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に言われたとおり、寺の事務所へと向かった。 そこへ行くと住職が待っていた。ニコニコと笑っている。 「貴方は、妖怪ですね?」 その笑顔のままそういわれた。 不意を突かれた蔵馬は一瞬言葉に詰まったが 「ええ、そうです」 と頷く。 「ああ、やはりそうですか。 さんはそれを御存知なのですか?」 「はい、知ってます」 「そうですか。 さんの御両親はどうして亡くなったかも?」 「知ってます」 「そうですか」 そういう会話をしながら住職が茶を淹れてくれた。 「ああ、お茶請けが。お煎餅とお団子と人。どれがいいですか?」 そう聞かれて蔵馬の眉間に深く皺が刻まれる。今、『人』と言ったか? 「...団子です。貴方は、どれですか?」 蔵馬が質問を返す。 「私も、お団子ですかね?」 そう言いながらも笑顔を崩さない。 「貴方も、妖怪というコトですか?」 今度は蔵馬が質問をする。 「ええ、そうです」 住職は隠すことなく深く頷いた。 しかし、不思議だ。 は初めて蔵馬を見たときに妖怪だと勘付いた。妖気を感じ取っていた。 それなら、この住職の妖気が分かってもおかしくないと思ったのだが、事実、自分も話を振られるまでこの住職が妖怪だという事は分からなかった。 蔵馬の視線を受けて住職が頷く。 「結界ですよ。幻海師範が施してくださった。私は、ある妖怪の率いた盗賊団に自分の集落を奪われて、逃げている途中に別の妖怪に捕食されそうになったんですよ。ほうほうの体で人間界に逃げ延びたところに、気まぐれに幻海師範に助けられました。人として過ごすのは得意だから、こういう形で生活しているのですよ」 住職の話を聞いていた蔵馬が搾り出すように 「俺、ですか?」 と掠れた声を出す。 「ええ、妖狐蔵馬に集落を奪われました。というか、集落を壊滅させたのが、その一団だったのです。今では魔界三大妖怪と呼ばれている黄泉も居ましたね」 「昔のことで謝ったりする気はない。が、 には危害を加えないでくれ。彼女は人間だし、何も悪いことはしていない」 まさか、昔の魔界での自分の行動がこんな形で巡ってくるとは... 突然目の前の住職が噴出した。 「まさか、あの大妖怪の蔵馬にそんなことを言われるとは思いませんでしたよ。忘れたんですか?魔界では弱肉強食がルールでしょう?弱いものが強いものに淘汰されるのが当たり前です。だから、恨んだりしてません。それに、八手は貴方が倒したと聞きましたよ」 そうやんわりと言った。 蔵馬が頷くと、 「私に重傷を負わせたのが八手です。集落を奪われても家族は生きてました。しかし、八手に喰われました。だから、どちらかといえば、八手の方が憎いですね。もう居ないんでどうでもいいのですが...」 そう言う。 「 さんのご両親の仇を、貴方は偶然とは言え、討った。そして、 さんがあんなに楽しそうに生活しているのは貴方の存在も大きく影響していると思います」 そう言って住職が湯飲みを手にとってズズッとお茶を啜る。 「 さんは、私の命の恩人の孫。のような存在です。そんな子にどうして危害を加えることが出来るんですか?」 「ありがとう、ございます」 蔵馬は頭を下げた。 「それに、幻海師範に頼まれているんですよ。人の寿命は短い。だから、師範が亡くなった後は、私が さんの後見人になるんです。成人しても後ろ盾が有ると無いとでは世間の反応も違いますからね」 住職の言葉に蔵馬も納得する。 そして、口を開きかけて人の気配がして湯飲みに手を伸ばす。 「遅くなりました」 そういいながら がやってきた。 「お帰り。忘れ物は見つかった?」 「うん。あ、チャッカマンありがとうございました」 そう言いながら は住職に借り物を返す。 「お役に立てたようで。これは、 さんだからお貸しするんですよ?」 イタズラっぽく笑って住職がそう言い、急須にお湯を入れる。 「住職さんと何の話をしていたの?」 2人で黙って向かい合ってお茶を飲むと言う考えは無い。きっと何か話をしていたんだろうと思い、 が蔵馬の顔を見ながら聞く。 蔵馬は何て言おう、と思っていたが 「人の縁とは不思議なものですね、とお話していたのですよ」 と急須を傾けながら住職が助け舟を出す。 「『縁は異なもの味なもの』ですね?」 「ええ、そうです。彼は幻海師範ともお知り合いだと聞きました」 『縁』について住職と が盛り上がっている。 <このタヌキめ> 人間の可聴域を超えた音で蔵馬が呟く。 <あ、それ正解です> 住職は器用にも、 と会話をしながら同じように妖怪のみに聞こえる可聴域の音で蔵馬にも返事をする。 『正解です』ということは、この住職はタヌキの妖怪か何かか... そう思いながら蔵馬は湯飲みの中の茶を飲み干した。 確かに、 は妙な縁を結ぶ体質だな... 「おかわりは如何ですか?」 「頂きます」 もうひとつの会話は何でもないように2人は言葉を交わす。 お茶を飲んで話をして。 そろそろ帰らないと渋滞に巻き込まれるかもしれないという蔵馬の言葉を受けて寺を後にすることにした。 寺の門まで住職が見送りに出てくれて、 「あ。く...」 『蔵馬』と言いかけて言葉を飲んだ。 「『く』?」 が聞き返すと 「あー、いえ。彼氏さんのお名前は?」 「南野、です」 今、『蔵馬』って言いそうになっただろ... と思いながら笑顔で応える蔵馬。 「ああ、そうそう。あの、お願いがあるのですけど...」 そう言いながら手招きをする。 「先に戻ってて。すぐに追いつくと思うけど」 そう言いながら蔵馬はポケットからキーケースを取り出して に預ける。 「わかった」 と言って は階段を下りて行った。 「で?何だ?」 「幻海師範、案外長くないかもしれません」 唐突にそういわれて蔵馬も言葉を失う。 「タチの悪い」 「冗談ではありません。と、いっても確証があることでもありません」 そう言って言葉を切る。 「何故、そう思うんだ?」 「最近、幻海師範が さんの後見の話をよくするようになったんですよ。今までぼんやりと決めていたことだったのに、それに輪郭をつけるように」 「幻海師範自身が、何かを感じているってことか?」 「まあ、お年ですから。孫の将来が心配になったのかもしれませんけど。だから、今日。私は貴方と話をしたのですよ」 住職の言葉の真意が分からず視線で話の続きを促す。 「貴方が、 さんのことを知らずにただ何の覚悟も持たずに一緒に居るだけなら、刺し違えてでも貴方を殺してしまおうと思ってました」 笑顔でそう言う。 「それは...」 流石の蔵馬も絶句した。そこまで考えて会話していなかった。 「でも、貴方は私に頭を下げた。プライドの塊だったあの、妖狐蔵馬が小者の私に。だから、安心しました。私は殆どこの山から下りることはできません。だから、信頼できる人が さんの側に居てほしいって思っていたんですよ。私の話は以上です。そのとき、貴方が さんを支えてくださいね」 住職の言葉に 「誰に、言ってるんだ?」 蔵馬は不敵に笑ってそう答えた。住職は微笑んだまま深く頷いた。 「...では、また」 住職はそう言って寺の中へと向かい、蔵馬も を追って寺を後にした。 |
狐と狸の化かしあい。
幻海師範の知り合いのご住職さんは妖怪でした。
まあ、幻海師範は敵も多いけど、それ以上に味方が多い人だったようですからね。
桜風
07.3.28
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