| マンションの入り口で
は鞄を広げる。鍵を探していると、オートロックのドアが開く。 付き合い始めて少しして蔵馬に渡した合鍵で先を越されたのだ。 ちょっと不満そうに蔵馬を見上げた。 蔵馬は苦笑を漏らしてどうぞ、とジェスチャーをして を促す。 エレベータの中で鍵を探し出したは意気揚々と自分の家に向かった。 「どうぞ」 玄関を開ける 。 部屋の中からも甘い香りが漂ってきている事に気付いて慌てて家の中に入って行き、窓を全て全開にした。 「なんだろう、この香り」 窓を開けてもこもっている香りはすぐには消えず、蔵馬はそれが気になって仕方が無い。 「ごめん、寒いけどちょっと我慢してね」 「いや、大丈夫だから」 ああ、と思い出す。 この香りはカカオの香りだ。普段ココアは飲まないし、チョコレートもあまり口にしないから中々思い出せなかったけど、やっと謎が解けて落ち着く。 「どうしよう。ちょっと早いけどもう作ろうか...」 着替えて戻ってきた が聞く。 「そうだね」 蔵馬が賛成したため、 はエプロンを着て台所に立つ。 そして、リビングでは蔵馬が頬杖をついて を見つめている。 「あの、南野くん」 居心地悪そうに視線を彷徨わせながら手を止める 。 「ん?」と笑顔で返す蔵馬に 「凄く、やりづらいんだけど...テレビでも見ててよ」 「えー。俺はこの方が良いんだけど?」 蔵馬が抗議の声を上げる。珍しい。 しかし、 にしてみれば、蔵馬の整った顔で見つめられると照れるし緊張する。何だか居心地が悪くてもぞもぞしてしまう。 「ダーメ。お願いだから」 のお願いに弱い蔵馬は「仕方ないな」と言いながら席を立つ。 テレビに向かって斜めに座り、電源を入れる。 この角度なら、 の顔も見ることができる。蔵馬が席を移動したので安心したらしい は、既に蔵馬の視線には気付かない。 ちょっと前まではこんな時間ももっとあったのになぁ、と思い出していた。 の周りの時間はゆったりとして、とても心地よい。そのくせ、あっという間に時間は過ぎる。 何だか、理不尽な気がするほどに。 「南野くん、できたよ」 声を掛けられて立ち上がった。 分かっていたけど、声を掛けられる前に立ち上がったら不審に思われるかもしれない。 「さあ、召し上がれ」 自信満々にそういう に蔵馬は手を合わせて「いただきます」と言って鍋に手を伸ばした。 「そういえば、 。いつも夕飯どうしてるの?」 すっと気にかかっている話題を振る。また、ここで面倒くさいから食べてないと言おうものならそれこそ毎日通ってやろうかと思っていた。 が、 「作ってるよ。勉強の間の気分転換に。2日に1回スーパーへ買い物に行ってるし。さすがに今の時期体を壊すわけにはいかないからねー」 そう言って笑う。 蔵馬は安心したと同時に、なーんだ、と少しつまらない気分になる。両親が亡くなって1人で暮らしていた は、ずぼらなところが有るけど、生活に関しては意外にもしっかりしている。 料理の腕前はともかくとして... 締めの雑炊までがっつり食べた2人はかなりの満腹状態だった。 「やばい...」 うめく 。 「ちょっと食べ過ぎたね」 意外と平気そうな蔵馬。 の様子を見て小さく笑う。 「じゃあ、片付けは俺がしとくよ」 鍋を持って流しに向かう蔵馬に は 「ごめんねー、お客様に」 うめきながら声を掛けた。 「何か飲む?」 洗い物をしながら蔵馬が声を掛けると、 は手を振って不要を訴える。 片づけがすべて終わり、ソファに腰掛けると もよろよろと立ち上がり、蔵馬の隣にちょこん、と座った。 「どうしたの?」 「ううん。此処が良いの」 こてん、と蔵馬の肩に頭を乗せる。 「眠いの?」 「かなり...」 「じゃあ、もう寝ちゃったら?」 「ううん。食べてすぐに寝たら牛になっちゃうから」 そう言いながらも はうつらうつらしている。 「南野くん、あったかい」 寝言とも、そうでないとも区別がつかない一言を境に、 はすぅすぅと規則正しい呼吸を始めた。 「牛になるんじゃなかったのかな?」 小さく笑いながら蔵馬は傍に置いていた自分のジャケットを を起こさないように掛けてやった。 |
蔵馬の肩に寄りかかって寝てみたいです、私。
何か、凄く気持ちが良さそうですよね...(妄想中)
ヒロインが羨ましい。
桜風
07.2.7
ブラウザバックでお戻りください