クリスマス(後編)




随分と走ってバイクが止まった。

ヘルメットを外した蔵馬は体を捻って「着いたよ」と
に声を掛ける。

一生懸命蔵馬にしがみついていた
は体が固まっていてギシギシいっている感覚だ。

そんな
の様子に「怖かった?」と不安そうに聞いてきた。

「ううん、初めてだったから」

体をはがして蔵馬に笑みを返す。

バイクを降りるのを手伝ってもらってやっと地に足をつける。

ヘルメットを取ると外の空気がひんやりとして気持ちがいい。

「ほら、あっち」

蔵馬の指差す先を見れば、街の明かりが広がっており、太陽の光を反射する水面のようにも見える。

「すごい!こんなところがあるなんて知らなかった!!」

ははしゃいだ風にそう言い、目の前に広がる景色に目を細める。

「喜んでいただけたようで」

恭しい礼をを取った蔵馬に
は噴出した。そして

「良かった。勉強漬けにしなくて。たぶん、今日が一番きれいなんだよね、この景色って」

蔵馬を見上げる。

「たぶんね」と答えながら
の肩を抱き寄せた。

再び蔵馬のぬくもりに安心感を覚えた
は目の前がぼやけてくる。

「あ、あれ?」

の声に蔵馬が目を遣ると、何故か が泣いている。

「え、どうしたの!?」

慌てる蔵馬に対して

「わ、わかんない。何か凄く安心できて...どうしよう!?」

も錯乱気味。

しかし、
の言葉を聞いた蔵馬は とは反対に落ち着いてきた。

「そう。俺も
と一緒にいられると安心するよ」

と言って抱きしめる。

「南野くん。心臓の音がする」

「うん」

「凄く落ち着く」

「そう?」

蔵馬は蔵馬で
の声が響いて少しくすぐったい。

少しの間そうしていて、蔵馬が口を開く。

「あのさ、店予約してるんだ。そろそろ行かないと間に合いそうもないんだけど...」

遠慮がちに言うのは
の目が腫れたままだから。

「え!?ちょ、まって!!」

そう言って慌てて蔵馬から離れ、手で扇いで風を顔に送る。

少し離れたところに自動販売機を見つけた蔵馬はそこで冷たい飲み物を購入して
に渡す。

「早く腫れが治まると良いよね」

と言う蔵馬を
は半眼になって見つめながら目頭にそれを当てた。


蔵馬が予約した店は隠れ家的な雰囲気を持ったイタリアンレストランだった。

クリスマスイヴにこんな店の予約が取れた蔵馬に感心する。

「よく知ってたね、こんなステキなお店」

店内を見渡しながら
がそう言う。満足そうな笑顔の彼女に蔵馬も安心する。

「まあ、ね。気に入ってもらえたようで嬉しいよ」

食事中もずっと上機嫌の
に蔵馬も何だか嬉しかった。

食事が終わって時間を見ると、もう遅い時間だ。蔵馬的には遅くないが、いつも自分が
の家を出る時間を過ぎている。

「じゃあ、帰ろうか」

やはり夕方からだから時間はあっという間に過ぎていってしまった。

「え!?」

は驚いて店内を見渡し、時計を見つけて「もうこんな時間かぁ...」と寂しげに呟いた。

しょんぼりと言う
に苦笑して店を後にした。

バイクで
のマンションまで送り届ける。

バイクを降りてヘルメットを外した


「南野くん、ちょっと家であったまってかない?」

と声を掛けてきた。

「じゃあ、少しだけ」

そう言って蔵馬は返事をし、
に言われたところにバイクを停めて と共にエレベータに乗った。


はいつものように、玄関を開けて「どうぞ」と促す。

より先に玄関に靴を脱ぎ、勝手知りたるリビングへ向かった。

電気カーペットのスイッチを入れて、お湯を沸かす。

「南野くん、コーヒーでいい?」

「うん、ありがとう」

スイッチを入れてくれたカーペットに座り込んだ。

先ほどバイクから取り出しておいた
へのプレゼントの存在を上着のポケットの中で確認してそれを脱ぐ。

少ししてマグカップにコーヒーを入れて
がやってきた。

「ケーキ、買って帰れば良かったね」

「そうだね」

そう言って湯気の立つコーヒーを一口飲んでマグカップをテーブルに置いた。



傍においていた上着のポケットから小さな箱を取り出した。

「何?」

「これ。クリスマスプレゼント」

そう言って渡された箱と蔵馬を交互に見る。

何度かそれを繰り返した後、「あ!」と声を上げて先ほどまで持っていた鞄の中から蔵馬のものより少し大きめのそれを取り出した。

「私も。メリークリスマス!」

そう言って渡す。そして、自分が貰った箱を大切そうに手で包み込み「えへへ」と嬉しそうに笑っている。

「ありがとう、
。開けてみてもいい?」

「どうぞ!私も開けるね」

「どうぞ」

そう言って2人は貰ったプレゼントをそれぞれ開け始めた。器用に包装紙を剥いでいく蔵馬に対して、
は一生懸命だが上手くいかない。

が苦戦している間に蔵馬は箱を開けた。そこには腕時計が入っていた。

シンプルで、使いやすそうなそれは、自分の好みだ。そして、
もクリスマスプレゼントに腕時計を選んでいたことに驚いた。

一方
はやっと箱を開けることが出来た。

そして、「わぁー」と目を輝かせる。かわいらしいけどシンプルで。時計の文字盤も読みやすく、使いやすそうな腕時計だ。

「可愛いよ!」

そう言って満面の笑顔を蔵馬に向ける。

「うん。貸してみて」

そう言って
から腕時計を受け取り、 の腕に嵌めてやる。

「少し大きかったかな?」

「これぐらいが楽で良いよ」

と言って自分の腕に嵌った腕時計を満足そうに眺める。

「あ、南野くんの。私つけたい」

が申し出たため、蔵馬は自分が貰った腕時計を差し出す。

蔵馬の腕にそれをつけながら首を捻る。

「大きかった?」

「少しね。でも大丈夫だと思うよ。ありがとう」

そして、今着けてもらった時計を見た。

「じゃあ、俺そろそろ」

コーヒーを飲み干して立ち上がる。

自分はともかく、
は明日も補習授業がある。

「え!?あ、うん...」

残念だという気持ちがこれでもかってくらい表れている今の
に蔵馬は苦笑をした。

背を屈めて
の額に唇を落とし、上着に腕を通した。

も立ち上がる。

「いいよ、ここで」

「いいの。下まで送る」

の主張を無碍にする気になれない蔵馬は「はいはい」と返事をした。

マンションの前で蔵馬がヘルメットを被り、バイクにまたがる。

ヘルメットのシールドを上げて「じゃあ、風邪を引かないようにね」と言った蔵馬に
が無言でヘルメットを取るしぐさをする。

何事かと思い、ヘルメットを脱ぐとすぐ傍の
が背伸びをして限りなく口に近い蔵馬の頬に唇を当てる。

足早に蔵馬から距離を取って、

「今日はありがとう、南野くん」

と真っ赤な顔で告げたあと、踵を返してマンションの中へと消えていった。

残された蔵馬は先ほど
の柔らかい唇が触れた箇所に手を当てる。

「やられたな」

笑みを含んだ声でそう呟いた。



クリスマス。
ヒロインが蔵馬のほっぺにチューを書きたくて書いたのでした(笑)
そのためだけの前後編って...(苦笑)


桜風
07.1.4


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