー、でも実は妖怪で、名前は蔵馬っていうらしいんだけどね。全然怖いとかそんな感じしないの。凄く、優しいよ。だから、心配しないでね。また来ます」

両親の墓に向かって語りかけ、そして寺に向かった。


蔵馬とお墓参り。
絶対にスーツを着てお墓参りしてほしいです。
ご両親に挨拶ですからね!
そして、蔵馬のスーツはあんまり汚れなかったと思います。
何となく、そんな感じ。


桜風
07.3.21


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