薔薇姫の戸惑い4





翌日、蔵馬が学校へ行くとクラスメイトが少し興奮して話しかけてきた。

「薔薇姫のトゲが抜け始めたぞ!」

そんなことをいう。

実際、玄海に力を封じられて気が軽くなったのか、
の雰囲気は柔らかくなってきていた。

「で?薔薇姫のトゲが抜け始めたってどういうコトだよ?」

一緒に居た別のクラスメイトが聞く。

「さっき、俺は何もないところで躓いてこけた」

「やばいな、それは。病院に行くか?」

「まあ、聞け。そのときな。薔薇姫が近くに居たんだ。俺がこけるついでに放り出してしまった鞄を拾って
『大丈夫ですか?』って声を掛けてきたんだ。今までだったら鞄を端に寄せるだけで終わっていたのに!!」

「確かに、薔薇姫の雰囲気は変わったよな。何かあったのかな?」

クラスメイトに話を振られ、蔵馬は「さあ?」と返しておいた。
の変化するのは喜ばしいことだ。だが、蔵馬は手放しに喜べない自分に少し戸惑う。

「あー、でも。そういえば。2組のヤツが彼女に告白するって言ってたな」

1人が思い出したように呟く。

「あ、俺も聞いた。けど、アイツ女グセが悪いって評判だよな」

「ああ、それも聞いたことある。薔薇姫、大丈夫かな?」

気が気でない発言を聞いてしまった蔵馬はその日の授業に全く集中できなかった。


数日後の放課後。

帰ったはずの噂好きのクラスメイトが教室に戻ってくる。

日直だったためにまだ学校に残っていた蔵馬は偶然にも彼の噂を耳にすることが出来た。

それは、『例の2組のヤツが薔薇姫を呼び出した』というものだ。

蔵馬はそのまま走って教室を出た。

告白の場所までは聞いていない。闇雲に校内を探し回ってやっと見つけた。

中庭の校舎の影で人の声が聞こえた。

片方は知らない声だが、もうひとつは聞きなれた
の声だ。けどそれは、切羽詰った緊張感を含んでいる。

校舎の角を曲がると
は背を壁につけており、2組のやつと思われる男が の顔の両側に手をついて逃げられないようにしている。

明らかに嫌がっている
の姿を見てカッとなった蔵馬は駆け出し、 を庇うように前に立った。

「何だ、てめぇ」

凄まれても蔵馬はちっとも怖くない。

けど、今自分が背に庇っている
は蔵馬の背中のシャツを掴んで小さく震えている。

それだけで、コイツは極刑に値する。

そう思った蔵馬だが、相手は普通の人間。自身を落ち着かせるように目を瞑る。

「お前こそ何をしてるんだ?彼女、震えているじゃないか」

ゆっくりと目を開き、目の前の男を見る。

「てめぇには関係ねぇよ。品行方正、成績優秀な南野秀一クン?」

小馬鹿にしたようにいう同級生を睨む。

自分が馬鹿にされるのは全く構わない。端からコイツを相手にする気がないから。けど、
を怖がらせたことは許せない。

「お前は、彼女に何をしようとした?」

「ぁあ!?」

「お前が、
に何をしようとしたのか。俺はそれを聞いているんだ」

なるべく殺気を抑えて言ったつもりだが、なにやら伝わるものがあったらしく、その男は転ぶように逃げていった。

必死に立っていた
の気が抜けたのか、蔵馬のシャツを掴む手が緩んでその場にストン、と崩れる。

、大丈夫か? !?」

極度の緊張から開放された
はそのまま気を失った。


「あれ...?」

目が覚めるとそこは知らない天井がある。

「気がついた?開けても大丈夫?」

カーテンの向こうの優しい声に安心する。

「うん」

体を起こしながら答えた。

カーテンが開くと差し込んできた西日に目が眩む。

「うん、顔色も悪くない。鞄は教室から持ってきてるから」

そう言って後方の机を見遣った。

鞄がふたつ並べておいてある。

「先生は?」

「職員会議だって。それが終わるまでに帰るんだったら戸締りをしてくれといわれた。どうする?もう帰る?」

そう言われて少し考えた
は「帰る」と告げてベッドから降りた。

「おっと」

まだ足元が覚束ない
がよろけると蔵馬が受け止める。

すっぽりと彼の腕の中に納まってしまった。

さっき、別の人では怖かった。けど、蔵馬が相手だと怖くない。寧ろ...

「ご、ごめん!!」

「いや。本当に大丈夫?俺、時間があるから気にしなくていいんだけど?」

耳まで赤くなっている
を楽しそうに眺めながら、蔵馬がそう言い、 で「大丈夫!」と意地を張っていた。


余裕があるんだか無いんだか分からない蔵馬。
余裕綽々の彼も素敵だけど、私は余裕が無くて誰かのために走っている
彼の方が好きかもしれません。
わっかいね〜って感じで見守れる(笑)


桜風
06.12.6


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